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キャバの黒服は勇者向きではないので 異世界で人を動かし無双してみた  作者: CHORO_


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8/10

第8話 黒服、襲撃する。

※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。

 俺はザナスの「どうする?」を受け、思考を底へ沈めた。


 選択肢は三つ。


 一つ目。撤退し、ギルドへ報告。

 もっとも安全で、もっとも常識的。

 だが依頼は失敗し、失った戦力と時間だけが残る。


 二つ目。護衛を優先し、目的地へ急ぐ。

 任務達成を最優先とする案。

 だが戦力は削れている。再襲撃があれば、今度は耐えきれない。


 三つ目。敗走したゴブリンを追う。

 巣を突き止め――必要なら、叩く。


 消去法ではない。

 最初から、答えはそこにあった。

 ただ、選ぶ覚悟が必要だっただけだ。


「さっきのゴブリンを追いましょう」


 視線が集まる。


「巣を潰せってことか?」


 ザナスの目は真剣だ。

 奥に、わずかな不信が残っている。


「まだ決めていません。まずは構造を確認します」


 俺は地図を広げ、現在地に石を置いた。

 ザナスの依頼地点であるマスバ集落。

 各ギルドの掲示板で見た襲撃地点。


 石を並べていくうち、線が浮かび、円が描かれる。


「襲撃はこの範囲に集中しています。中心は――ここ」


 一点を示す。


「この辺に巣があると?」


「可能性は高いです」


「じゃあ行こう!」


 アリアさんが大剣を担ぐ。


「待ってください」


 俺は静かに首を振る。


「巣の規模が不明です。戦力差次第では撤退も視野に入れる。

 それと――」


 商隊のリーダー、マドルを見る。


「これは追加依頼になります」


 俺は額面を書いた紙を差し出した。


 今回の依頼から桁が二つ違う。


 先ほどの襲撃によるアップチャージ。

 組織的脅威への対処費。

 探索費。

 掃討成功報酬。

 戦利品分配。


 マドルの内心は“値切りたい”で埋まっている。

 だが、その下層にあるのは理解だ。


 放置すれば、損失はこの比ではない。


「金額は公にはしません」


 高額報酬は刃だ。

 振るい方を誤れば、自分を切る。


 沈黙ののち、マドルは署名した。


「……これでいこう」





 前線の面々に契約書を見せる。


「驚いた顔はしないでください」


 全員が目を見開く。

 だが声は出ない。


 士気が跳ね上がるのが、<人心大全>越しに見える。


 金は卑しいか?


 違う。


 これは責任の対価だ。

 命を張る者に、それ相応の対価を払う。

 それが契約だ。


 前線を安く使い潰す者に、人を率いる資格はない。


 地獄の沙汰も金次第――か。


 皮肉にも真理だ。





 襲撃に備え、商隊に数名を残し五名で森へ入る。

 逃走したゴブリンの痕跡を追い、奥に進むこと三十分。


「そろそろだね」


 アリアさんの声が低くなる。


 開けた空間。

 そこに――巣があった。


 百はいるだろうか。


 猿山のように蠢くゴブリンの群れ。


 だが、全てが同じではない。


 一体だけ。


 服従ではなく、支配。


 恐怖が低く、冷静が高い。


 この群れの核だ。




「巣を叩く。今しかねぇ」


 気色ばんだザナスがメイスを握りこむ音が聞こえてきた。


「全部相手にする必要はありません」


 俺はその個体を指差す。


「あれを落とせば終わります」


「賭けか?」


「違う。構造です」


 群れが脅威なのは、統率されているからだ。

 ならば、その統率を壊せばいい。


 沈黙。


「……で、どう攻める」


 右側を示す。


「密集地帯に強襲。混乱を最大化します」


「多いぞ」


「だからこそです。密集は強みであり、弱点でもある」


 左側は少数精鋭。


「手練れに囲まれたら終わりです」


 アリアさんが笑う。


「混乱させて、そのあとは?」


「はい。特攻はザナスさん。ボスはアリアさん、お願いします」


「お前は?」


 ザナスがニヤリとする。


「見ています」


 一瞬、間。


「はっ。何様だよ」


 だが疑念はない。


 信頼が、そこにある。





 ザナスは物陰から飛び出ると、猛然とゴブリンの群れに向かっていった。


 次の瞬間、鈍い轟音が森を震わせた。

密集地帯が弾け飛ぶ。


「かち割られたいヤツからかかってこい!」


 見開いた眼に、口元には笑み。

 ゴブリンでなくとも怖い。

 敵勢に伝播する混乱。

 恐怖が跳ね上がる。


 逆サイドの手練れが動くが、混乱で人垣に阻まれる。

 そこを冒険者が横から急襲し、刈り取る。


 群れは自壊を始めた。


 ボスの冷静が削れ、焦りが浮く。


 その瞬間。


 黒山を越え、アリアさんが跳んだ。


 一閃。


 首が落ちる。


 下々のゴブリンたちの服従が消え、

 恐怖が最大に跳ねる。


 耳ざわりな悲鳴にも似た鳴き声をあげ、群れは崩れ、四散した。





 静寂。


 血の匂いだけが残る。


 俺は物陰から出て、その中を進んだ。


「みなさんお疲れ様です」


 布巾と、そして水を配った。


 亡骸に腰掛けていたザナスは水を受け取り、

一息に飲み干した。


 しばらくの沈黙を経て口を開いた。


「……大したヤツだ」


 軽口ではない。

 認めた声音だ。


 前線は力で道を切り開く。

 後方は、道そのものを描く。


 俺はまだ前には立てない。


 だが――


 前線を動かし、

 構造を崩し、

 戦場を終わらせることはできる。


 黒服は目立たない。

 そして、目立たなくていい。


 花道を進む者たちの背を、支える。

 それでいい。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。


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