第7話 黒服、襲撃される。
※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。
俺たちは北部街道を北上していた。
港町ブッセに交易品を運ぶ荷運び隊の護衛任務だ。
依頼は、道中に現れる単発モンスターへの警戒と護衛。
陣営は、護衛対象の荷運び隊——エクタルの商人ギルドの一団。
そして護衛の冒険者がアリアさんを含めて四名。
アリアさん以外はBランクが二名、Cランクが一名。
俺は冒険者登録をしていない。
アリアさんの荷物持ちとして同行している。
本来、Aランクである彼女が受ける任務ではない。
だからこれは、俺からの追加依頼でもあった。
Aランクが同行している影響もあって、
<人心大全>で見る全体の数値は
不安3/緊張5/危険予測は低め。
問題ない。
依頼書通りなら、俺が口を出すほどじゃない。
……そう思おうとした。
「クロも現場に出ることあるんだな」
冒険者の一人が笑う。
「ええ。俺は冒険者ではないので、邪魔だけはしないようにします」
「いや、クロのアドバイス結構的確って聞くぞ。頼りにしてる」
軽口。空気は悪くない。
二日ほど進み、「アルゴルの森」付近に差しかかったときだった。
アリアさんの目の色が変わる。
「来る……」
直後、商隊の横っ腹に矢が突き刺さった。
「ゴブリンだ!」
森から飛び出したのは十を超える緑の群れ。
鍵鼻、尖った耳、裂けた口。
明らかに単発ではない。
組織化された群れだ。
——依頼内容と違う。
現場は、容赦なく書面を裏切る。
「数が多いね。でも統率は甘い。前を潰せば散る」
アリアさんは大剣を構え、迷いなく突っ込んだ。
先頭の一体が一瞬で沈む。
唐突に始まる実戦。
血飛沫と絶叫と鉄の音。
目の前で削れていく命。
それは画面越しの数字ではなかった。
正直に言えば、
この世界に慣れたつもりでいた。
そして、俺はまだ何も理解していなかったということを実感した。
戦力になれない俺は、
輸送団の後方で戦況を読むしかできない。
<人心大全>はモンスターにも有効らしい。
混乱は高い。
だが——
劣勢のはずなのに、不安値が低い。
この状況で不安がないということは。
「アリアさん! まだ——」
森がざわめき、ゴブリンの増援が現れた。
数が倍に膨れ上がる。
すでに依頼書は破綻していた。
アリアさんの内心にも焦りが混じる。
単発警戒?
冗談じゃない。
これは戦場だ。
乱戦の中、討ちもらした一体が馬へと跳ぶ。
だが、——鈍い衝撃音。
ゴブリンは力なく地面に叩きつけられた。
「ちっ……こっちもか。群れだな。奥に巣がある」
ザナスだった。
明らかに消耗している。
別依頼帰りだろう。
<人心大全>で見ると、焦りと苛立ちが高い。
——だが、闘争心が落ちているわけではない。
退く気はないようだ。
とはいえ、想定外の敵戦力。
消耗した増援。
そして、森の奥にあるであろう“本隊”。
最悪は、まだ来る。
「このまま押せば、被害が出ます。
一度引いて、ギルドに報告を——」
それが合理だ。
それが、俺の役目だと思っていた。
「……今は引けない」
視線と切先を敵に向けたまま、
アリアさんが言う。
「ああ。今引いたら、街道が死ぬ」
ザナスも同意する。
もちろん、
今ここで退けば、街道はしばらく封鎖されるだろう。
そして、討伐隊の編成まで時間もかかる。
その間に周辺集落にも被害が出る。
俺にも理屈は分かる。
ただ、成功確率が低ければ、それは賭けではないのか。
——俺は迷った。
しかし、迷っている間にも、前線は止まらない。
動かなければ死ぬのが前線だ。迷う暇も、迷いを待つ暇もない。
戦いは長引いた。
やがてゴブリンは散り散りに敗走し、
商隊にも大きな被害はなかった。
その分、護衛たちは限界だ。
ザナスは仰向けに倒れ込む。
肩に矢傷。いくつもの斬創。
致命傷ではない。
だが、重い。
「……理屈は、間違ってねぇよ」
俺を見たまま、ザナスが言う。
「だがな。前線には、“今しかない瞬間”がある」
静まる場。
視線が集まる。
アリアさんは一歩下がる。
口をつぐみ、俺を見る。
任せる、ということか。
ザナスが続ける。
「……で、どうする?」
俺は助言者のつもりで現場に来た。
だが——
現場に立った時点で、
もう“無関係”ではいられない。
理屈を口にするだけでは済まない。
その事実だけが、
やけに重かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。
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