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キャバの黒服は勇者向きではないので 異世界で人を動かし無双してみた  作者: CHORO_


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9/10

第9話 黒服、呼び出される。

※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。

「うーん、やっぱりワインに合うなぁ〜!」


 アリアさんが上機嫌に、魚のフライを口に運んでは

 喉を鳴らしてワインを飲み干す。


 実に気持ちのいい飲みっぷりだ。


 俺は依頼の打ち上げも兼ねて、

 アリアさんと酒場で一杯飲んでいた。


 港町ブッセまでの荷運び護衛の依頼を終え、

 エクタルの市場には海産物が戻ってきた。


 この世界は、ぱっと見は中世ヨーロッパのような世界だが、

 魔法が発展しているおかげで、

 海産物も新鮮なまま輸送できる技術が確立している。


 中には生で食べられる魚もあって、

 酒飲みの俺としては非常にありがたい話だ。


「クロはどこかのギルドとかで働かないの?」


 酒のお代わりを頼んだところでアリアさんが聞いてきた。


「まだそこまでは考えていないんですよね」


 ーギルド…、確かに俺の能力を使って、

 冒険者たちが潰れてしまうことを防ぐ。

 それは適材適所かもしれない。


 実際、身の振り方としては、

 それが妥当な気もしていた。


 ただ、わざわざ女神が転生をさせてまで、

 かつ、大層な能力まで与えたってことは、

 何かこの世界に対する「役割」のようなものがあるのでは?


 そう考えると、決めかねている部分もある。


「まあ、別に焦らず決めたらいいよ」


 俺の内心を見透かしているかのようにアリアさんが言った。


 すると、


「お楽しみのところ失礼、A級冒険者のアリアさんですか?」


 酒場にそぐわない身なりの良い男が声をかけてきた。


<人心大全>で男の素性を探る。


 ーー役人だ。

 この酒場じゃ、ギルドの人間ですら珍しいのに…。


 特に敵意などは無いようだが…。


 男はアリドシア王国軍、冒険者統括部の役人だった。

 先日の北部街道での件で、詳細を聞き取りしたいという。


 俺の存在も知っており、

 アリアさんと一緒に明日庁舎へ行くことになった。


 ⸻⸻⸻⸻


 翌朝、アリアさんと待ち合わせし、

 市場の北西にある庁舎へと向かった。


 白い壁に青い屋根。

 市場の喧騒を背に、庁舎は静かに構えていた。


 賑わいと隣り合わせでありながら、

 ここだけ空気が一段低い。


 石造りの階段を上がるたび、

 靴音がやけに響いた。


 二階の廊下でザナスとすれ違う。


「お前たちもか。やはり役人相手ってのは肩が凝るな」


 笑っているが、心の奥に薄い緊張と疲れが残っている。


 ただ、ひとまず、今回の呼び出し、

 命を取られる類の話ではなさそうだ。


 通された部屋は、執務室というより応接間だった。

 向かい合うソファ。

 重厚な机。

 窓から差し込む光がやけに白い。


「アリドシア王国軍冒険者統括部調査官のシュヴァルツです」


 柔らかい声だった。


 金髪の整った顔立ち。

 笑みも自然だ。


 だが、瞳の奥だけが凪いでいる。


<人心大全>を開く。


 名前、所属、経歴。

 王都出身。若くして統括部入り。

 評価は極めて優秀。


 情報は整然としている。


 だが問題は、もう一つ。


 “心の状況”。


 この能力は、思考を直接読むものではない。

 言葉が聞こえるわけでもない。


 見えるのは、感情の配分だ。


 怒りが何割。

 警戒が何割。

 焦燥が何割。


 それらが色のように、重さのように、比率で浮かぶ。


 だが――


 この男は、均衡している。


 探究心。理性。計算。

 それらが極端に揺れず、水平を保っている。

 まるで、水面に一切の波がない。

 ここまで整えられた心を、俺はまだ見たことがない。


 聞き取り自体は淡々と終わった。

 ゴブリンの数。進軍経路。交戦時間。

 シュヴァルツは几帳面に頷き、時折メモを取る。


 そして最後。


「ご協力ありがとうございます。最後に一つだけ」


 その瞬間。


 シュヴァルツの水面に、わずかな波紋が立った。


 ――探究心。


 ほんの少しだけ、重みが増す。


「なぜ、ゴブリンのボスだけを狙い撃てたのですか?」


 空気が、静まった。


 ああ、なるほど。

 ここまでのやり取りは確認作業。

 本題は…俺か。


 この男は、“結果”ではなく“構造”を見ている。


 微笑は崩れない。

 だが視線は、わずかに鋭い。


 試しているのか?


 俺は一瞬で計算する。


 能力を明かすか、誤魔化すか、

 曖昧に濁すか?


 全てを見透かしているような目は、

 下手に嘘をつけば、揺らぎを読まれるのでは? と感じてしまう。


 この男は敵か、味方か…?


 まだ、わからない。


 だが一つだけ確かなのは――


 この男は、俺を品定めしている、ということ。


 俺は一瞬だけ視線を落とし、

 それから静かに答えた。


「観察です」


 シュヴァルツの瞳が、わずかに細まる。


「ゴブリンは単純ですが、群れになると違います。

 恐怖の伝播速度、位置取り、他個体の視線」


 少しだけ本当のことを混ぜる。


「混乱の中心にいた個体だけが、

 恐怖ではなく“制御”を優先していました」


 これは嘘ではない。

 ただし、見え方が違うだけだ。


「群れが統率されているなら、

 その核を落とすのが合理的です」


 沈黙。


 シュヴァルツの内心が、ほんの僅かに揺れる。


 ――評価。


 ――――再計算。


 その奥に揺らぐ探究心はある。


 だが、確信には至っていないことがわかる。


 沈黙。


「……本当に、それだけですか?」


 納得はいっていないようだ。


 だが、俺は表情を崩さない。



 しばしの沈黙の後、


 シュヴァルツは静かに頷いた。


「なるほど。優れた観察力ですね」


 声色は柔らかい。


 だが――


<人心大全>に映る感情は揺れていない。


 疑念はない。


 迷いもない。


 そこにあるのは、ただ一つ。



 ――確信。



 何かを読まれたか。



 少なくとも俺が何かしら特殊な能力を持っていることを、

 この男は確信しているようだ。


 だが、彼はそれ以上踏み込んでこなかった。

 その代わりに、


「安心しました」


 柔らかな微笑。


「あなたは“使える”ようだ」


 その瞬間。


<人心大全>に、微かな熱が灯る。


 ――期待。


 静かな、水面の奥に沈んでいた炎。

 利用価値を見出した人間の、それだ。


 俺は何も言わない。


 シュヴァルツは指先で机を軽く叩き、

 まるで世間話に戻るかのような調子で続けた。


「ところで、クロさん」


 空気が、ほんの僅かに変わる。


「あなたは現在、どこのギルドにも所属していないそうですね」


 アリアさんが横で少しだけ肩を強張らせる。


 俺は頷く。


「ええ」


「冒険者登録もされていない」


 事実確認の口調。


 責める色はない。


 だが――逃げ道もない。


「にもかかわらず、依頼に同行し、戦闘に参加し、報酬を受け取っている」


 一拍。


「規則上は、好ましい状態ではありません」


 静かだ。


 怒りはない。

 脅しもない。


 ただ、正しい。


<人心大全>を覗く。

 そこにあるのは――


 揺れのない理性。


 これは脅しではない。

 “交渉の提示”。


 この男は、俺を追い詰める気はない。

 だが、手札は握った。


「もちろん」


 シュヴァルツは続ける。


「この件を問題にするつもりはありません」


 アリアさんの緊張が、ほんの少しだけ緩む。


 だが俺は分かる。

 ――ここからが本題だ。


「ただし――」


 静かに、視線がこちらを射抜く。


「あなたのような人材を、野放しにしておくのは惜しい」


『惜しい』その言葉に嘘はない。


「正式な身分を与えることもできます」


 一瞬、空気が止まる。


「特例としての身分証。

 王国の庇護。

 過去の件は不問」


 条件は、破格だ。


 俺の不安を正確に突いている。


 だが――


「その代わり、ひとつ依頼があります」


 来たな。


「ブラックデビルス」


 アリアさんの指がぴくりと動く。


「彼らの動きを探ってほしい」


 淡々とした説明。


 だが彼の心の奥で、ほんのわずかに色が変わる。


 ――嫌悪と…決意。


 間違いない、

 この件には、シュヴァルツの個人的な感情が混ざっている。


「ただ、あまり、公にはしたくない」


 視線が、静かに刺さる。


「あなたに見てほしいのです」


『見てほしい』。


 調べてほしい、ではない。


 “見て”。


 スッと背筋が冷えた音が聞こえるようだ。

 この男は、もう分かっている。

 俺が“観察”以上の何かを持っていることを。


「もちろん拒否もできます」


 微笑。


「その場合は、規則に従うだけです」


 淡々と。


 逃げ道はある。

 だが、実質的な選択肢は一つ。


 俺は一瞬、目を閉じる。


 女神。

 役割。

 この世界での立ち位置。


 まだ何も見えていない。


 だが一つだけ確かなのは――


 この男が敵か味方か、ではない。


 利用する、される。


 その上で、どこかに俺と同じ匂いがある。


 理想のために、

 冷静に人を使う匂い。


「さて」


 シュヴァルツが背もたれに身を預ける。


 瞳は静かだ。


 だが奥で、青い炎が揺れている。


「どうしますか、クロさん」


 部屋が、やけに静かだ。


 俺はゆっくりと視線を上げる。


 ――この男は、俺の人生に深く関わる。


 そんな予感がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。


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