「今日泊めて」
【黒江ヤマト】クロエヤマト
ミュータント。ただただ身体能力を上げるだけのシンプルな能力。二つ名は『上級者』
ノーマルの頃はミュータントの能力に憧れ、夢物語を広げていた分授かった能力で元気を無くした。以降夢見る事のしない可愛げの無い奴になってしまった。
パーカーを常に被り、授業中でも堂々とゲームをする。根暗のように感じるが、根は激情家で行動派。更に数少ない外国人肯定派であり、エリーという友人が居る。
両親とは離れて暮らしている上、普通は一家にセットで居るハズの人口知能、ロボットの内後者が居ない。
本作の主人公。
前回から少しだけ時間を飛ばし、数日後の学校から見て行こう。現在は授業中だが、ヤマトのゲーム機は既に没収されている。GAMEOVERの字はこの際仕方無いだろう。
「……小遣いは無い癖に、ゲーム機の常備は欠かさないんだな、黒江。二台目とは恐れ入ったぞ?」
「お褒めに与り恐悦至極」
「褒めてはいない。で、言い訳はあるか?」
……ちなみに、ヤマトのゲーム機は気の良い友人が誕生日にプレゼントしてくれた物で、ヤマトが買ったわけではない。
「続けたいなら納得させてみろ。出来るか?」
「今回のゲームは脳トレなので脳は鍛えられています」
「なら授業に脳トレの要素を加える事を検討させて貰う。没収だ」
残念、没収された。ちなみに、ヤマトはこの担任を納得させられた事が無い。口の上手い生徒でも勝率は一割なので、相当手強いのだろう。
「それと……紺青。お前の弁当はなんなんだ?」
今日は、ヤマト以外にも怒られる人物が居たようだ。『紺青冬樹』と言い、登校しない事が多いものの、ヤマトと少なからず縁がある少年だ。
彼の机には手作りと思われる弁当がある。ウィンナーがタコだったり、ご飯がキャラクターのようだったりと、かなり可愛らしい。
「朝飯です」
「何故それを授業中に食べる必要があるんだ」
「諸事情で自分で作るしかなかったんで」
「言ってみろ。内容によっては検討する」
「うちのロボットが定期メンテで出払ってて」
「……ふむ、許可しよう。早めに食えよ」
「はい」
勝ちをもぎ取っていた。周りがおお、と声を上げる。それはともかく、授業は再開された。
「よっす」
「うん」
昼休み。甕覗が作ったお弁当をつまむヤマトの所に冬樹が登場。何気に唐揚げを奪っていったので、ヤマトの機嫌が悪くなった。
「甕覗の弁当うめーな。旧式なのに」
「人口知能があるんだし、旧式でも成長しないわけじゃないんじゃないかな?」
「お前の部屋、ちょっと特殊だもんな」
この時代の家、または部屋には基本的に、人口知能を持つ電子の生命が一人と、一家を献身的に世話する精巧な人型ロボットが一人、そして一つの家族という構成が当たり前だ。冬樹もそれに含まれる。
ヤマトの部屋はロボットが居らず、電子の生命の甕覗が一人である。その甕覗が旧式な上、一人で親から離れて暮らしているヤマトの世話とかなり多忙。そんな環境が成長に導いたのかもしれない。
「いや、特殊なのはヤマトか」
「窓から突き落とすよ」
「やめろって。俺は空飛んだりとか出来ないから冗談でもやめヤバイヤバイヤバイ落ちる落ちる落ちる!」
割と本気だったようだ。冬樹を押して窓から身を乗り出させる。
「ちょ、ま、やめっ!?」
あ、落ちた。ちなみに、三階だ。ヤマトのような並外れた身体能力でも無ければ、落ちたら怪我は必至だが…………間一髪落ちずに済んだようだ。一応左手だけが窓のふちに引っかけられている。冬樹の利き手は右だが。
「大丈夫?」
「い、い~から、さっ……さっさと助けろ! マジで落ちるって!」
何とか右手も掴んで少し楽に。そんな必死な冬樹を眺めつつ……
「気が進まないなあ」
まだ怒っていた。
「……今度新しいゲーム献上してやるから」
「約束だよ」
早い、もう手の平を返したのか! ちなみにゲームをくれる友人とは冬樹の事だ。
ヤマトが腕を掴み、ふわりと軽やかに引き上げる。着地には成功した。
「ふぃ~、相変わらずの力だな~」
「羨ましいの? 僕は君の能力と交換してほしいよ」
「はは、熱を変動させる能力なんて弁当暖めなおす位にしか使えないぞ」
冬樹のミュータント能力は熱を自由に上下させる能力で、やろうと思えば冷凍保存も高熱による炎上も可能だ。ただし気を付けないと、自分の能力でも冷たい物に触れると凍傷になるし、逆に火傷もするそうだ。効果範囲は視界内全域。
ヤマト曰わく、『便利だけど不便』らしい。逆に冬樹にヤマトの能力を言わせると、『万能だが無能』と言われる。君達、仲良しだね……
「ミュータントの能力って千差万別だよな」
「その千差万別の中でも異彩を放ってるよね、僕の能力……」
仕方無いさ、と冬樹が言おうとした所で、後ろから大きな人物が現れた。
「黒江ヤマト」
「…………はい先生」
先生だ。眉間にはシワが寄っている。
「大した事は無いと思いたいが、冬樹を突き落とした事に関して話をしたい」
「あ、恒例の『やっておかないと後々面倒臭いから建て前だけでも』って奴ですね」
「理解してるなら来い馬鹿。冬樹は後日にする」
「「はい」」
ヤマトは教師と職員室へ。残された冬樹は……
「帰ろ」
無断早退した。勉強が好きな方ではないらしい。
教師とヤマトの会話には特に面白味も無いのでカットする。強いて言うなら、話をしている間もヤマトが弁当を食べていて、教師が困惑した事くらいか。
その後授業は再開されたが、冬樹が居ない事に気付き……
「…………しばしの間自習とする」
数分後、冬樹が引っ張ってこられた。
「……家まで来やがった」
「学校のテレポーターは便利でな、生徒の家に最も近い場所に移動出来るのさ」
「ドンマイ」
結局下校時間まで早退は許されなかったわけだが、それは当然かつ仕方の無い事なのだった。以上。
冬樹はたまにヤマトの家に(アポ無し)来るが、大抵はちょっと遊んですぐ帰る。甕覗との中は微妙だ。
エリーとは一度だけ出会ったが、その時はエリーを蹴飛ばしてヤマトの家から追い出してしまったという事件があった。ヤマトが数少ない外国人肯定派なだけで、この世界では冬樹の方が正しいのだ。以降、甕覗の配慮で二人が会った事は無い。
ちなみにこの事件の後、ヤマトが冬樹を蹴飛ばして追い出した。更に三日間無視を決め込み、冬樹を大いに困らせた。
「ただいま」
《お帰りなさい。エリーは今日はまだ来てませんよ》
「そう。仕送りは?」
《来ましたよ。内容はいつも通りですが》
「……じゃ、今日の晩はあり合わせでお願い。食材は明日まとめて買うよ」
《はいはい、既にレシピは決めてますのでお楽しみに》
……と、そこに来客が現れた。
《ヤマト、今エリーさんが来ましたが》
「ん? ……入れてあげて」
間もなく、エリーが現れた。
「Hello! 私は今日も元気よ〜」
《こんにちは》
「やあ」
テンションが妙に高いエリー。補足するが、とりあえずいつも通りではある。ここから妙なテンションダウン等が見れた場合に、何かあったと推測出来る。ちなみに甕覗の分析だ。
……今回は以上無し。
「今日は何の勉強してたの?」
「色々だよ。先生の豆知識の方が楽しかったけど」
《おや、何かあったのですか?》
「彗星が落ちる前の日本。最近は聞かない話だしさ」
《そうですね、今の人達は過去を振り返らないですし……大人や最近の人口知能は過去の人や技術を良い目で見ないですし……》
私は違いますよ? と補足する。人口知能は潜在意識的な物で、時代遅れな物を嫌う物らしい。特に最新式の機械に見られる傾向にあるが、甕覗は誕生時からそんな事は無かったそうな。古いタイプだからか?
「なんか、今の人達って考えが極端な気がするよね」
「今も昔も、私達外国人は肩身が狭いな〜」
そうは言いつつ、エリーはあまり気にした様子が無い……
「そう言えばアイツ、冬樹だっけ? そろそろ仕返ししてやろうかなって思ってるのよ。外国人を否定すると酷い目に遭うって思い知らせて……」
《外国人の肩身が余計に狭くなりそうですし、ヤマトさんも気分が悪いでしょう。お止め下さい》
「……ち」
過激な奴だ…………と、冬樹の事は覚えていたようだ。蹴飛ばされたのはかなり根に持っているようで。
「外国人の何が悪いのかな?」
「僕は答えられないよ」
《私は答えを知ってますが。大した理由じゃないんですがね》
エリーが聞くと言ってきた。せっかくなのでヤマトも聞く。
《過去、日本は土地を広げる為に外国に赴き、略奪を開始しました。その時点で、『外国人は敵』という方式が出来ました。時は過ぎて、その方式は形を変えて今の状態になりました、以上ですよ》
「つまり、外国人は何も悪くないと……」
「むしろ日本人の方が白い目で見られる方だよね」
《そういう事です》
初めて聞く人はうわぁ……となるであろう。
《今となっては、偉い人達全員の頭を下げさせても解決しない程民間に浸透しています》
「つまりどうしようも無いのか」
《まあ、外国人の方が日本その物を救えば待遇も変わるでしょうがね》
「……良し」
今から言いたい事が分かってしまった私はどうすれば良いのだろうか。
「なら一つ、世界救ってみますか!」
「事件があればね」
……やる気が出たので、まあ良しと考えるべきか?
《事件を解決しようとして事件を起こさないなら私は手伝いますよ?》
「甕覗は優しいね」
「なら作戦会議しちゃおうか」
「作戦とか必要なんだ」
その後、なんやかんやでエリーに追い出されたヤマト。部屋の主人なのだが……
「…………全く」
電話。少し早めに返答が帰ってきた。
《はい、紺青。ってかヤマトだよな? 何だよ》
「冬樹、今日泊めて」
「……ぉん?」
予想外らしい。
この後冬樹の家に上げてもらい、甕覗の連絡によりエリーが徹夜で居座る事を知らされた。結局冬樹の家で寝、それはもう高圧的な人口知能さんに叩き起こされ、聖母のような紺青家のロボットのおかげで無事に朝食を頂く事が出来た。
更に冬樹の父と母を加えた紺青家の紹介はまた後としよう。私も朝食を食べたいのでな。
じゃ、一体休憩だ。また後でな。
紺青冬樹の登場。学校サイドで活躍出来ないエリーの代わりにヤマトにちょっかい出して頂きましょう。
おっと、失礼。空椿です。
皆のキャラは結構クセがありまして、人に好かれるか嫌われるかは分かりません。とりあえず、甕覗は誰でも安心出来ると思います。私も甕覗が好きです。
手筈通りなら、次回は冬樹の家の人口知能が登場すると思います。甕覗のような優しい人ではないので、期待は駄目ですよ。
エリーは冬樹と仲が悪いです。冬樹は周りの奴らと同じく外国人否定派ですが、エリーを直接蹴飛ばしたのは冬樹が初めてです。エリーもそれが印象に残り、冬樹が嫌いな方になったわけです。
……いつか、二人の仲を修復してやりたいですね。今回はこれにてノシ