1、キャベツの千切り
すみません、、どうしても設定が浮かばず本文直しました。
獲物から一瞬たりとも視線を外してなるものか。
彼の黒い瞳は、獲物を鋭くにらんだ。
足は肩幅に開かれ、いつでも攻撃にうつれる体制をとる。
そして右手には、鈍く光る相棒。
相棒の切っ先は尖り、よく手入れしているため切れ味も鋭い。
それを握り直して感触を確かめた。
この相棒ならば目の前の敵など容易く切れるだろう。
彼は獲物を視線で捉えながら、相棒を正眼に構え――切った。
トントントントントントン
手元からは軽快な音が響き、茶色いまな板の上に置かれたキャベツが、あっという間に千切りになっていく。
「ふぅ…やってやったぜ。」
少年は男性にしては高めの声で満足そうに呟くと、コンロの側に立つ筋肉隆々な中年男性に声をかけた。
「親父ー!!キャベツの千切り終わったぞ!」
呼ばれた中年男性は、鍋を激しく振りながら、お玉を持った手で白い皿を差す。
「おうっ!その皿に盛ってくれぃっ!!後は人参とトマトも頼むわっ!」
少年は、それに答えると手際よく皿を取りキャベツを乗せた。
ふぅ〜と一息つきがてら店の中を見回すと今日もどうやら仕事上がりの人達で満席のようだ。
少年が働いているのは、彼の父親が料理人を勤める王都でも有名な安い定食屋。
店の名は、ドラゴファイヤー。
味は上手い訳ではないが、その安さから、ここサイドラ国の王都、サイドラでも有名である。
昼と夜の食事の時間には、いつも満席で繁盛していた。
店の中を見回していた青年が今日も上々だなっと思っていると、カウンターに白い皿が乗せられた。
人影が見えないのでカウンターを覗くとカウンター席の机と同じ位の位置に茶色の頭が見え、もそもそと動いている。
少年が皿を持ち上げ声をかけた。
「ご注文ですか?お会計ですか?」
皿を出した方は、机に指をかけ背伸びすると恥ずかしそうに青年に呟いた。
内気そうな男の子である。
「……おかわり。」
少年は、可愛いなぁと微笑ましく思いながら頷くと父親の方に向かって声をかけた。
「ブレゼー!オーダーだ!」
その声に、先程は父親に隠れて見えなかった赤い髪の男の子が、ひょこっと顔をだした。彼の身長もカウンターの机ぐらいである。
「あいよー!クライス!誰のオーダー?」
クライスと呼ばれた少年は、皿を荒い場に入れながら答えた。
「ルドさんちのルイくんだよ。土竜の!」
それにブレゼの元気な声が返ってくる。
「オッケー!ルイか!ちょっとかかるから席に運ぶって言ってくれ!」
それに了解と答えると、クライスはルイに視線を戻した。
「ルイくん、ちょっと作るのに時間かかるみたい。テーブルに運ぶから席に戻って待ってて。」
ルイは頷くと、丸いテーブルの席にテクテクと戻って行く。ルイが席に座ると隣の人に親しげに肩を叩かれていた。
そのテーブルの席は全員、ルイやブレゼの様な小さな子供が座っていた。
しかし、この国にそれを疑問に思う者はいない。それが当たり前の光景だから。
テーブルに座る彼らは竜族なのだ。
この世界では竜族と人が共存している。人と竜は契約を結び、共に成長していく。竜は膨大な力をコントロールする技術を人を通して学び、人は竜の力を借りる。
先程のルイも土竜が持つ土を操る力を使って大工の仕事を手伝っている。
クライスは、ぼーっと丸いテーブルに座る竜達を見ていたが父親の声で我に返った。
「おいっ!クライス!人参とトマトは、まだできねーのかっ」