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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
8/15

【Ⅶ】 ふたりの絆の章

「瑠璃ちゃん、来たね!」

「お姉ちゃん!こんにちは!」

今日も今日とて練習日だった。最近はソロコンテストの練習ばかりとなっている。

「今日は何か別のことをするの?」

「あ、よく分かったね!」

いつもなら優愛は、集結された打楽器の前にいるのに、今日はスネアドラムという小太鼓の前にいるからだ。

「今日はロールの練習しようかなって」

「ロール?」

瑠璃は首を傾げた。何だろうそれ?

「ろーるって何?」

「それはねー、こういうの〜」

すると、優愛はスティックを手首で振る。

じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら…!

細かな音が勢いよく、音楽室へと放たれる。

ぱんっ!

風船が弾けるような音で、辺りの空気が静まり返る。

「うわぁー!カッコいい♪運動会でやってたやつだ!」

「うん!瑠璃ちゃんも、できるようになった方が良いかな〜って」

「…できるようになりたい!!」

瑠璃が目を煌めかせる。幼い光を宿した光が絶えることはない。

「じゃあ、やってみよっか?」

「うんっ!」

恐らく、今のうちにやらなければ、瑠璃はロールを覚えぬまま、2年生になってしまうだろう。その時、もしもロールが必要な場面に出くわしたら、と考えたのだ。


「……」

その様子をドア越しに、白夜が覗いていた。

(喧嘩…してる訳じゃないのかな?)



この日の部活終わり。

「…ねぇ、優愛ちゃん」

「あ、白夜ちゃん、どうしたの?」

「る、瑠璃ちゃんのことで…確認したいことがあってね」

「ん?瑠璃ちゃんのこと?」

「うん。瑠璃ちゃんと、喧嘩でもしたのかな?って」

「!?」

どうして?優愛が驚くと、白夜が先日のことを言う。

「…優愛ちゃんは先輩なんかじゃないって、言ってたから、何かすれ違いでもあったのかなって」

「えぇー!そんなこと言ってたの?」

大きくショックを受けてしまった。

「う、うん…。言ってたの」

「私…、何か…しちゃったのかな…?」

「心当たりないの?」

「ないよ!だって瑠璃ちゃん、いっつも懐いてくれてるもん!」

「…喧嘩…したわけじゃないのかぁ。ごめんね」

「う、ううん」

しかし優愛は、瑠璃に対して不審感を抱いてしまった…。



翌朝。土曜日だが今日も活動日だ。 

しかし、優愛の気分は非常に憂鬱であった。その理由は、白夜からの言葉だった。

『優愛お姉ちゃんは先輩なんかじゃない!って』

もしかしたら、普段太鼓ができない不満が大爆発したのだろうか?

真相を聞きたいが、それで瑠璃との仲が悪くなってしまえば、2人で出るソロコンの意味がない。


考えかねていた時だった…。

「お姉ちゃん!おはよ!」

「わぁっ!」

瑠璃が後ろから肩をたたいてきた。瑠璃が肩をたたくと中々に痛い…。

「今日もロールっていうのやるの?」

「う、うん。出来るようになりたいでしょ?」

「うん!たっくさん叩きたい!」

純粋無垢な少女は、他の子が嫌がるような練習も、楽しそうにやってくれる。自分とはまた違うタイプだと改めて実感した。



音楽室に入ると、誰かがコチラへ手を降ってきた。真っ白なセーラー服は、少し遠い神平高校の制服だ。

「…相楽…先輩!?」

その姿を見た優愛は、目を大きく丸めた。

「さがら?」

瑠璃が首を傾げる。目の前の少女が『さがら』というのだろうか?

「優愛ちゃん、元気にしてた?」

「先輩!お久し振りです!」

あ、優愛が彼女へ寄った。ということは、悪い人ではないのだろうか?そう思った瑠璃はトコトコと歩み寄る。

「優愛…ちゃん、この方は?」

「この方はね、相楽奏世先輩!打楽器の先輩!」

「さがらかなよ?」 

目の前の奏世という少女は、身長がスラッとしていて、真っ黒な髪も整われていて綺麗だ。目も凛としていて、何でも見やすそうだな、と瑠璃は心の中で思った。

「…この子が後輩さん?お名前は?」 

「こ、古叢井瑠璃ですっ!」

「こむらい?ここら辺じゃ…()っかない名前ね〜」

そう言って奏世は、部員たちの目標と書かれた紙たちへ寄る。

「へぇ〜…。古いの『古』に、叢雲の『叢』、井戸の『井』なんだ〜。珍しい苗字だね」 

「えへへへ。ありがとございます」

瑠璃が深く腰を折る。

「礼儀正しい子だね…。何?優愛ちゃんが躾けたの〜?」

「あ、いえ!全然」

すると瑠璃はギクリと体を凍らせた。

「…瑠璃ちゃん?」

「あ、いや、何でも…!」

その反応が面白くて、フフッと奏世は笑う。

「ちょっと古叢井ちゃんが演奏してるとこ、見てみたいなぁ〜」

「あ、分かりました」

瑠璃がトコトコと棚からスティックを握る。

「…和太鼓みたいな握り方するね。やってたのかな?」

奏世がひとり言う。すると、スネアドラムを基礎打ちする。腕の小さな筋肉が揺れるのを、服の繊維越しにでも分かってしまう。

「いやぁー、やってなかった…って言ってましたよ」

「嘘だぁー。だって古叢井ちゃん、腕使って叩いてるもん」

「…相楽先輩はお囃子やってますもんね」

「うん!今でもバリバリ叩ける」

すると途端に、激しい音が響き渡る。


「古叢井ちゃん!」

「あ、あい!」

「…腕使うのやめてみてー」

「…難しいなぁ」

瑠璃は手首だけを細かく振る。しかし和太鼓をやっていた癖で、思わず腕が出てしまう。

「ね?やめてって言ってるでしょ?」 

その時、奏世が低い声でそう言った。

「……」

「あ…」

途端、瑠璃は顔を沈めて、手首だけを使って叩く。こうやって怒られるのが怖いので、必死に癖を抑える。

「…ちょっと、瑠璃ちゃんは繊細だから、そうやって怒っちゃ駄目ですよ!」

「えぇえ!?……ごめん」

「あとで瑠璃ちゃんに、謝ってください」

だが、確かにこうやって飴と鞭の指導だったな、と思い出して優愛は懐かしそうに微笑んだ。


「………」

「ご、ごめんねぇ、瑠璃ちゃん」

「…ハイ」

しばらく経ったあとも、瑠璃は優愛の背中に隠れて、奏世を避け回していた。

「る、瑠璃ちゃん、相楽先輩たしかに怖いけど、優しいんだよ」

優愛が宥めると、瑠璃は頰を少し膨らませる。

「…優愛お姉ちゃんが言うなら」 

「ねっ?」 

すると瑠璃は小さく頭を下げる。

「…私もごめんなさい。相楽先輩」

「あ、お姉ちゃんじゃない…」

何とか和解できた2人。

「じゃあ、古叢井ちゃん、少しふたりでお話ししよっか?」

「えっ?はい…」

奏世が2人きりで、と持ち掛けてきたので、瑠璃はコクリと頷き承諾した。



2回目の休憩時間。 

奏世は瑠璃を、音楽室と教室を繋ぐ連絡橋に、呼び出し話し出す。

「ねぇ、古叢井ちゃんって太鼓やってた?」

「…やってた…と言ったら…?」

瑠璃は少し困ってしまう。

「その反応、優愛ちゃんには内緒かな?」

「で、できれば…」

「わかった。まぁ、優愛ちゃんとは、あんまり会えないけど」

奏世はケラケラと笑う。その反応を信頼することにした。

「…実は和太鼓やってました」

「やっぱり!」

「大きい太鼓を…」

そう言って、手を大きく開いて丸をつくる。

「そっか。大きい太鼓ほど、腕を使うもんね…」

「はい」

「…さっきは本当にごめんね」

事情が完全に笑った奏世は、改めて瑠璃に謝る。

「ううん。私も言う事聞けなくてごめんなさい」

瑠璃もぺこりと謝る。小さなその姿を、奏世には少し寂しそうにも見えた。

「いい。古叢井ちゃんのやりたい演奏をすれば良いよ」

「うん!」

しかし…完全に心は晴れなかった。

…とある理由から、言い出せなくなったしまった理由。

それは…

読んでいただきありがとうございました!

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次回もお楽しみに――!!





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