「ちょっと失礼」
【甕覗】カメノゾキ
ヤマトの部屋を管理する旧式の人工知能。旧式とは言うがかなり高性能であり、面倒臭い性格のヤマトを支えている。ヤマトと同じく外国人肯定派で、情報検索などをせずとも大体の事を知っているなかなかの博識。
基本的にはヤマトの携帯とヤマトの部屋を行き来しているが、必要な場合は他者の携帯や機械に移動している。
こうみえて非正規の物をダウンロードしていたり、ヤマトの機械改造を手伝ったりと、他者には言えない秘密がごまんとある。一人でサイバー攻撃も出来る技術を持っていたりして実はかなり危険な存在だが、知られていないのか黙認されているのか、偉い人などから何かを言われた事は無い。
実はヤマトの父が名付けたらしい。
休日。昔ならば、外に出て公園で遊ぶ少年や、友人の家に集まり話す少女が居たのだろう。今や知る由も無い事……という事は無く、タイムマシンは存在しているので知ろうと思えば知れる。が、タイムパラドックスを恐れて歴史上使われたのは一度だけだ。
というわけで、現在は過去を直接覗く機械の出番となっている。まるで死後の世界で閻魔が魂を裁く為に使う浄玻璃の鏡と呼ばれる物のようだ。
余談だが、魔界や天界のような存在は未だに見付かっていない。また、科学者の考えでは存在しないとされている。「神が存在するなら、今の人間の暴挙を許す筈が無い」との事だが、「それならその暴挙を止めないのか馬鹿者」と言い返してやりたい。無理だが。
閑話休題。休日の過ごし方も、最近の少年少女は部屋にこもってゲームや勉強が多い。最近はVRMMORPGなんていうのが流行っているらしく、休日の街より電脳世界の方が賑やかという悲しい現実だ。専用の設備などが必要だが比較的安く済み、外国人のエリーもたまにはやっているらしい。冬樹はハマっているそうだが、勉強云々は大丈夫なのだろうか?
……ではヤマトはどうなのか? お答えしよう。
「……あ、レアアイテム」
そんな物を買う金など無い。辛い現実がヤマトにのしかかる。
だが、ゲーム機くらいは冬樹から貰っているので揃っている。それを使ってVRMMORPGにMMORPGとして参加するという奇妙な状態だ。実はゲーム機本体云々を改造しているので、バレたら意外とマズい。何気に甕覗も片棒を担いでいるのだが、そこはもう諦めの域に入っているのだそうだ。
そこまでする位ならば冬樹にちょっかいを出して買ってもらえそうな気がすると思う? 残念だが、安いと言えども流石にそこまでホイホイと買える値段でもないし、冬樹もそこまで言われたら友達の定義を考え直す事になりかねない。
ヤマトだってそこまで頼るのは嫌だろう。まあ、そんな理由だと思ってくれ。そうでなくとも(非正規なルートとは言え)楽しんでいられているなら良いだろう。
《ヤマト、間食を作りましたよ》
「ありがと……ってまた出したよ。案外レアじゃないのか」
システム的な事に介入するが、全くそんな事は無い、というかただのヤマトの強運である。物欲センサーという物をご存知だろうか……? いや、何でもない。
まあ、この話題はもう終わりにしよう。いつまでもゲームの話をしていても仕方が無いからな。
随分遅れたが、私は傍観者の代理で『旅行者』と言う。よろしく頼む。
さて、そんな話を茶番にしてしまい、ヤマトは今は街に出て気分転換の為に歩いている。正直、ゲームに歩数によって変化するシステムがあるので、それ狙いだ。すれ違○通信とかもよく聞くだろう。ヤマトの行動原理は大体がゲームにあるようだ……おいおい。
とにかく現在地は街であり、ついでに晩御飯に変わった物が食べたいという思考に至ったヤマトは、距離的に最も入口の近い大きな店に入った。携帯に居る甕覗とのんびり食材を吟味する。
……そう言えば、以前ミュータントによる事件が発生しているという事が知らされたのを覚えているだろうか?
あの事件、現在も全く解決の傾向に向かわない。一歩どころか半歩も、と言いたいがそもそも一向に物事が進まない。半歩どころか零歩だよ馬鹿野郎、と色々悪態を付きたい所だ。
と、何故このような話をするのか? 犯罪者の居る場所に警戒もせずに向かう登場人物に待っている出来事は何か、と言えば分かるだろう。つまり……
「動くな」
「ん?」
人質だ。警備関係はあまりしっかりしていないのだろうか? と考える前にヤマトの首にナイフがあてがわれるが、それでも携帯とゲームを意地でも落とさない所は流石だ。
周りから何かと悲鳴が聞こえるが気にするような奴ではなかったらしい。ヤマトを抱いたままレジと思わしき場所に向かい、定番化している金を出せコールを言った。
「……あ、早くしてね。結構苦しいから」
そのような状況下で携帯を弄くるヤマトの精神構造はどうなっているのだろうか。動くなと言われているのにTwi**erで呟いている。「人質なう」って……身元割れすんぞ?
「テメェ!? 何してやがる!」
「T**tterだけど。問題ある?」
「大有りだボケェ! 刺されてぇのか!?」
「いや別に」
《すみません、この人結構ひねくれてるので……》
調子を狂わせ、ペースをかっさらう。まだ一分も経っていないと言うのに、物凄い奴だ。誰がってヤマトが。
「いやでもさ、人質使うような悪者は大体が三下か噛ませって法則があるし」
「そりゃゲームの話だろうが」
《……まさか通じるとは思いもよりませんでした》
こっちもビックリだよ。兎にも角にも、ゲームと携帯使うと刺すなんて言われた為いい加減止める。コイツは……
なんて茶番をしていたら騒ぎがより目立ってきた様子。野次馬と警備用ロボットがズラリと現れた。という事は、この三下の命はもう長くない……いやいや殺してどうする。
「ナイフを捨てろ。隠す事ではないが、貴様がその子供を斬る前にその頭を吹き飛ばせる」
「流石、今のロボットの技術は怖いもんだな」
「時々必要な面が足りてないけどね」
《否定はしませんが、仮にも人質なあなたは黙ってなさい》
甕覗が本気で怒りそうなので流石に黙ったヤマト。なんかもう……
「でも忘れたか? ミュータントを相手にするとロクな目に遭わないってな」
「僕もミュータ」
《今日のご飯は無しにします》
「……締まらねぇ」
ご愁傷様です。
とにかく現在の状況を確認しないと何も始まらないだろうし、ここらで周りを見渡そう。
まず中心をヤマトとし、犯人である男も隣に居る。少し離れてから警備の人型ロボットが囲むように居り、その後ろを野次馬が固めている。もう少しすれば警察関連の何かが追加されるだろうが、それまでに場が静まっている確率は高い。
ヤマトが九割程茶化してはいるが場は依然として良い状況ではなく、ナイフはそのままだし男に向けられた銃口はギラギラ光っている。勿論それを良しと考えている人が居るハズも無く、周りは徐々に重苦しい空気に変わる。
こんな中、ヤマトは割と冷静に男を見ていた。のんきに見えて案外気の抜けない奴らしい。ナイフは怖いが、何かと考える必要があると考えたらしい。
「……ジャガイモかな?」
「あぁ?」
「何でもない」
いや、訂正。男の顔を見て食材を連想していた。それで晩のメニュー考えるつもりかおい。
と思ったらそれだけでもなく、一応考えは巡らせているご様子。相手がミュータントという事は判明しているので、その能力が分からないかと思っているらしい。
正直場はしばらく動きそうにないので、ヤマトの行動は外れてはいない。正解かと聞かれれば、私は間違い無く『人質は人質らしく大人しくしてなさい』と言ってやる所だ。つまり正解ではない。
目的の物を頂いたらしい男は、摺り足をしつつ移動してどうにか逃げようと考えているようだ。
何らかの移動手段でも用意してきたのなら良い考えだろうが、移動手段を用意させると発信機のオマケ付きだ。さて……?
「ちょっと失礼」
と悩む前にヤマトが行動。回された腕を掴んで簡単に退け、危ないナイフも手で掴んで簡単そうに折った。真っ当な人間の身体能力なら不可能な事だが、その身体能力が高いヤマトだからこその芸等だ。いやぁ便利。
「は!?」
男の腰に手を当て、強い力で一気にグイッと押す。
「そぉい」
男の足は地を離れ、ロボット達の中に突っ込む。ミュータントだろうが不意打ちには勝てないのであった……つまりなんだ、あっさり確保。
「え〜っと」
携帯で何かを入力する。
「か、え、り、う、ち、よ、ゆー、で、し、た。ま、る」
程なくして、『返り討ち余裕でした、まる』という文章がネットに現れた。
《ヤマト、自重しなさい》
「甕覗、今日はポテトサラダが食べたいな」
《……作りません》
「あれ、やっぱり駄目か」
ヤマトが悪い。
翌日、何事も無かったかのようにミュータントの能力で脱走されたと教師が発表。ミュータントの能力を防ぐ術がまだ無いとはいえ、流石に無防備過ぎやしないか?
あと、流石にニュースに流れていた為、ヤマトは身元割れした。甕覗に心底怒られたが、翌日ケロリとした顔で何事も無かったように登校。無論数人に付きまとわれ、教師にも怒られた。が、数分後に普通にゲームをしていた。コイツは……
《ご家族の扱いがなってないのではありませんか?》
《はい、認めます。ヤマトは私では止められません》
《……あ、そう》
猩々緋が呆れかえった感じの顔をした。現在昼休み、冬樹は黙ってキャラ弁を食べている。ヤマトも黙っているので、今話しているのは人工知能二人だ。
《とりあえず被害は無かったので、それがせめてもの救いと考えています》
《そう考えないとどうしようもないだけではなくて?》
《イエスと答えます。それ以上は私は何も答えません》
以後、甕覗はふてくされるように黙った。
《黒江、そのミュータントに変に恨まれたりした可能性はあるから、夜道には気を付けるようになさい》
頷くだけで了承した。
「ま、ヤマトならなんとかしちまいそうだがな」
《流石に買い被りすぎよ。相手の情報が無いから不利なのは黒江だから》
……ま、ミュータント三人居ればなんとかなるかしら。と呟く猩々緋。
「何にせよ、今回は相手が馬鹿だったから助かったって考えて良いんじゃないか? 次はどうなるかは知らないが」
「もう会いたくないけどさ」
いや、会うだろう。いつとは言わないが……
ヤマトにフラグが建った所で、今回は終わりにしよう。次回には傍観者も帰ってくるだろうし、安心してほしい。
……私が良い? 却下しておく。私はちゃんと仕事をする場所があるんだし。
では、さよなら。
ヤマトェ……と言いたくなる今回。ミュータントの男が可哀想なので、流石にまた今度ちゃんとカッコ良く悪者させてあげます。カッコ良いかは知らないが、というわけで空椿です。
今回新キャラと言って良いのかは分かりませんが、犯罪者の男が登場。今の所ただのかませ犬です、名前も用意していません。そして多分今後報われる事は無いでしょう……
猩々緋は甕覗に大してあまり優しい言葉を言いません。しかし内心では甕覗の心配をしていたり、何かとヤマトに自重するよう言っていたり、そんな所では優しさを見せます。ただし冬樹に対しては容赦がありません。
ヤマトがやっているゲームですが、本来は専用の機械が必要なバーチャルオンラインゲームです。しかしゲーム機やシステムを改造し、ただのゲームからバーチャル無しのオンラインゲームとして参加しています。無論良い事ではありませんが、ヤマトはゲームの為だけにやりました。反省も後悔もしていません。ちなみに、まだバレてません。
こんな技術どこで手にしたのか? いや、ほとんど甕覗がやりました。
今回はこんな所にしておきます。感想などを付けて頂けたら嬉しいかな~、なんて…………流石に贅沢は言いません。気が向いた時にお願いします。ではノシ