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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
9/15

【Ⅷ】 孤独と大太鼓の章

 私は小学1年生の時から、3年生まで和太鼓をやっていた。

その理由は幼少期にあった。


かつて大内保育園では毎年、和太鼓クラブ『天龍(テンロン)』の招待演奏会があった。そこでは、毎年年長5人が、中太鼓を体験させてもらえる時間があった。

『それでは、年長さんには、太鼓の体験をしてもらおうと思います!やりたい子、手を挙げて!』

『はぁい!!』

やはり演奏がカッコよかったので、太鼓をやってみたいという園児は何人もいた。

無論、カッコいいと感じた瑠璃も手を挙げた。

あんな大きな太鼓。(たた)いたら絶対に楽しいんだろうなあ。そんな期待を胸に小さな手を、誰よりも高く挙げたつもりだった。


しかし、

『川見くん、田中さん、雫石くん、月館さん…あと…』

すると、瑠璃の隣にいた少し大柄な男の子が『はい!』と声を上げる。

『は、はい!!』

瑠璃も慌てて、習うように手を挙げた。

しかし…

『じゃあ〜、田和辺くん』

『よっしゃ!!』

田和辺(たわべ)真也(しんや)。瑠璃のクラスの中でも、暴君と言われていて、瑠璃よりも体も力も強い彼。

『…え、私やりたかった…?』

瑠璃が信じられなさそうに目をパチクリさせる。

『瑠璃は、体ちっちゃいんだから、こんな大きな太鼓できないでしょ?』

『…えっ?』

その冷酷な瞳と、彼女の小さな身体を見下すような物言い。瑠璃は意図せず震えた。

せっかく声を上げたのに…。

『…え、こう?』

『そ!もっと腕上げてね!』

どん!

『そうそ〜う!』

そのあとは、太鼓の音自体が耳障りだった。だって…やりたいって言っても、身体の大きさのせいで出来なかったんだから。



それから小学校に上がった瑠璃。ずっと諦め切れなかった瑠璃は、近所の友達、久遠筝馬に和太鼓を相談した。

『なら、天龍に入ったら?』

『え、てんろんって、私でも入れるの?』

『俺が入ってるんだから当たり前だ』

『…私、太鼓やりたいっ!!』

そんな思いから、すぐに瑠璃は天龍を始めた。



入会した1日目から、有望株と瑠璃は歓迎された。

そして久遠筝馬と白鬼(はっき)こと高津戸日心が案内してくれた。

『これが、締太鼓だ』

『筝馬くん、これ音ちっちゃいね』

すると日心が彼女の肩をたたく。

『大きいのがやりたいの?』

『うん!瑠璃、おっき〜い太鼓がやりたい!!』

『でも中太鼓無いんだよな。人数埋まってるから』

『え〜』

『仕方なし、ちょっとリスク有りの太鼓だが、やってみる?』

『うん!!』

そんな瑠璃へ、日心はある場所へ案内した。

太鼓倉庫だ。

『ここには、色んな太鼓があるけど…』

日心はその場を動かず、何かを指さした。

『あれかな』

『…!?』

瑠璃は、うおー!と驚きの声を上げる。

目の前の3尺の太鼓。

その太鼓は大きかった。例えるなら戦艦の大砲くらいの大きさがあった。打面だけでも、優に1メートル近くはあるだろう。

『これ、東藤太鼓って言って、この町の太鼓工房で作られた太鼓の中で1番、大きいんだけど…、大人でさえ負担がヤバいから、誰もやりたがらないんだ』

その説明でてっきり、瑠璃は落胆すると2人は思っていた。しかし…

『…これ、私がやっていいの?』

逆に目をキラキラと輝かせた。

『え、やるの?』

その返答には、日心のみならず筝馬も驚いた。

『…やる!!』

やってみたい!と思った瑠璃は、早速やってみることにした。



天龍の監督の上田から、早速バチを貰った瑠璃。

たたいてみる。

とんっ!

しかし、間の抜けた音だけが響いた。

『…まず、身長っすね』

『だな』

筝馬も言う。

結局、1日目の個人練習では、瑠璃が太鼓を叩く時の姿勢やバチの持ち方に充てられた。


次の練習日。

木造りの大きな台に乗った瑠璃は、本格的に教わることとなった。

『バチは全面的に打つ!』

『ぜんめんてき?』

指導されながら叩く。しばらく…ではなくあっという間に覚えた瑠璃は、ひとつのリズムを刻むことにした。

『…じゃあ、まずは手拍子通りに。ギュッとしてどーん!』

分かりやすい例えに、瑠璃はバチを思い切り握った。

『うん』

そして、言われた通りに、思い切りバチを皮へ叩きつける。

どどぉーーーん!!!!!!

その時、辺りの緩んだ空気が、大太鼓ひとつによって締め上げられる。

なんだ!?これは?

瑠璃は、今までにないくらいに、目を大きく開いた。

気持ち良い、そして楽しい!!

叩く度、風圧が髪を揺らすのだ。

全身にこびり付いていたモヤモヤが、一斉に体から抜けていく感じがした。

床や空気さえも震わさんばかりの爆音に、まるで雷を操っているかのような気分になった瑠璃は、すぐに大太鼓に夢中になってしまった。


しかし、ただ叩くだけでは大きな音は出ない。

だから彼女は、力のかぎり腕と手を使って太鼓を叩いた。

「手、大丈夫?」

しかし、小学1年生の女の子の手の皮は薄い。それを上田には、心配されてしまった。

「はい、大丈夫です」

瑠璃は当時、大人しめの女の子で、何か困ったことがあっても、言おうとはしなかった。

だから、発見が遅れた。

よく手を血まみれにしては、簡易的な治療を繰り返していた。


(…あっ)

手に擦り傷を負い、皮から血が床に滴った時も…

(いたいけど、がまん)

木目へ染みそうな鮮血を、靴で弾いた。

そもそもアドレナリン過多の体質を持つ彼女は、演奏中の痛みはあまり感じなかった。

傷を負っても尚、隠しに隠し続け、本気で演奏する瑠璃は、やがて『プロ』や『最強』などと持て囃されるようになった。しかし、それと同時に他の人と、大きな壁を作り出してしまっていた。

(…さみしい)

大人でも扱うのが難しい太鼓を、たった1人で演奏する。そんな彼女には、やがて誰も寄り付かなくなった。大好きな太鼓をできたのと、同時にそれは、瑠璃に孤独を与えていた。


「…古叢井さん」

「…」

誰かに話し掛けられたい。

その為には、もっと練習しなくちゃいけない。

みんなに『うまいね』って言われたいから。


幼き彼女はただ、それだけの為にバチを振るっていた…。でも結局はひとりだ。

「疲れたぁ。たたかれてどう?」

だから、何故か楽器と会話する癖もついた。

しかし、そこで付いた尋常じゃない破壊力は、後にティンパニ破壊事件への引き金となったのだった。



一方、瑠璃の使用する超大太鼓は、催事のイベントでは使うことができなかった。あまりにも大きく、移動が大変だからだ。

その時は…?



瑠璃が小学2年生の夏。東大内町の夕涼み会で、天龍が呼ばれた。

夏の夜空に太鼓の音が鋭く突き刺さる。その勇ましい音を更に盛り上げるかのように…

ぼわぁーーーん!!!!

銅鑼の音が鳴り響いた。

たたいているのは、瑠璃だった。

「…すん」

撥を太ももまで戻し、小さく息を吐く。

普段、横打ちの瑠璃にとって、平太鼓は難しいとのことで、子供にも負担の掛かりにくい簡単な銅鑼を任されたのだ。

バットを思い切り振るように、瑠璃は右手いっぱいに握った撥を、目の前の巨大な鋼鉄にたたきつける。耳をつんざくような響きに、少し嫌な気持ちになったが、楽しいのでセーフだった。


しかし…小学4年生になる前に…辞めさせられてしまった。

その理由は、定期演奏会で、大太鼓を叩く所を母に見られてしまったからだ。

「…あれじゃあ、皆に迷惑が掛かっちゃうよ…」

瑠璃の使う大太鼓は、持ち運びに負担がかかる。それが迷惑だと親に止められてしまった。



『…ぐすん』

ずっと楽しかったのに、もう2度とできないのかな?

それを、たまに話す諸越冬一に目撃された。

『…瑠璃ちゃん、やめないで…』

『ごめん、冬一くん!?』

その時、背後から重みを感じる。ぎゅう…と体が重さに悲鳴をあげる。

『…お願い』

『……』

瑠璃は静かに泣き出した。

急に男の子に抱きしめられて、怖いという感情よりも、こうして誰かに止められたのが、何よりも嬉しかったからだ。

嬉しい感情のはず…なのに、それは嫌にトラウマとして残ってしまった。


吹奏楽部に入っても、母からはまた同じ反応をされた。

また…太鼓をやったら、誰かに嫌がられるのかな…?

読んでいただきありがとうございました!

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次回もお楽しみに――!!





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