第4話 黒服、頼られる。
※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。
先日のアリアさんの一件以来、俺の周りが少しだけ騒がしくなった。
酒場にいれば、隣の席から声をかけられる。
「ちょっと聞いていいか?」と。
相談の内容は、たいてい軽い。
パーティ内の報酬配分だとか、
この依頼を受けるべきかどうか、とか。
俺は女神から与えられたスキル――
女神いわく《人心大全》というらしいが――
それで見えた情報をもとに、無難な助言を返しているだけだ。
報酬は取っていない。
せいぜい、酒を一、二杯奢ってもらうくらいだ。
本来なら無償で仕事をするなんて、俺の主義じゃない。
だが、今は情報収集と人脈づくりの時期だと割り切っている。
それに、下手に商売っ気を出して目立てば、ギルドに目をつけられる可能性もある。
今日もいつもの酒場で、いくつか相談に応じていたときだった。
奥の席から、やけに強い視線を感じた。
――まずいな。冒険者じゃない。
どこかのギルドの人間だ。
この酒場は冒険者向け。
ギルド職員が好んで来る場所じゃない。
そんな場所で、わざわざ俺を探すギルドの人間。
嫌な予感しかしなかった。
「ちょっといいか?」
ついに、その男が声をかけてきた。
「冒険者以外の方は珍しいですね」
「ああ。俺はランドールギルドのサブマスター、バスクという。
最近、冒険者の連中がやたらと相談する男がいるって聞いてな」
俺とバスクさんは、店の奥のカウンター席に移動した。
話を聞くに、ランドールギルドは中規模で、歴史もそこそこある。
だが最近は、大手ギルドに大型案件を取られ続け、
どうしても割に合わない仕事が回ってくるらしい。
成功率は下がり、
冒険者の離脱も増え、
負の流れが止まらない。
その打開策を相談できないか、ということだった。
――中小企業あるあるだな。
俺は、以前担当していた工務店の社長の顔を思い出した。
とはいえ、俺の能力は直接会わなければ使えない。
バスクさんに案内され、ギルドの詰所を見せてもらうことにした。
詰所は職人街と市場の境目にあった。
以前見た、やたら金のかかった大手ギルドとは違い、
質実剛健――正直に言えば、あまり金はなさそうだ。
ただ、装備は良く手入れされ、建物も清潔だ。
こういうところは、信用できる。
詰所にいた二つのパーティと話をしてみた。
実力は十分。戦力不足とは感じない。
だが――
疲弊値が高い。
モチベーションも低い。
前衛向きの人材が後方に回り、
支援向きの人材が無理に前に出ている。
配置がちぐはぐだ。
さらに、実績に関係なく報酬がほぼ横並び。
受けている依頼も、似たような討伐案件ばかり。
「バスクさん。報酬はどういう仕組みです?」
「ランクごとの一律制だ。
差をつけると、不満が出るからな」
「……気持ちはわかります」
俺は一度、言葉を選んだ。
「ですが今の形だと、
よく働く人ほど、損をする構造になっています」
「それでもな」
バスクさんは腕を組む。
「うちは中規模だ。全員が一軍だと思ってやってもらいたい」
なるほど。
理想論としては、間違っていない。
「それ、見せ方次第だと思います」
「見せ方?」
「はい。エースパーティは作ったほうがいい。
報酬も、立場も、少しだけ上に置く。
ただし、素行と成果は厳しく管理する」
バスクさんは少し考え込んだ。
「他の連中が腐らないか?」
「逆です。
“あそこに行きたい”という目標ができます。
今は、どこに行っても同じ、になってる」
さらに続ける。
「それと、依頼内容が偏りすぎです。
薬草採取や地図作成向きの人材もいる。
適材適所で回したほうが、成功率は確実に上がります」
キャバクラも同じだ。
メインで指名を取るキャスト。
場を支えるヘルプ。
全体を回す黒服。
役割を分けてこそ、チームは強くなる。
「……俺は、昔の自分と同じ動きを
皆に求めすぎていたのかもしれんな」
「芯の部分は、間違ってないと思いますよ」
その後、軽く世間話をして詰所を出た。
「うちに来ないか」と誘われたが、
まだ決めるつもりはない。
この世界も、自分の力も、
もう少し見てからでいい。
今回は、ギルド案件ということで
軽めの報酬を受け取った。
この世界に来て、
初めて自分で稼いだ金だ。
……今日は、少し良い酒を飲もう。
俺は再び、酒場へと足を向けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。
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