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キャバの黒服は勇者向きではないので 異世界で人を動かし無双してみた  作者: CHORO_


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5/6

第5話 黒服、絡まれる。

※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。

 今日も俺は、いつもの酒場で冒険者たちの相談を受けていた。


 とはいえ、俺に対する冒険者たちの心証は様々。


<人心大全>のおかげで、

 人の感情や思惑は、吹き出しのように見えてしまう。


「こいつに聞けば何か掴めるらしい」

 そんな期待の視線。


「戦わないくせに口出しするやつ」

 冷めた視線もある。


 当たり前だ。

 俺は前線に立たない。血も流さない。


 ちなみに、この世界に来たとき、俺も一度は冒険者になることを考えた。

 だが、ステータスを見てすぐに理解した。


 剣も魔法も、俺の居場所じゃない、と。


<人心大全>で覗く他人の数値と比べれば一目瞭然だ。

 俺はただの一般市民。

 けれど、不思議と悲観はしていない。


 前線で体を張る、勇敢で才能のある人間たちが――

 潰れてしまわないようにする。


 歌舞伎町でも、この世界でも、

 俺が考えていることは結局それだけだ。


 だからこそ、断定的なことは言わない。

 最後に判断するのは、いつだって冒険者自身だ。


 でなければ、

「あなたのおかげ」は、いつか「お前のせいで」に変わる。


 ⸻


「うちのパーティじゃ無謀だって言われてるんだが、

 なんとか覆す方法はないか?」


 目の前の冒険者は、

 ライバスという上位ダンジョンへの挑戦を望んでいた。


 だがギルドは許可を出さない。

 実績も、成功例も足りない。


 勇気か、蛮勇か。

 判断の難しいところだ。


 成功率は――四割。

 勧められる数字じゃない。


「ギルドの判断はもっともです。

 今のままじゃ、リスクとリターンが釣り合わない」


「……やっぱり、そうか」


 冒険者が肩を落とした、そのときだった。


「成功率?」


 低く、刺すような声が割り込む。


「そんなもん聞く前に、前に出ろ」


 場が静まった。


 声の主はザナス。

 アリアさんと同じAランクの冒険者だ。


 ザナスは俺を親指で指し、吐き捨てる。


「こいつはノーリスクだろ。

 酒場で酒飲んで、高みの見物だ」


 ――ごもっとも。

 そこに気づけるだけ、頭は回る。


「俺はな、後ろで指示するだけのヤツは信用しねぇ。

 身体を張らねぇ言葉に、責任はねぇ」


 ザナスの目は、鋭かった。


「いつだって身体を張るのは前線だ。違うか?」


 俺は少しだけ間を置いた。


「……そうですね」


 そして続ける。


「だからこそ、

 その前線が潰れない選択肢を、増やしたいんです」


「綺麗事だ」


 ザナスは鼻で笑う。


「こいつの言葉を信じて失敗しても、

 血を流すのは前線だ。

 こいつは何も失わねぇ」


 沈黙が落ちる。


 ――前に立つ者への敬意は、誰よりも持っている。

 だからこそ、俺は後ろに立つ。


 俺は、最初の相談者に向き直った。


「こうしませんか」


「……何を?」


「ギルドに条件を出すんです。

 指定の依頼を三つクリアしたら、

 ライバスへの挑戦を認めてほしい、と」


 二人が黙って聞いている。


「『出来るか出来ないか』じゃなく、

『どうなれば出来るのか』を聞くんです」


「なるほど……」


「目的を明確にして、

 そこまでのプロセスを共有する。

 それだけで話は前に進みます」


 ザナスの内心に、

 小さく「……確かに」が浮かんだ。


 ――やはり、頭は悪くない。


「……好きにしろ。

 だがな、前線は嘘を見抜く」


 ザナスはそれだけ言い残し、酒場を後にした。


 重たい沈黙が、しばらく場に残る。


 ふと、近くにいた冒険者が小声で言った。


「ザナス、ピリピリしてたな」

「ああ……次の依頼、相当危ないらしいぜ」


 なるほど。

 ギルドの判断、後方の都合。

 そこに押し出される形で、前線に立たされているわけか。


 ――身体を張るのは、いつだって前線だ。


 ザナスの言葉は乱暴だが、間違ってはいない。

 俺自身、そこに最大の敬意を払っているつもりだ。


 だからこそ、俺は前に立たない。

 剣も魔法もない人間が、覚悟だけで前線に立てば、

 それは勇気じゃなく、無責任だ。


 だが――


 前線でもなく、後方でもない。

 その中間に立つ人間は、

 都合よく使われ、

 都合よく切られる。


 判断を促し、選択肢を示し、

 ときには背中を押しながらも、

 結果の責任だけを問われる場所。


 そして、前線が崩れたとき、

 最初に割を食うのは、

 たいていその「ちょうどいい位置」に立っている人間だ。


 それでも俺は、

 その場所に立つことを選んでいる。


 前線が潰れないために。

 後方が無自覚に人を使い捨てないために。


 バランスが大事だ。

 それはわかっている。


 だが、そのバランスを保つ役割は、

 誰かが引き受けなければならない。


 それと同時に、

 俺は今「お前のせいで」を引き受けられる立場なのか? と、

 自身の中途半端な立ち位置にも歯痒さを感じている。


 俺は、空になったジョッキを置き、

 もう一杯を頼んだ。


 ザナスの次の依頼。

 それが、なぜか頭から離れなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。


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