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キャバの黒服は勇者向きではないので 異世界で人を動かし無双してみた  作者: CHORO_


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2/6

第2話 黒服、出会う。

※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。

 木製の重厚なカウンター。

 重そうな甲冑を着込んだ荒くれ者たち。

 歌舞伎町の安居酒屋と、そう変わらない空気が、ここにもあった。


 酒場には、どの世界でも情報が集まる。

 酒が入れば警戒心は下がり、本音が漏れる。

 異世界でも、それは同じらしい。


「最近、あそこのギルドは払いが悪い」

「北のダンジョンに隠し部屋が見つかったらしいぞ」


 俺はカウンターの端に腰を下ろし、

 木樽の形をしたジョッキに並々と注がれたビールを口に運びながら、

 何気ない会話に耳を澄ませていた。


 歌舞伎町の路上で刺されて死んだ――はずの俺は、

 気がつけば女神と名乗る女に声をかけられ、

 そのままこの世界に放り込まれた。


 理由も使命も、正直よくわからない。

 ただ一つ言えるのは、この世界で生き延びるには情報が要る、ということだ。


 街に転移させられた俺は、真っ先に酒場を探した。

 癖である。


 集めた断片的な話から、この世界の仕組みが見えてきた。

 冒険者はギルドに所属し、依頼を受け、報酬を得る。

 ギルドは複数存在し、条件も待遇もまちまち。

 実力がなければ、大きな仕事にはありつけない。


 ――なるほど。

 キャバクラと在籍嬢みたいなもんか。


 そう考えた途端、腑に落ちた。


 そしてもう一つ。

 この世界に来てから、俺には奇妙な感覚があった。


 意識して人を見ると、

 職業、年齢、戦闘力、魔力、魅力。

 それに、これまで積み上げてきた実績のようなものまでが、

 自然と頭に流れ込んでくる。


 数値は絶対じゃない。

 高くても実績が伴わない者もいれば、

 低くても虚勢と立ち回りで生き残っている者もいる。


 ――結局、人は数字だけじゃない。

 数字が全てとも言える世界にいた俺だが、本心からそう思った。


 酒場の中央が、ひときわ賑わっていた。


 話題の中心にいるのは、騎士風の装いをした女性。

 赤毛のポニーテール。

 動きやすそうな赤い甲冑。

 体格に不釣り合いなほど大きな剣を携えている。


 明るく、距離が近く、誰にでも笑顔を向ける。

 放っておいても人が集まるタイプだ。


 ステータスを見れば、周囲の冒険者より一段高い。

 戦闘力も、実績も。

 そして何より、魅力の値が突出していた。


 ――店にいたら、間違いなく売れる。


 だが同時に、違和感もある。

 距離が近すぎる。

 頼まれ慣れている。


 不意に、アカリさんの顔が浮かんだ。

 店に入ったばかりの頃の、あの感じ。

 人懐っこくて、断れなくて、

 搾り取られかけていた頃の姿。


「なあアリア、明日のギズモバード討伐なんだけどさ」


 声をかけた冒険者が言う。

 彼女の名前は、アリアらしい。


「また手伝ってくれないか?」


「ギズモバードって、先週Bランクが失敗したやつだろ?」

 別の男が茶化す。


「大丈夫だって。アリアはAランクだし。

 ギルドもOK出してくれた」


「報酬はいつも通り、人数割でいいよな?」


 話はすでに決まった空気だった。

 アリアは一瞬だけ迷い、すぐに笑顔を作る。


「うん、いいよ!」


 ――断れない。


 隣で聞いていた男が、低く呟いた。


「アリアがいなきゃ、無理な仕事なのにな」


 俺は席を立ち、その卓に近づいた。


「失礼。少し、いいですか」


 視線が集まる。


「その依頼、アリアさん抜きだと成功率は?」


 わざと、全員に聞こえる声で。


「……五分五分、くらいかな」


「彼女が入ると?」


 答えは、数字として見えていた。


「八割ですね」


 空気が止まる。


「成功率がそこまで変わるなら、条件も変わるべきだ」


 依頼主の男が眉をひそめる。


「横から何だよ」


「安く仕入れて高く売る。

 気持ちはわかります」


 俺は淡々と続けた。


「でも、防げない鎧に金を払う意味はない。

 彼女がいなければ、この依頼は成立しない」


 周囲がざわつく。


「五人パーティですよね」


「……なんで知ってる」


「最近、調子いいでしょう。サンダーライジング」


 褒められて嫌な顔をする人間はいない。

 男は照れたように笑った。


「五人で成功率五割。

 二回に一回。

 言ってしまえば、十人分の労力が必要な仕事です」


 静かに言葉を積む。


「彼女が入ることで、その半分が埋まる。

 なら、報酬の半分を彼女が受け取ってもおかしくない」


「それは――」


 被せる。


「もちろん、仕事を取ってきたのはあなた達。

 だからまず五割はパーティの取り分。

 残り五割のさらに五割、つまり25%。

 ドロップ品は拾得者優先で半々」


 沈黙。

 やがて、男が頷いた。


「……割に合うな」


「よし、それでいこう。アリア、いいか?」


「え? あ、うん……!」


 ぽかんとした顔で、アリアは頷いた。


 人数割なら16%。

 それが25%+出来高。

 十分すぎる改善だ。


「……私、断らなくてよかったんだ」


 小さく漏れた声。


「断るのは悪じゃない」


 俺は言った。


「安く使われるのが、いちばんの罪です」


 仕事は、対価があって初めて続く。

 自己犠牲は、美談でも長続きしない。


 カウンターで飲み直す。


「嫌われるのが、怖くて」


「好かれるのと、都合よく使われるのは別です」


 アリアがこちらを見る。


「……あなた、何者?」


「潰れる前に、引き上げる役です」


 少し間を置いて、彼女が尋ねた。


「ねえ。私、もっと上に行けるかな」


「条件次第ですね」


 そう答え、俺は残っていたビールを飲み干した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。


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