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「勉強って楽しいかな?」

【傍観者】


 ミュータント。誰にも妨害される事無く他者を傍観出来るのだが、実際の能力は不明。傍観者という二つ名から絞り込みたい所だが、何とも言えない。

 常に誰かを傍観しているだけの人物だったが、最近は数名の人物に説明を加えながら共に見ている。


 説明臭かったり、ちょっとふざけてみたりとあまり一定しない性格をしており、他者には結構優しかったり、誰かの目線に合わせて語ってみたりと自由さは高め。話が良く脱線してしまうのが玉に瑕。

 退屈かと問えば、別に退屈しているわけじゃない。毎日は充実している。そう答える。 どう充実しているのかと問えば、新しい発見の連続だから。毎日に無限の可能性が秘められているから。そう答える。

 逆に、お前は退屈なのかと問われ、先程の質問をした少年は素直にうんと答えた。


「楽しい夢も、見続ければ面白くないだろ? それと同じだよ」


 少年はその時、ちょっとした知り合いにそう言った。

 確かに、ミュータントの能力は無限の可能性がある。ちょっと考えればどこまでも広がっていくのだから、発見さえあればいくらでも結果をくれる。

 ……が、この少年に限って言えば、そうではなかった。


「夢は見ても、結局何も得られないしさ」


 少年もミュータントだ。偉い奴らに付けられた二つ名は『上級者』らしい。

 少年も、最初はミュータントの能力に憧れていた。可能性があるというのは、憧れを抱かせる物なのだろう。

 しかし、得た力は可能性が無かった。それは何故か?


 ただ単に身体的な能力が上がっただけだ。それ以上も以下も無く、なんともつまらない。

 一応その身体能力の高さのみなら他者に自慢出来るのだが、ミュータントの能力としては可能性の広げようが無い。そこが少年にとっては最も痛かったらしい。

 夢見ていた少年は地に叩き落とされ、最後は脱力してしまいゲームだけに没頭するようになった。一家に一人が基本の家政婦系のロボットが心配していたりするが、お構い無しだ。友人のロボットだが。

 常に鼠色のパーカーを被り、携帯型ゲーム機をぼんやり弄くる少年。プレイ歴が長いのか、かなり上手いようだ。


「……黒江」


 ちなみに、ここはいわゆる学校である。無論ゲーム類は禁止だ。私服は許可されているので、パーカーはセーフだ。


「はい先生」


「ゲーム機は禁止されている。没収が嫌なら、俺を納得させてみろ」


 と、言い忘れていた。この少年は『黒江ヤマト』という名だ。ヤマトは片仮名なので注意してほしい。

 ちなみにこの学校、教師は大半がロボットだ。ほぼ人間と大差ないが、腕を斬れば血ではなくオイルが出て来るのでロボットだ。

 ちなみに、ヤマトの担任教師は人間、更に言えばノーマルである。納得させられれば禁止行為も認めてくれる不思議な人物だが、何気に優しいので生徒の人気は高い。


「聞いてもよく分からない授業より、楽しみながら計算や推理が出来るゲームの方が覚えやすいと判断したからです」


「ならば簡単なゲームを交えた個人授業をすれば分かる所から始められるな? 休みの日にでも家に行ってやろう。では没収だ」


 はい残念。黒江ヤマトは愛用のゲーム機と別れる羽目になった。いやまあ放課後に返してくれるから良いのだが。 しかし、画面にGAMEOVERの字が出ているのは少しまずいかもしれない。


「再開するぞ。端末はあるな?」


「あります」


「良し。では……」


 紙とペンではなく、スマー○×ォンのような端末がこの世界の主な道具だ。紙とペンが廃れた訳じゃないが、もう数は少ない。

 それは良しとしよう。ともかく今回は、この黒江ヤマトが物語の中心になる。以後はコイツを中心に見ていこう。







 この学校は『柊沢南高等学校』という名をしている。長いから『南柊』とだけ覚えておくと良い。それなら楽だし、ここの生徒もそう言う。

 まあ、君達の知っている高等学校とは少し違うのだが。小学生から飛び級が認められているし、別に途中から通っても構わない。ただ、上に行くにつれてレベルが高くなるのは大体分かってくれるだろうが。

 南柊は他の学校と比べても特にレベルが高い……なんて事は無い。精々下の上位が限界だろう。

 しかし、ミュータントに関してのみ他の学校より優秀だ。生徒の九割がミュータント、更に二割は優秀と言われても差し支えないそうだ。是非とも見たい物……おっと、失礼。

 まあ、正直ミュータントになった所で何が得、なんて事は無いのだが。ヤマトのような単純な強化や、電気や火に関係する能力なら日常に役立てられるだろうが…………そうでなければ何とも言えない。正直利点より不利な点の方が……おや、またも失礼。


 ゴホン。

 とにかく、南柊には随分と個性的な面子が揃っていると記憶してほしい。

 付近の学校は、『柊沢東高等学校』や『椿原学園』などがある。それぞれ特徴も違うのだが、流石に長くなるので割合する。ある程度情報をまとめた資料を随時渡して行くので、それを参考にしてほしい。


「ほら、次からは持ってこないように」


「無駄な善処はします」


「へいへい。気ィ付けて帰れよ」


 担任に別れを告げ、帰路に就くヤマト。今日は少し風が強く、ブカブカのフードは風に巻かれて頭にかける事が出来なかった。日本人特有の黒髪黒眼がやっと露わになる。


「眩しいなぁ」


 太陽は燦々と輝いている。流石に日の丸を背負う日本は、太陽に住むという冒涜的な事はしていない。なので光を遮る物は無く、結局眩しいのだ。と、蛇足を説明している内に変化が。

 ヤマトの携帯電話に着信が入った。このご時世ではかなり旧式だが、ヤマトはこれが好きらしい。慣れた手付きで着信が何なのかを確認する。

 液晶らしき画面に女性の姿が映る。美人だが、黒と緑だけのかな〜り簡素な映像だ。


《ヤマト、エリーさんが遊びに来ています。部屋に入れますか?》


 彼女はヤマトの携帯に入っている人工知能が姿を形成している物である。


「入れておいて、すぐ帰るから」


《了解です》


 プツンと音がし、画面が一度暗くなる。少し後に、待ち受け画面が現れた。エリーとは、横文字なので分かるだろうが外国の名だ。 随分昔に日本により地球の国が攻撃された際、少数の外国人は何とか死なずに住んでいる。が、元々が敵な為か待遇はかなり悪い。反乱を防ぐ為にミュータントになるのは厳しく規制され、ノーマルになるのを強制される。

 世間の風当たり云々のせいで学校にもなかなか行けないという状況だ。


「毎日飽きない奴だな」


 ヤマトは感心したように呟いた。言葉の通り、エリーは毎日ヤマトの家に来ている。

 それこそ雨の日も風の日も。雪が降っても、もしかしたら槍が降っても来るかもしれない勢いだ。

 ……そうだ。この世界は地球のみに限るものの、天候にはあまり手をつけていない事を説明しておこう。記録的な大雨とかになると手を出すが、基本的には自由な天気だ。古くから神様を考えてきた日本の、数少ない名残かもしれない。

 説明してる間にヤマトが家……というかマンションの一室に到着したようだ。壁に扉と、隣に小さな液晶が引っ付いただけのシンプルな見た目だが、手紙やらは全て電子化されているし不便とかは無い。


「開けて」


《おや、お帰りなさい》


 先程の携帯の音声と同じ人物の声が聞こえた。扉からカチリと音が鳴ったのを確認し、勝手に開いた扉を通る。


「ただいま」


《お帰りなさい。エリーさんは部屋で伸びてますよ》


 出迎えたのは先程の女性。やはりというかなんというか大変美しいが、美しすぎて作り物のようだ。いや、この女性はホログラムなので作り物っちゃあ作り物だが。名を『甕覗かめのぞき』と言う。こちらは携帯と比べて精巧で、映像だがそれこそ生きた人間と見分けが付かない。見分けが付かないだけで声は少し機械的だし、一応分かりやすくする為なのだろうか、髪と瞳の色は変わった色をしている。青と緑を混ぜて白くしたような、言いにくい色だが…………何色だったかな? 少し思い出すのに時間がかかりそうだ。


「伸びてるって……」


《正確には、頭を使いすぎてオーバーヒートしています。それはそうと、お昼を用意すべきでしょうか?》


「軽めで良いよ」


 了承の言葉を受け取り、霞むように消えた甕覗。驚く様子も無くヤマトは靴を脱ぎ、ゆっくり家に向かう。

 上がってから、とにかく目立ったのが机に突っ伏す長い金髪の少女だ。これが漫画なら頭から湯気を出している事だろう。


「エリー、ただいま」


「…………あれ?」


 ガバッと起き上がる金髪の少女、エリー。


「あ、お帰りなさい。上がらせてもらってるけど……」


「甕覗が確認とってきたから知ってるよ。また勉強?」


 少な目の荷物を適当な場所に起き、愛用のゲームを取り出す。


「うん。私みたいなのは学校行けないもんね。だからここを学校の代わりにしてるんだよ?」


「前にも言われたから知ってるよ。学校に行けるけど勉強しない僕に怒ってるとか、甕覗の教え方は難しくて分からないとか、何回も聞かされてるんだから」


 どうも、前々から何度も何度も聞かされてるらしい。それは災難だな……


《私の教え方は難しいのでしょうか……あ、料理が出来上がってますが、もう食べますか?》


「うん」


 テーブルの真ん中がスポッと抜け、下から少な目の料理が出て来た。テーブルの下には足を入れられる空間があるのだが何故だろうか? と考える必要は無い。転移装置の応用だ。


「あ、甕覗さん。私のも頂戴」


《ヤマト、食材が少し不足していますが出しますか?》


「止めといて。明後日の仕送りまでもたせないと」


 ヤマトは親とは別居しているようだ。毎月父と母の両方から一定の額が入るのだが、お小遣いに出来る量は無い。

 住んでいる部屋もこの時代では設備が古く、甕覗も実は相当古い。とはいえ、甕覗はちゃんと有能なのでヤマトは満足している。


「そっかー、じゃあ今日はもう帰ろうかな」


「うん、またね」


《道中お気を付けて》


 荷物を片付け、挨拶してから部屋を出たエリー。ヤマトはそれを確認した後、テーブルの料理をつまむ。


「勉強って楽しいかな?」


《何もしないよりは楽しいでしょうね。エリーさんは何も出来ないから楽しんでるんでしょう》


「じゃあ、何でも出来るから僕は楽しくないのかな?」


《ヤマトは何でも出来るわけではないでしょう》


 言葉に詰まるヤマト。甕覗が呆れたように呟いた。


《あなたは平凡を退屈と捉える傾向にあるのでは?》


「……いや、確かにそうだけど。でも平凡を捨てて特別になるならそれは遠慮したいね」


《……確かに、あなたは特別を夢見て裏切られましたしね》


 ミュータントとしての能力は正直、地味の一言だ。堅実と言えばそうだが……なあ。


「それは言わないでよ」


《そうでしたね、失礼しました》


 ヤマトがゲーム機を閉じ、立ち上がる。


「今日は早めに寝るよ。明日早めに来いって言われてるし」


《はい、おやすみなさい》


 寝室への扉が勝手に開き、ヤマトはその部屋に入ってベッドに潜り込んだ。結構シンプルな部屋だが、何かインテリアでも置けば……と言いたいが、残念ながら私は口を出せない。

 やがて強制的に睡眠状態に移行し、ヤマトは眠りについた。甕覗が何かをしたのだろう。これ以降面白い出来事も無く、淡々と時間が過ぎるのみであった。







 キリも良いので、今回はこれで終わりだ。次も歓迎するから、また来てくれ。


 主人公登場により、やっと話が一歩進みました。空椿です。今回ものんびり行きましょう。


 主人公、黒江ヤマト君です。ミュータントの能力に夢を馳せてはいましたが、あまりにも地味な能力で夢が崩壊、それ以来夢見るような事はせずに過ごしてます。


 エリーは今回ちょっぴりの登場でしたが、今後も何度も出てきます。本文で散々言ったので分かるでしょうが、彼女は先祖が外国人ですので世間の風当たりも強いです。


 甕覗さんはヤマトのお世話係のようなお姉さんです。でも電子の生命。普段は家のメインコンピューターとヤマトの携帯のどちらかに居ます。賢いですが抜けてます。


 物語が本格的に動くのはまだ先でしょう。しばらくは日常をお楽しみ下さい。あ、キャラはまだまだ出て来ますよ? お楽しみに。

 ちなみに傍観者も言ってましたが、皆様をキャラクターとして登場させる事が出来ます。詳しくはもっと後で……


 と、今回はこんな所で終わりです。ではノシ

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