序章
「なんでだーーーー!」
まだ幼い彼にとって、それは重い現実。
「いつもより帰りが遅くなっただけなのに!!」
目の前には温かな家族がまっているはずの家が、激しい炎に飲み込まれていた。
否、少年の家だけではない。
少年が住んでいる村が、である。
「助けなくちゃ…父さん、母さん、ばあちゃんを…助けなくちゃ…たすけ…なくちゃ」
少年は、ふらふらと火に近づいた。
どこか目は虚ろで、足取りも重い。
その時、炎の向こう側から声が聞こえた。少年は、もしやみんなが無事だったのかもしれないと思い駆け出そうとして、聞こえた内容に立ち止まった。
「おいっ!全ての家を焼き払え!!証拠ひとつ残すな!!目的の物は見つかったか!?」
よく通る男の声だった。
そして、それに答える声が複数。
少年は一瞬唖然とし、次には怒りで顔を真っ赤に染めた。
こいつらか…こいつらがみんなを…
そして、一歩一歩ゆっくりと仇へ近づいていく。
あと少し…
あと少しでやつらに届く…
だが、それは叶わなかった。
少年が後ろから何かに捕まれ空へと舞い上がったからだ。
そして空高く舞い上がると静かな声が少年の頭上から聞こえた。
「死ぬつもりなのか?」
死ぬつもりか?だって?
僕は父さん達を殺そうとしたやつを殺したいだけだ!
「離せよ!!俺はアイツらを殺すんだ!父さん達の仇をうつんだ!離せ!離せよ!」
少年は手足を必死で、ばたつかせる。しかしそれは小さな抵抗にしかならず、頭上の者は気にした風もない。
「頭を冷やせ。お前1人に何ができる。我らには、お前が必要だ。お前を死なすわけにはいかない。」
「そんなの知るか!離せ!戻せ!頼む…頼む…から」
そのまま少年と、少年を連れ去った者――大きな翼をもった竜の影は徐々に村から離れ見えなくなった。