「はいはい」
【猩々緋】ショウジョウヒ
冬樹の家を管理している比較的新型の人工知能。新型らしく全体の能力は総じて高めなのだが、ややお嬢様気質というか、高圧的というか。少し性格に何がある。
旧式や古い物に対しては、新型の宿命なのか否定的。しかし、猩々緋自身は否定する理由も無く攻撃的になる事にわだかまりがあるらしい。
冬樹父の携帯、冬樹の携帯、紺青一家の家の三つを基本的な居場所とする。冬樹の友人であるヤマトの人工知能、甕覗とはよく話す仲。ただし、高圧的で攻撃的なのは直らない。
特に変わった過去があったりするわけでは無いが、古い物、外国人の双方を変に否定する自分に疑問を持っていたり、何気にしっかりと冬樹やヤマトの事を心配していたりと、あまり安定しない。
同じ家を支える間柄、ロボットの濃藍とは会話が多い。のだが、やはり高圧的になってしまう、と言うかこれはただのツンデレかと思われる。
名付け親は原案が濃藍、正式に決定したのは冬樹。
楽しい楽しい休み期間。君達は何をするだろうか? ちなみに、私なら相も変わらず傍観を続けるつもりだ。休みだろうがそうでなかろうが、やる事は変わらないって事さ。
……まぁ、そんな物か。今の時代とあまり変わらない事に少し安心した気もする。
では、ヤマトはいかがだろうか? 答えは至極簡単だ。
「……あ」
画面に映し出される満身創痍の四文字とメニュー画面。そう、いつものようにゲーム三昧だ。変わり映えしなくて何故か安心した。
《また失敗しましたか》
「初めてやったんだから失敗して当然だろ」
君は初見のゲームで無双出来るのか? と密かに言ってるような物だからな。ヤマトは当然ノーと答えた。普通無理だろう、神ゲーマーじゃないんだし……
《で、たまには出かけないんですか?》
「面倒だし、出かける理由が無いから遠慮するよ」
《言うと思いましたよ》
そしてまた沈黙が続く。実はこれがヤマトの日常風景だなんて、とても他人には言えない。
《……あら、手紙が来ましたよ》
「誰から?」
《冬樹さんからです》
「読み上げよろしく」
ヤマトが怠慢なのではなく、電子メールは基本的に人工知能しか見れないだけだ。そうなると、人工知能が好きに解釈出来るので場合によっては……
まぁ、甕覗はそのような事をしないので大丈夫だ。
《まとめると、団体でどこかに遊びに行かないか? という内容です》
「冬樹が全面的に奢るならオッケーって返して」
遊ぶ余裕が無いヤマトだから言う言葉。普通なら嫌がるだろうが、冬樹から了承の手紙が返って来たので……
「準備しようか」
《はいはい》
灰色のパーカーと、ゲーム機と、携帯。携帯に甕覗が移動して準備終了。財布は冬樹が金銭面を受け持つので無し……というわけで。
「行ってきます。と」
誰も居ない部屋に挨拶した。しかし冬樹、お前それで良いのか……?
待ち合わせの場所は、冬樹の了承のメールに書いてあったので問題無し。テレポーターという便利な物でとっとと合流してしまうので、そこは思い切って無視したいと思う。
ヤマトと冬樹とは別にもう二人の見慣れない人物が居るので、まずはそちらを紹介しよう。
「黒いの、落ちるなよ」
「縦シューは得意な方だし、早々……あ、落ちた」
「…………むぅ」
躑躅彼方。気が狂いそうな覚えにくさだが、この無駄に細かく読みにくい字で『つつじかなた』と言う。ヤマトと冬樹からすれば先輩で、かなりの機械マニア。父が科学に特にこだわっているので感化されたとか。
変わった特徴としては、かなり長身で眼鏡をかけており、大きめのバッグにノート型パソコンを携帯している事だろう。形は旧型だが中身は最新式である。ちなみに、今日はゲーム機もバッグに入っている。
ミュータントで、二つ名は『開示者』。新たな造語の誕生だこの野郎。
「あっちゃ、うちも持ってきたら良かったかぬ〜」
「先輩は上手すぎるんで自重して下さい」
「……あんじゃそら。酷いや」
露草卍……………………
だあぁ!? 何なんだこの毎回見てもよく分からない名前は、ふざけるな! 読みにくいし呼びにくいだろうが彼方もコイツも! 大体性格が特徴的過ぎる、周りの対応とかは一体どうなっているんだ! 自重しろ!
……失礼。『つゆくさまんじ』だ。また覚えにくい名前だが、頑張ってくれ。彼方と同じくミュータントで、こちらもヤマト達の先輩。このメンバーの紅一点。
最大の特徴が話し方。どこの地方語ともとれない、でも外国の言葉では決してない、何故か言いたい事が雰囲気で分かる話し方をする。イントネーションも時々変に上下するが、それでも不思議と分かる場合が多い。分からない時も多いのだが……
この話し方は、ミュータントになってから急にこうなったらしい。ちなみに二つ名は『変わり者』だそうだが、能力は謎の一般公開禁止。以前学校の資料も覗いてみたが、記述無しだった。是非とも調べたいが、流石にお偉いさんのデータベースをつつくわけにも行かんな……
代わりと言えば聞こえが悪くなるが、彼方の能力を調べてきた。どうやら機械の全情報を触れるだけで理解してしまう能力らしく、パスワード等も把握するそうだ。
ま、パスワードを入手しようが、中の情報を先に見れてしまうので意味は無い。直接手で触れる必要がある事だけが弱点。
ちなみに言うと、二人はヤマトとは初対面である。何故この短時間で馴染めたし、特に卍。
「んじゃ、適当に買い食いしながらゲーセン行くか〜」
「うん」
「らっぢゃ〜!」
「はいはい」
……おっとと。我々も移動しようか。遅れないでくれよ。
皆が歩みを始めたが、ヤマトと彼方はゲームを続けている。卍が腕を引っ張る形になっているが、時々誰かに当たるのはご愛嬌。
あまり近くにゲーセンが無いので、とっととテレポーターで移動するみたいだ。ま、私達もゆっくりついて行こうか。
「んや、早よ行こな〜」
卍が急かしている。置いて行かれると傍観も出来無いし、見失わない程度に急ごうか。行くぞ?
団体四名より先にテレポーターを抜けてきたが、気分はどうかな? ……む、さっきので酔って気持ち悪い? すまない、配慮が足りなかったようだ。水を用意したから、受け取ってくれ。
さて、ヤマト御一行の到着だ。流石にゲームはしまったようで、彼方の愛用のバッグなどが一部膨らんでいる。
「さて、ゲーセンはどの辺りだったかな?」
「けっこ〜近くにあるやがな。途中にクレープ売ってるし、買っちゃ良いけ?」
「卍さん、いい加減に分かりやすい言葉で喋ってくれないかな」
「無理なんね」
何故に……?
「能力に触れるから公開禁止だって前に言われたし、諦めろ」
既に公開禁止という事は伝わっていたようだ。何故一般公開が無いのか、何となくは想像出来るのだが……
能力があまりにも特殊だと、それに着目したお偉いさんが研究と称して連れ去ってくれる事が多々ある。家を捨てて身分を隠せばバレない事も無いが、そこまでする位なら割とちゃんとした生活が送れると『噂』がある為、素直に連れて行ってもらう人の方が多い。
蛇足だが、ヤマトの能力も特殊だと感じると思う。しかし、あまりにも研究のしようが無いので、お偉いさんからは放置されている。ちょっと勿体無かろうか……
「卍のプライベートを聞くのは諦めろ。そいつの口は鋼より堅い」
「さっすがぁ、彼方ちぃは話が分かるのや~」
彼方ちぃ? ……まぁ良い。さて、そんな彼方もだが……
「……彼方先輩も口が堅いよな」
「あ、そうなんだ」
冬樹も呆れたようにそう言った。
「待て紺青、俺の口が堅いのは隠すべき事だけだ。そう何もかも喋らんように言うな」
「でも実際、彼方先輩の事聞かないけどな」
「それはプライベートをあまり口外してはいけないと言われてるだけさ」
「ふ〜ん……」
……見てくれ、あのヤマトの『全然興味無いです』と言うような顔。あまりに露骨なので、冬樹が眉をひそめていた。
「さて、そんな話は今は必要無いだろう。クレープ買うか?」
「そ〜だな」
「なら、僕は一番高い奴ね」
「ちょ、お前っ!?」
……私達も買おうか。支払いは私がするから、適当に選んでくれ。
「美味しいね」
「うおぉぉぉ……俺の小遣いが……」
ヤマトのは流石に高かった。二千円程度は一品目の食べ歩きに使うには少々辛い値段ではなかろうか?
「なはははは、悪いさね。うちのも買ってくれっちゃとな〜」
「ごめん、今のは通訳」
ヤマト、理解出来ず。理解力が足りない…………何、分からない?
……まあ、私も理解出来ない時があるし、そんな者だと諦めてくれ。
「『悪いね、私のも買ってくれて』だな」
「……買うって言ってから後悔したがな」
彼方による卍リンガル。彼が居てくれて助かったよ。ちなみに、卍が選んだのはヤマトと同じ物×三だ。冬樹の財布に大ダメージ。
「で、冬樹。ゲーセンに使える金は残ったか?」
「サーセン、無いです」
「……だろうな」
卍は心底満足げな顔で謝っていた。おい……
「ゲーセン着いたよ」
「む、早いな。仕方無いし、資金は俺が出そう」
「彼方っちイケメンだね!」
「褒め言葉は素直に受け取るが、呼び方は統一してくれ」
正直な所、こんな性格だからヤマトの卍に対する反応は『変わり者』の域を出ない。冬樹も最初はそんな感じだったらしいし、クセが強いのは確かだろう。
「では、一人三千円。余ったら返せ」
待て、その手持ち資金はなんだ。とツッコミたいが、卍は気にせず、冬樹は救われた事に感謝し、ヤマトは元々冬樹を餌にしていたので特に反応無し。畜生!
「今立ってるここを集合場所にしておくな。後からあれこれ考えるの面倒だし」
「賛成」
「んな、解散〜」
「卍、少しは自重しろよ。出禁を食わされても俺は知らんからな」
「うん無理」
……十分後、そこには集合場所で立ち尽くす卍の姿が。
さて、私も少し休憩するよ。また後でな。
「卍先輩、強過ぎだっての……」
格ゲーで無傷で倒された冬樹でした、と。お後がよろしいわけが無いが。
はい、少し遅れました。スミマセン。遅れた理由が卍の口調のせいだと言い訳してみます。
それはともあれ空椿です。相変わらずの天色ですが気にしない。
今回の新キャラは二人、躑躅彼方さんと露草卍さんです。お二人には先輩組を担当して頂きます。
流石に多数のキャラを一度に集結させるのは難易度が高すぎますので、ある程度のグループを作ってそのグループをまとめて出す方針にしています。
中心はヤマトで、今の所は【同級生】【先輩】【外国人】の三つです。一キャラ二グループがザラですが気にしない方向で。
先輩二人は結構謎キャラを担当して頂いてますが、そう遠くない未来にすぐに明かされるでしょう。気長にお待ち下さい。
で、今回特に悩んだのが卍さん。独特な喋り方はなんちゃって方言を変に崩しています。しかし、崩し方に悩んで悶々してました。
悩んだ結果は本文の通りです。口調が一定でなく、話す度に言い方が変化しています。でもコレデヨイ。
何度も言いますが、キャラを好かれるように作っているわけではありません。嫌いなら素直に嫌いで良いのです、それを受け入れて執筆します。
次元が歪んだりしていますが、読者様も登場人物。好き嫌いの感情は自由に持つべきだと思うのですよ。だから、そこは遠慮しないで下さい。
次回もゲーセン回ですが、新キャラはしっかり出ます。人工知能さんのターンですよ~!
……では、これにてノシ