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キャバの黒服は勇者向きではないので 異世界で人を動かし無双してみた  作者: CHORO_


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11/11

第11話 黒服、疑問に思う。

※剣も魔法も使えない主人公が、人身掌握と交渉術で進む異世界ファンタジーです。

 俺には作業場所として、書庫の一角が貸し出された。


 石壁に囲まれた、ひんやりとした空間。

 高く積まれた棚には、帳簿や資料がぎっしりと詰め込まれている。

 紙とインクの匂いが、静かに鼻をついた。


 ……さて。


 どこから手をつけるか。


 ひとまず俺はミリアに、

 ここ数ヶ月分の資料を持ってくるよう頼んだ。


 経理の帳簿。

 依頼の管理簿。

 冒険者の稼働状況。

 職員の給与リスト。


 とはいえ、俺自身は経理の専門家ではない。

 数字の羅列から何かを見抜く、という訓練を受けてきたわけでもない。


 だが――


 違和感くらいは拾える。


 それで十分だ。


 ミリアは淀みなく資料を選び出し、

 俺の前に積み上げていく。


 迷いがない。


 どこに何があるか、完全に把握している動きだ。


 ……なるほど。


 こういう“調査”が来ること自体、

 想定の範囲内というわけか。


 俺は一冊目の帳簿を開いた。


 ――数分後。


 思わず、息が漏れた。


「……露骨だな」


 まず、冒険者の取り分が低い。


 依頼報酬の二割が冒険者。

 残り八割がギルド。


 俺がこれまで見聞きした限りでも、

 悪質なところで五分。

 まともなギルドなら七三、あるいは八二で冒険者寄りだ。


 この割合は、明らかに逸脱している。


 さらに。


 成功報酬の支払いが遅い。


 依頼実施から支払いまでの期間が、

 異様に長い。


 わざと寝かせているのか、

 単に処理が追いついていないのか。


 そして――


「……人が、いない」


 この規模の依頼数に対して、

 職員が少なすぎる。


 書類上の件数と、

 実際に目にする人員の数が、

 まるで釣り合っていない。


 普通なら、

 事務専門のスタッフが何人も必要なはずだ。


 だが、詰所で見かけるのはほとんどが冒険者。


 裏方が、いない。


 ――いや。


 いない、わけじゃない。


 “見えない”だけだ。


 数字の異常はわかった。

 だが、数字だけでは構造は見えない。

 そして、この数字もギルドが「見せても構わない」という範囲のものだろう。

 この世界では、この程度なら問題ではないのかもしれない。


 現場を見る必要がある。


 俺は帳簿を閉じ、書庫を出た。




 詰所の中は、昼の時間帯ということもあり、

 それなりに賑わっていた。


 食堂のようなスペースでは、

 数人の冒険者が食事をとりながら雑談をしている。


「また報酬減らされたんだが」


「ここ最近依頼多すぎだろ……」


「でもまあ、ここが一番稼げるんだよな」


 耳に入ってくるのは、

 似たような愚痴ばかりだ。


 俺は何気なくその場に立ち、

 <人心大全>を開く。


 浮かび上がる感情。


 不満。

 疲労。


 そして――依存。


 ……なるほど。


 俺の中でひとつ、輪郭ができる。


 ブラックだ。


 間違いなく。


 だが同時に、

 壊れてもいない。


 むしろ――


「妙に、回ってるな……」


 不満がありながら離れない。


 負担は大きいが、依頼は集まる。


 結果として、

 稼ぎは悪くない。


 歪だが、

 成立している。


 問題は――


 誰がこれを成立させているか、だ。




 俺はミリアのデスクへ向かった。


 そして、思わず足を止める。


「……冗談だろ」


 そこにあったのは、

 書類の“山”ではなかった。


 壁だ。


 人の背丈ほどに積み上がった紙束が、

 いくつも連なっている。


 その向こう側で、

 紺色のとんがり帽子が

 ゆらゆらと揺れていた。


「これ……全部あなたが?」


「人が足りないので」


 ミリアは顔も上げずに答える。


 ペンを走らせる音だけが、

 規則的に響いている。


 俺は<人心大全>を覗いた。


 疲労。

 義務感。

 そして――諦め。


 感情が、擦り減っている。


 だが、折れてはいない。


 ……厄介だな。


 こういうタイプは、

 一番壊れにくくて、

 一番壊れたときに取り返しがつかない。


 何か声をかけよう、そう思ったその時。


 詰所に怒号が響いた。




「責任者を出せ!」


 受付前で、

 スキンヘッドの男が怒鳴っていた。


 筋骨隆々。

 いかにも武闘派の冒険者だ。


 <人心大全>で確認する。


 所属は――外部。


 なるほど。


 単発依頼で来たクチか。


「責任者は不在ですので、私が伺います」


 ミリアが前に出る。


 声音はいたって冷静。

 だが、わずかに疲労が混じる。


「依頼の話が違う!

危険度Cって聞いてたのに、実際はBだ!

それでこの報酬は何だ!?」


 典型的なトラブルだ。


 アリアさんの時も似たようなことがあった。


 あの時は流したが、

 普通はこうなる。


 問題は――


 どう収めるかだ。


 俺は一歩引いて、見ることにした。


「確かに、危険度に誤りがあったようです。申し訳ありません」


「謝って済むか!」


「差分の報酬は規定に基づき、後日――」


 ミリアが、止まる。


 一瞬だけ、思考が走る。


 そして。


「……今、お支払いします」


 即断だった。


 俺はわずかに目を細める。


 規定外だな。


 だが、場は収まる。


 結果として、

 男は報酬を受け取り、

 不満を残しながらも帰っていった。


 ……うまい。


 最小の摩擦で終わらせた。


 だが――


 代償は?


 俺は無意識に<人心大全>を開いた。


 ミリアの状態を確認する。


 焦りはない。

 不安もない。


 代わりに――


「……減ってる?」


 思わず声に出た。


 ステータス欄の“持ち金”。


 その数字が、

 さっきの支払い分だけ減っている。


「……自腹か」


「……あとで精算しますので」


 ミリアはそれだけ言って、

 何事もなかったかのようにデスクへ戻っていった。


 事務。

 対応。

 損失補填。


 全部一人で背負っている。


 ――違うな。


 このギルドを回しているのは、

 あの刈り上げじゃない。


 この人だ。




 俺はミリアの後ろに立ち、

 無造作に書類を一枚手に取った。


 依頼書。


 ……だが。


「?」


 違和感。


 内容が、薄い。


 いや――薄すぎる。


 依頼詳細:現地にて。

 危険度:要調査。

 発注者:匿名。


 ……なんだこれは。


 依頼書の体を成していない。


「それ、最近増えてるんです」


 ミリアが手を止め、

 こちらを見ずに言った。


 珍しい。


 自分から話しかけてきた。


「内容は現地任せ。

発注者も曖昧。

でも、報酬だけは妙にいい」


 淡々とした説明。


 だが<人心大全>には、

 わずかな色が浮かぶ。


 ――不安。


「受ける人も多いです。

……お金になりますから」


 そりゃそうだ。


 だが。


 俺の中で、

 何かが引っかかった。


 曖昧な依頼。

 匿名の発注者。

 高すぎる報酬。


 そして――


 このギルド。


 俺は依頼書を見つめたまま、

 ゆっくりと息を吐いた。


 ……なるほど。


 これはただのブラック企業じゃない。


 もっと別の何かが、

 奥にある。


 そんな気がしてならなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

キャバクラ黒服という異色の主人公が、剣も魔法も使わず、人を動かして進む物語です。


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