【Ⅶ】 ふたりの絆の章
「瑠璃ちゃん、来たね!」
「お姉ちゃん!こんにちは!」
今日も今日とて練習日だった。最近はソロコンテストの練習ばかりとなっている。
「今日は何か別のことをするの?」
「あ、よく分かったね!」
いつもなら優愛は、集結された打楽器の前にいるのに、今日はスネアドラムという小太鼓の前にいるからだ。
「今日はロールの練習しようかなって」
「ロール?」
瑠璃は首を傾げた。何だろうそれ?
「ろーるって何?」
「それはねー、こういうの〜」
すると、優愛はスティックを手首で振る。
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら…!
細かな音が勢いよく、音楽室へと放たれる。
ぱんっ!
風船が弾けるような音で、辺りの空気が静まり返る。
「うわぁー!カッコいい♪運動会でやってたやつだ!」
「うん!瑠璃ちゃんも、できるようになった方が良いかな〜って」
「…できるようになりたい!!」
瑠璃が目を煌めかせる。幼い光を宿した光が絶えることはない。
「じゃあ、やってみよっか?」
「うんっ!」
恐らく、今のうちにやらなければ、瑠璃はロールを覚えぬまま、2年生になってしまうだろう。その時、もしもロールが必要な場面に出くわしたら、と考えたのだ。
「……」
その様子をドア越しに、白夜が覗いていた。
(喧嘩…してる訳じゃないのかな?)
この日の部活終わり。
「…ねぇ、優愛ちゃん」
「あ、白夜ちゃん、どうしたの?」
「る、瑠璃ちゃんのことで…確認したいことがあってね」
「ん?瑠璃ちゃんのこと?」
「うん。瑠璃ちゃんと、喧嘩でもしたのかな?って」
「!?」
どうして?優愛が驚くと、白夜が先日のことを言う。
「…優愛ちゃんは先輩なんかじゃないって、言ってたから、何かすれ違いでもあったのかなって」
「えぇー!そんなこと言ってたの?」
大きくショックを受けてしまった。
「う、うん…。言ってたの」
「私…、何か…しちゃったのかな…?」
「心当たりないの?」
「ないよ!だって瑠璃ちゃん、いっつも懐いてくれてるもん!」
「…喧嘩…したわけじゃないのかぁ。ごめんね」
「う、ううん」
しかし優愛は、瑠璃に対して不審感を抱いてしまった…。
翌朝。土曜日だが今日も活動日だ。
しかし、優愛の気分は非常に憂鬱であった。その理由は、白夜からの言葉だった。
『優愛お姉ちゃんは先輩なんかじゃない!って』
もしかしたら、普段太鼓ができない不満が大爆発したのだろうか?
真相を聞きたいが、それで瑠璃との仲が悪くなってしまえば、2人で出るソロコンの意味がない。
考えかねていた時だった…。
「お姉ちゃん!おはよ!」
「わぁっ!」
瑠璃が後ろから肩をたたいてきた。瑠璃が肩をたたくと中々に痛い…。
「今日もロールっていうのやるの?」
「う、うん。出来るようになりたいでしょ?」
「うん!たっくさん叩きたい!」
純粋無垢な少女は、他の子が嫌がるような練習も、楽しそうにやってくれる。自分とはまた違うタイプだと改めて実感した。
音楽室に入ると、誰かがコチラへ手を降ってきた。真っ白なセーラー服は、少し遠い神平高校の制服だ。
「…相楽…先輩!?」
その姿を見た優愛は、目を大きく丸めた。
「さがら?」
瑠璃が首を傾げる。目の前の少女が『さがら』というのだろうか?
「優愛ちゃん、元気にしてた?」
「先輩!お久し振りです!」
あ、優愛が彼女へ寄った。ということは、悪い人ではないのだろうか?そう思った瑠璃はトコトコと歩み寄る。
「優愛…ちゃん、この方は?」
「この方はね、相楽奏世先輩!打楽器の先輩!」
「さがらかなよ?」
目の前の奏世という少女は、身長がスラッとしていて、真っ黒な髪も整われていて綺麗だ。目も凛としていて、何でも見やすそうだな、と瑠璃は心の中で思った。
「…この子が後輩さん?お名前は?」
「こ、古叢井瑠璃ですっ!」
「こむらい?ここら辺じゃ…聞っかない名前ね〜」
そう言って奏世は、部員たちの目標と書かれた紙たちへ寄る。
「へぇ〜…。古いの『古』に、叢雲の『叢』、井戸の『井』なんだ〜。珍しい苗字だね」
「えへへへ。ありがとございます」
瑠璃が深く腰を折る。
「礼儀正しい子だね…。何?優愛ちゃんが躾けたの〜?」
「あ、いえ!全然」
すると瑠璃はギクリと体を凍らせた。
「…瑠璃ちゃん?」
「あ、いや、何でも…!」
その反応が面白くて、フフッと奏世は笑う。
「ちょっと古叢井ちゃんが演奏してるとこ、見てみたいなぁ〜」
「あ、分かりました」
瑠璃がトコトコと棚からスティックを握る。
「…和太鼓みたいな握り方するね。やってたのかな?」
奏世がひとり言う。すると、スネアドラムを基礎打ちする。腕の小さな筋肉が揺れるのを、服の繊維越しにでも分かってしまう。
「いやぁー、やってなかった…って言ってましたよ」
「嘘だぁー。だって古叢井ちゃん、腕使って叩いてるもん」
「…相楽先輩はお囃子やってますもんね」
「うん!今でもバリバリ叩ける」
すると途端に、激しい音が響き渡る。
「古叢井ちゃん!」
「あ、あい!」
「…腕使うのやめてみてー」
「…難しいなぁ」
瑠璃は手首だけを細かく振る。しかし和太鼓をやっていた癖で、思わず腕が出てしまう。
「ね?やめてって言ってるでしょ?」
その時、奏世が低い声でそう言った。
「……」
「あ…」
途端、瑠璃は顔を沈めて、手首だけを使って叩く。こうやって怒られるのが怖いので、必死に癖を抑える。
「…ちょっと、瑠璃ちゃんは繊細だから、そうやって怒っちゃ駄目ですよ!」
「えぇえ!?……ごめん」
「あとで瑠璃ちゃんに、謝ってください」
だが、確かにこうやって飴と鞭の指導だったな、と思い出して優愛は懐かしそうに微笑んだ。
「………」
「ご、ごめんねぇ、瑠璃ちゃん」
「…ハイ」
しばらく経ったあとも、瑠璃は優愛の背中に隠れて、奏世を避け回していた。
「る、瑠璃ちゃん、相楽先輩たしかに怖いけど、優しいんだよ」
優愛が宥めると、瑠璃は頰を少し膨らませる。
「…優愛お姉ちゃんが言うなら」
「ねっ?」
すると瑠璃は小さく頭を下げる。
「…私もごめんなさい。相楽先輩」
「あ、お姉ちゃんじゃない…」
何とか和解できた2人。
「じゃあ、古叢井ちゃん、少しふたりでお話ししよっか?」
「えっ?はい…」
奏世が2人きりで、と持ち掛けてきたので、瑠璃はコクリと頷き承諾した。
2回目の休憩時間。
奏世は瑠璃を、音楽室と教室を繋ぐ連絡橋に、呼び出し話し出す。
「ねぇ、古叢井ちゃんって太鼓やってた?」
「…やってた…と言ったら…?」
瑠璃は少し困ってしまう。
「その反応、優愛ちゃんには内緒かな?」
「で、できれば…」
「わかった。まぁ、優愛ちゃんとは、あんまり会えないけど」
奏世はケラケラと笑う。その反応を信頼することにした。
「…実は和太鼓やってました」
「やっぱり!」
「大きい太鼓を…」
そう言って、手を大きく開いて丸をつくる。
「そっか。大きい太鼓ほど、腕を使うもんね…」
「はい」
「…さっきは本当にごめんね」
事情が完全に笑った奏世は、改めて瑠璃に謝る。
「ううん。私も言う事聞けなくてごめんなさい」
瑠璃もぺこりと謝る。小さなその姿を、奏世には少し寂しそうにも見えた。
「いい。古叢井ちゃんのやりたい演奏をすれば良いよ」
「うん!」
しかし…完全に心は晴れなかった。
…とある理由から、言い出せなくなったしまった理由。
それは…
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