2、しょうが焼き
ここ、サイドラ国の人気の職業は竜騎士である。いや、サイドラ国だけではない、隣国の大国ドラゴナ国、しいては大陸全土そうであろう。
では竜騎士とは何か。彼らは自分の相棒である竜と力を合わせ自国を守る騎士であった。騎士は騎士でも普通の騎士とは違い、竜の力を用いるため、空を飛べたり、重い岩を軽々と持ち上げたりと、人外の力を発揮できるのだ。そのため偉人として逸話が多くのこっており、少年達の憧れの職業であった。
そう、今年15歳になったクライスの友達も例外ではない。
午前中の授業が終わり、賑やかな教室。
クライスは目の前で弁当を広げるリヒャルトに目を向けた。
リヒャルトは濃紺の髪を肩ぐらいで綺麗に切り揃え、青い大きな瞳が印象的な青年である。
今は、その大きな瞳をキラキラと輝かせている。
「ねねっ!クライス!ついに来月は契約だよ!たっのしみー!」
「そうだね〜」
呑気なクライスの返事にリヒャルトは盛大に溜め息をついた。
「はぁ〜。どうせクライスは料理のことしか興味ないもんな〜。うちのクラスで竜騎士に興味ないのクライスだけだぞ?」
そう言われたクライスは、自分の弁当を開けると香りたつ匂いに幸せそうな表情をした。
「リヒャルトは、うちのクラスっていうけど、別に全員が竜騎士めざしてる訳じゃないでしょ?銭湯屋継ぐやつもいるしさ〜」
そう言って、美味しそうに弁当を咀嚼しはじめたクライスにリヒャルトは不満そうに言う。
「そりゃそうだけど、一度はみんな竜騎士に憧れるからこそ、この学園に入ってるんだぞ?だいたい定食屋継ぐのに学園に入る理由ないじゃん」
今まで何度となく繰り返された会話にクライスは、いつもと同じ返事を返す。
「いいんだよ、リヒャルト。僕は父さんみたいな料理人になりたいんだから。この学園だって父さんが通ってたから興味があったの。」
そしてクライスが続けて話そうとするのを、リヒャルトはさえぎった。
「それに、うちのしょうが焼き定食は絶品なんだぞ!……だろ?はいはい、もう聞きあきたっつーの。」
自分のセリフを取られたクライスは、じゃあ聞くなよーと文句を言いつつも弁当の中身を食べながら幸せそうに笑った。