3、しょうが焼き2
すいません。実は学園内の教室で昼飯たべてる設定だったんですが、前話で設定説明がゴソッと抜けてました。お気に入り登録ありがとうございます。
クライスとリヒャルトが教室で弁当を食べていると、頭上から声が落ちてきた。
「お!弁当うまそー!俺にも分けてくんない?」
それは、黒い短髪をツンツンに逆立てた、がっちりとした体型の色黒の男だった。横には水色の髪を男と同じ髪型にした小さな男の子が立っている。男の子は男の契約竜が人型を取っている姿であった。リヒャルトが、男の後ろにある椅子を指して言った。
「よっ!ライじゃん!とりあえず椅子に座れば?ライは今日、弁当じゃないの?」
ライと呼ばれた相手は、椅子を引っ張ってきて座り、膝の上に契約竜を抱きあげる。そして、半ば契約竜に身体を被せる様にして、リヒャルトに向けて身を乗り出した。
「リヒャルトぉ〜!よ〜く聞いてくれたっ!実はなっ!怪奇現象が起きたんだ!!」
好奇心旺盛のリヒャルトが、その話題に食い付く。
「かかか怪奇現象〜!?なにっ!?何があったのぉ!??」
大きい。声が大きい。
リヒャルトの声が大きかったためクラスで昼食をとっていた生徒達が一斉に、こちらに視線を向けた。クライスは、ちらっと横目で生徒達の反応を見る。元来、店以外では声を張り上げることもなく控えめな性格なので注目されるのは慣れないのだ。周りの視線を避ける様に、より一層もくもくと弁当を食べ始めた。しかしクライスの気持ちに反して、ライの声も大きくなっていく。
「そうなんだ、怪奇現象だ!!実はな、さっき俺が昼飯を食べようとして弁当の蓋を開けたんだよ!そしたらな!なんと!!」
「なんと!?」
両手を握りしめて先を待つリヒャルトにライは深刻そうな表情を作り顔を近付けた。契約竜が、ますます膝の上でつぶされそうになった。クライスは、もくもくと弁当を食べながら、そう言えば今日はライの契約竜がおとなしい事に気付いた。いつもは悪ノリしてライを煽っているのだ。不思議に思いチラッと契約竜に目を向けると、突然、ライが大きな声をだした。
「中身がなかったんだ!空っぽだったんだよ!!!」
それに追従してリヒャルトも両手を目一杯広げて驚く。
「え〜!!!空っぽってお弁当の中身が!?」
「そうなんだ!!……俺はまだ食べてなかったのに無くなってたんだ…。」
そう言うとライは、しょぼんと肩を落とした。リヒャルトは口を開いたまま驚いた顔で固まっている。クライスは、弁当に入ったしょうが焼きをツマミながら気落ちしているライに目を向けた。
「ねぇ。ライ。今日はアクアが大人しいね。調子悪いの?」
言われたライは、クライスからの突然の質問に、ぽかんとしライの契約竜であるアクアはビクッと肩を大きく揺らした。その様子にクライスは、ふふふっと笑うとアクアに、にやりとして言う。
「どうやら僕、怪奇現象の正体わかっちゃったみたい。」
それに反応したのは当事者のライでもクライスに見られているアクアでもなかった。ガタンっと勢いよく椅子から立ち上がったリヒャルトである。大きな声でクライスに詰め寄った。
「ええ〜!?正体ってなに!?お弁当食べる幽霊とかっ!??」
ざわざわっ。
リヒャルトが叫んだ途端、教室内のあちこちから幽霊?とヒソヒソ聞こえてくる。クライスは人差し指を自分の口もとに当てて、リヒャルトに言った。いわゆる静かにポーズである。
「ちょっと、リヒャルト声が大きいよ。静かに!」
あはは〜ごめん、といって椅子に座るリヒャルト。そしてクライスは自分の口元にある人差し指をライの膝に座っているアクアの唇の横に当てた。そして、唇の横から離された指先には赤い物体が。クライスは、ふふっと笑って言う。
「どうやら今日のライの弁当にはケチャップが入ってたみたいだね。」
ハッとしたアクアが、その小さな両の手でバッと口元を隠した。先程のクライスの質問から、なりゆきを見守っていたライが事情を把握したのだろう。自分の契約竜であるアクアを覗きこむ。
「まさか、アクアが弁当食べたのか?」
アクアは両手で口元を隠したまま、ブンブンと首を横に大きく振った。ライは自分とアクアが向き会うようにアクアの向きを変え優しい声で言う。
「アクア、怒らないから正直に話してごらん?な?」
その言葉にアクアは首を傾けて問う。いつもはヤンチャな声が幾分不安で力弱くなっている。
「本当に怒らない?本当の本当に?」
「あぁ、怒らないよ。」
その2人のやりとりを邪魔しないようにクライスとリヒャルトは静かに見ていた。アクアは口元から両手を離すと意を決したように大声で叫ぶように言った。
「食べちゃった!ごめんっ!!!」
そして次の瞬間、ライは両手で拳を握るとアクアの頭を挟みこんだ。
「俺の弁当食べたのは、お前だったのか〜!!!」
そして、ぐりぐりぐりぐりと拳に力を入れて回す。アクアは悲鳴を挙げながら、助けを求めた。
「うわっ!いたっ!いたたた!痛いよっ!リヒャルト、クライス助けて〜!!止めてっ!痛い痛い!!」
なおも続けるライに、あわわわわと慌てるリヒャルト。そして叫ぶアクア。結局、クラス中の視線が集まっていることに居たたまれなくなったクライスは、そのまま静かに3人から離れていった。