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「……貰ったんだ」

【近衛翠】コノエミドリ


 ミュータント。その能力の詳細はあまり明かされていない。手提げ鞄の中から十三冊超の本を取り出したりしているので、四次元に関する道具を所持してるのか空間に関する能力を所持しているか。いずれにしても、ほとんど自分の事を語らない。二つ名は『書物管理人』

 常に本ばかり読んでおり、書物から得た知識は翠を博識にしている。教師ですら翠の情報を把握しきっておらず、ミュータント能力の欄ですらただの推測。詮索しようとすると鞄のフルスイングで攻撃されてしまう。


 家はかなりの豪邸で、お手伝いさんも沢山居る、という噂。外国人の友人が居る、という噂。性別の判別し辛い見た目だが、実は半陰陽、という噂。噂の種は尽きないが、真実は何も分からない。

 妙に交友関係が広いのも、得体が知れない翠をまた不気味にしている。ちなみに、本の次に胡桃が好き。

 金銭的余裕がある、現在地がゲームセンター、ゲーム好き。という要素がこの瞬間見事に揃ったヤマトは、普段からは考えられない程に遊びに没頭している。ただし、あまり上手くはない。

 冬樹は基本的にはヤマトにくっ付き、協力したり邪魔したりと、賑やかにしている。日頃の鬱憤を晴らすように、ゲームの中でヤマトを攻撃する時の冬樹の顔は、実に晴れ晴れしている。

 彼方は特に何をしよう、という事は無い様子。ただ二人を観察し、たまに参加を表明する位だ。時々ノートパソコンを取り出して何かをしているが、内容を確認しようとすると上手いタイミングで閉じられる。作業が早すぎる……

 ……ん、卍?

 ゲームの記録を軒並み更新し、賞品を軽々ゲットし、あまりの腕前に店員一同から土下座をされる形で出禁を貰ったそうだ。現在、最初の集合場所でぼんやり待っている。

 そんな主人達が楽しむ中、人工知能達は中々どうして退屈である。何せ、人工知能が退屈を紛らわす方法が無いから仕方無い。


《……ヤマトは楽しそうですね》


《ですわね》


 甕覗と猩々緋は、今は主人の携帯端末から離れ、彼方のノートパソコンの中でくつろいでいる。

 つまり電子の世界だ。人工知能達の生活圏兼仕事場のような所で、無論普通の人間が入る事は不可能だ……む、なんだその顔は。

 ああ、何故君達がここに居るか、疑問なのか。なら答えよう、君達はミュータントの利便性を甘く見てはいないか?

 ……流石に便利過ぎる? そうだな、すまない。まあ、ミュータント能力がこれらを可能にしているのだと記憶してほしい。

 閑話休題、話を電子の世界に戻そう。ノートパソコンの中には、既に人工知能が二人居る。普通に考えたら、彼方と卍の人工知能という事だが……


《……そっくり、なんですね》


《一応、扱いは双子なっているそうよ》


 青に近い色と、緑に近い色をした目と髪を持つ、瓜二つの人工知能。


《初めまして!》


 一切の違和感無く、同時に話した。息が合っているの域で納得して良いのか?


《青いのがコバルトブルー、緑がコバルトグリーン。現代の技術で再現可能な範囲で最も性能の良い人工知能だとか。どちらも躑躅彼方の人工知能よ》


《それはそれは》


 現在の技術がそもそも並外れているのだが……

 そもそもミュータントの能力を頼る事が出来るなら、性能などいくらでも上げられる。やはりミュータントの力は大きいのだ。


《あ、誤解の無いように言うけども》


 二身一体と言うべきか。本当に鏡のように動きや声質が違う事が無い。


《私達は二人で一つの扱いよ。一人で行動した時の性能は最悪ね》


《最悪と言うと?》


《どこかで必ず支障が出る》


《グリーンとブルーとで、専門がハッキリ別れていると考えれば分かり易いでしょう》


 私からも説明しよう。簡単に直すと、普通の人工知能のスペックは分野A〜Dが全て三で、平均的に何でもこなせる。

 しかし、コバルトブルーは分野A、Cが五で、B、Dが一。コバルトグリーンはその真逆と認識してほしい。二人合わせて、初めて高性能になるのだ。

 そういえば、コバルトは基本的に略されるご様子。まとめて呼ぶ時は『コバルト姉妹』で通じるが、どちらが姉でどちらが妹。という事は無い。


《ところで、卍さんの人工知能は居ないのですか?》


《……私も一度も見てないのです。コバルト姉妹は知りませんか?》


《ふぅむ……》


 少し間が開く。やがて二人は口を開いたが……


《残念だけど、私達も知らないわ》


《そうですか》


 答えはあまり芳しくなかった。つまり、ここの四人は誰も存じていないようで……


《彼方なら分かるかも。彼方〜》


「む?」


 電子の世界に平面の画像が現れる。映し出されるのは彼方の顔で、どうやら彼方のノートパソコンの画面らしい。内部から見るのも不思議な気分だが、人工知能からしてみればこれが普通だ。


「どうした二人共」


《卍の人工知能ってどんな人?》


「ああ、卍のか」


 彼方なら、卍の携帯を見る機会もあるだろうと考えての問い。しかし……


「ああ、卍は人工知能を連れてない。どころか、携帯端末類も持ってない」


《……へ?》


「言葉通りだ。以上」


 パタン、という男と共に画面が消える。


《これは驚きましたね。ヤマトですら旧式と言えども所持していますし》


《今の時代に携帯端末類を持たないのは、かなり意外です》


 となると、自宅に押しかけるしか会う方法が無いわけで。まぁ、わざわざ会いに行く理由なんぞ無いので、不思議だなぁという感覚でこの話題は終わった。


 しかし、話題が元々無いのが沈黙に磨きをかける。主人の話題ならあるが、基本的には話す事を許されないので話題に出す事は出来ない。

 結果、どうあがこうが退屈になるだけだ。暇を持て余したコバルト姉妹は、デスクトップのアイコンで遊んでいた。彼方がノートパソコンを開いた瞬間に全て元に戻すから、才能の無駄使いとも言えるだろう。


《……やる事が無いのは良い事ですが、無さ過ぎて困ります》


《今なら全面的に同意してあげて良いでしょうね……ハァ》


 猩々緋も意味無く周りをブラブラする。どれだけやる事が無いのやら……


《……およ?》


 コバルト姉妹が何かを感じ取った。


《どうかしました?》


《ん、サイバー攻撃が来たみたいで。大方、彼方への個人的な恨みか何かだと思うけど》


 流石に有能と言われるだけはあるのか、既に対策を進めていた。こちらから見れば、次々と虚空に現れるゼロと一だけの画面を、黙々と操作しているように見えるが。

 蛇足だが、サイバー攻撃は一人で成功させると、その筋から尊敬される程に最近の対策は進んでいる。数人の天才秀才と高性能な人工知能が力を合わせて初めて突破出来る。


《彼方ってば、あんな性格してるから嫌う人多いんだよね。だから時々こんな事があるの……っとと、終わった終わった》


 最後の画面を操作し終わったようで、防壁のような物が遠くに生えた。文字通り『生えた』ので、間違いの無いよう。

 と言うわけで、サイバー攻撃は失敗という事だ。電子の世界ではこの辺りがファンタジーな世界のように感じれる。


《はぁ、流石の対応速度です》


《二人だもん》


 でも一人ずつだと非力。いや、これは言うべきではないか……


《でも、最近やられっぱなしだなぁ。反撃しちゃおうかな?》


《二人合わせても少し難しいんじゃなくて? 最近の防壁は強固ですし、もし変にしくじったら……》


《何をやる方向で進めてるんですか》


《流石に本気じゃ無くってよ? 冬樹を逮捕されるわけにも行かないので》


《え? やらないの?》


《え?》


《……え?》


 なにそれこわい。猩々緋がマトモで助かったな、猩々緋までアレだったら今頃サイバー反撃なんかしてたり


《ああそうそう、実行犯の場所が特定出来ましたよ》


《え》


 え?


《メール類も盗み見ましたが、最初に計画した人物も居る様子です。今ハッキングしてますので……》


《ちょちょちょっと!? 目の前で犯罪行為なんて、正気ですの!?》


 甕覗の右手の近くに、何かの画面がある。他人の携帯、またはパソコンの画面だと推測出来る。

 一応言うが、良い子も悪い子も普通の子もキジルシもハッキングはよしましょう。このご時世では捕まって、冥王星に飛ばされるからな。ちなみに、人工知能の場合は電子の牢獄か修正、最悪削除だ。


《バレなければ特に問題は無いですよ?》


《現在進行形で私達にバレてるよ!?》


《サイバー攻撃をやりかけたあなた達二人には言われたく無いですよ》


 コバルト姉妹は黙った。


《……まあ、これでヤマトが捕まっても構いはしませんがね。良い薬です》


《あなたに主人を労る心は無いのですか?》


《猩々緋さんにもブーメランですよ、その発言》


 猩々緋も言葉に詰まる。甕覗、本当に何しているんだ……


《……はい、終了。あとの処理はコバルト姉妹に任せましょう》


《え、え? あ、はい》


 甕覗が何かのデータを渡す。二人のキョドり方までピッタリなのだが、ここまでくると凄さが分からない。


《……甕覗、どこでそんな技術を? ハッキングもその他諸々の仕掛けも、旧式の人工知能が。それも数人ならまだしも、まして一人で……》


《あらあら、簡単ですよ? 新型の猩々緋さん》


 ちょっとした仕返しのように、嫌み。


《ヤマトに振り回されているから、こうなるんですよ》


《納得しましたわ》


 するなよ猩々緋。


《で、このデータは何?》


《ああ、それは……》


 説明を受けた。その後、甕覗がヤマトに呼ばれて退出。猩々緋も冬樹に呼ばれ、甕覗のやった事を複雑な気持ちで考えながら言ってしまった。

 コバルト姉妹は……


「おいお前ら、そのデータはどうした」


《えっと、サイバー攻撃してきた奴らへのハッキング、又は機体の操作権奪取の鍵……》


「はぁ? どうしてそんな物を」


《……貰ったんだ》


 危険な爆弾を手渡された気分になっていた。







 さて、現実世界に戻ろう。ヤマトはあまり良い成績を残せず、冬樹は音ゲーで何度かランクインしていた。ただ、その一位の記録は卍がとっくに塗り替えていた。

 彼方はクレーンゲームを少しやり、取った菓子をポリポリ食べていた。後は傍観に徹していた。結局、資金面はほとんど彼方が担う事になったな。

 卍は退屈過ぎて飽きたのか、気が付いたら居なくなっていた。彼方曰わく。


「多分帰ったな。まあ、勝手に居なくなるのはいつもの事だ」


 猫か奴は。置き手紙も無いし、連れ戻すのは諦めた。このメンバーで唯一繋がりがあるのは彼方だけだし、彼方ですら安定した連絡ルートを所持していないのだから。

 三人になって、次は何をしようかと考えていると、冬樹が猩々緋を介して連絡を受けていた。内容まで把握は出来なかったが、帰ってこいとの事なのでここで別れた。

 二人になったが、ヤマトは彼方に興味があるわけではないし、彼方もヤマトに対する話題が無い。このまま居ても何も変わらないとお互い判断したらしく、そのまま解散となった。


 もう少し面白い話を期待していたが、残念だ。もう今日は行く所も無いし、せっかくだから私達もゲームで遊んでから帰ろうか。資金は私が出すよ。

 ……あまり派手には散財しないでくれよ?


 甕覗さん何やってんすか。いつかヤマトが甕覗の仕業で冥王星に飛ばされるのかもしれないが、それも甕覗にとっては嬉しい事になりかねん。ヤマトの性格を直す事が、甕覗の願いのようですし。

 そんな甕覗を振り回すヤマトは何なんだ? と考え始めた天色の空椿です。


 今回は人工知能がメインでした。新キャラを紹介しますね。

 彼方の人工知能、コバルトブルーとコバルトグリーンです。双子と言うよりは、色違いの同一人物と言われたほうがしっくり来る程にそっくりで、声質、挙動、タイミング、何もかもが一致します。複数人の同時発言の際は括弧を二重にしたりしますが、コバルト姉妹に関しては二重ではありません。

 どの程度ピッタリなのかを分かりやすく言うなら、動きは鏡、声は一対一で会話しているように聞こえます。

 ただし人工知能としては個人では未完成。作中でも触れましたが、二人揃わないとからきしです。

 ちなみに、甕覗も完璧超人みたいに見えますが、元々旧式故に人工知能内での地位は低く、故に結構不遇です。

 やっぱり、何かしら欠点が無いとつまりません。欠点の無い完璧超人なんて面白みも無いです。ちなみに、私の好物は不幸な超人です。


 前書き紹介は近衛翠、でも紹介にもならない程情報が出せない……

 順番を考えて濃藍でも良かったのですが、濃藍の方が情報がありませんでした。ご容赦下さい。


 さて、次回はいつもの学校生活に戻ります。勿論新キャラは出ますし、翠ともそろそろ絡みたいです。いつかにヤマトに酷い目に遭わされたあの人も、リベンジにヤマトを狙わせてみたいですね。

 やっとカオスになってきた暴走劇。大暴走までのカウントは既に始まっているのか?

 んなの私にも何も分かりません。では、これにてノシ

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