第4話 入学試験
断罪アカデミー講堂。
朝早くから多くの若者が集まっていた。
貴族の子弟。
商家の娘。
地方の役人志望者。
皆、緊張した表情で椅子に座っている。
今日は――
入学試験。
講堂の扉が開いた。
静かな足音。
黒い制服をまとった少女が入ってくる。
レティシア・グランベル。
断罪アカデミーの創設者であり、主任教官。
彼女は壇上に立つと、受験者たちをゆっくり見回した。
そして言った。
「これより」
少し間を置く。
「断罪アカデミー入学試験を開始します」
ざわめきが広がる。
ある受験者が小声で言った。
「普通の学校じゃないって聞いたけど…」
隣の受験者が答える。
「断罪の学校らしい」
「何するんだろう」
レティシアは淡々と説明する。
「試験は三つです」
黒板にチョークで書く。
嘘発見
社交試験
模擬断罪
受験者たちは顔を見合わせた。
「何それ?」
「聞いたことない試験だ」
王子アルフレッドは後ろの席で腕を組んでいた。
「相変わらず変な学校だな」
その横でリリスが楽しそうに笑う。
「面白そうじゃない!」
レティシアは続ける。
「第一試験」
「嘘発見」
講堂の中央に一人の男が連れて来られた。
役人のような服装。
彼は机の前に立つ。
レティシアは言う。
「この人物は証言をします」
「その中に」
「嘘が含まれています」
受験者たちはざわめく。
「嘘?」
男は話し始めた。
「私は商会の会計を担当していました」
「ある日、金貨が五十枚消えました」
「ですが私は何も知りません」
彼は続ける。
話はもっともらしい。
だが。
レティシアは受験者を見る。
「嘘を指摘してください」
沈黙。
誰も動かない。
やがて一人が手を挙げた。
レオンだった。
「失礼」
彼は言う。
「金貨五十枚の袋の重さは約三キロ」
「会計担当者が気づかないのは不自然です」
男は少し顔を引きつらせた。
レティシアは頷く。
「正解です」
ざわめき。
次の試験。
社交試験。
講堂が一瞬で社交界の舞踏会のように整えられた。
受験者たちは戸惑う。
リリスは嬉しそうだった。
「社交界!」
貴族の令嬢たちが会話を始める。
しかし。
会話の中には噂、誤解、誘導が混じっている。
社交界ではそれが普通だ。
受験者たちは混乱する。
「誰が本当のこと言ってるんだ?」
「話が矛盾してる…」
フィオナは状況を観察していた。
「舞台みたい」
最後の試験。
レティシアは静かに言った。
「第三試験」
「模擬断罪」
受験者たちがざわめく。
講堂の中央に一人の少女が立たされた。
役者だ。
彼女は泣きそうな顔をしている。
レティシアは言う。
「この人物は告発されています」
「罪は」
「社交界でのいじめ」
ざわめき。
受験者たちは顔を見合わせた。
「悪役令嬢じゃないか」
「断罪するの?」
証人が次々と証言する。
「彼女は意地悪でした」
「社交界で孤立させた」
「被害者は泣いていました」
受験者たちは困惑する。
証言は揃っている。
だが。
一人の少女が手を挙げた。
静かな声。
クラリスだった。
「発言してもよろしいでしょうか」
レティシア
「許可します」
クラリスはゆっくり言った。
「証言に矛盾があります」
講堂が静まる。
クラリスは証人を見る。
「あなたは昨日の舞踏会で見たと言いました」
次の証人を見る。
「しかしこちらの方は」
「同じ時間に別の場所で起きたと言っています」
受験者たちは驚く。
クラリスは続ける。
「つまり」
少し間。
「この告発は成立していません」
沈黙。
レティシアはクラリスを見つめていた。
そして。
静かに言った。
「正解です」
受験者たちがざわめく。
レティシアは続ける。
「この事件は」
「冤罪です」
講堂が静まり返る。
クラリスは少し驚いた顔をしていた。
レティシアは彼女を見る。
そして言った。
「あなたは」
少し間。
「冤罪を見抜きました」
クラリスは小さく頭を下げる。
レティシアは言う。
「断罪とは」
「人を裁くことではありません」
講堂を見回す。
「真実を見つけることです」
そして。
クラリスに向かって静かに言った。
「合格です」
講堂がざわめいた。
断罪アカデミー。
新しい学生が。
また一人、誕生した。




