【Ⅳ】 管打楽器ソロコンテストの章
それから数日後の美術室。
優月は完成させた絵を友達に見せびらかす。
「想大くん、これどう?」
「…上手いやん」
「想大くんの絵も見せてよ?」
「…ほれ」
想大は掲げるように、自身の絵も見せる。
「…うっま!」
「ンなことないよ」
「いや、絶対うまいって!」
想大の描いた学校の風景はかなりの出来だった。夕日のパステルブルーからオレンジへのグラデーション。そして校舎の光の反響。
保育園の頃から続けているだけある出来だ。
「…何したら、そんなにうまく描けるの?」
優月が訊く。
「さぁな。取り敢えず、部活に集中すれば…」
「そういえば、今日は吹部の音が聴こえないね」
「あ、」
確かに、と話していた想大も気が付いた。
「どおりで、優月くんの声がよく聞こえるわけだ」
「想大くん?」
「あ、いや、別に貶したわけでは…」
「…」
優月が不審げな視線を浴びせると、想大は食い入るようにタブレットのキーボードを叩く。
「お!それより…、1回行ってみたい所があるんだよ」
「行ってみたい所?」
優月が想大の画面を見る。
そこに写っていたのは、壮大な光の森だった。幾つもの色彩豊かな光が、夜の広場を照らす…イルミネーションだった。
「イルミネーション…、超綺麗。ここ何処?」
「どこかのホールのイルミらしい」
「どこかのホール?」
「んあ。めっちゃ綺麗だよな。一度行ってみてー」
「…行ったら?」
優月が尋ねると、想大は意外な提案をしてきた。
「んじゃ、一緒に行かないか?」
「えっ?イルミネーションに?」
「ああ。優月くん、暇な時ある?」
「土曜日なら全部暇でーす」
そう言って、傍らの絵に手をつける。そろそろ終わりそうだ。
「…土曜日。じゃ、12月の第1土曜日にするか!私立の受験勉強もあるし」
「はぁー、もう受験かぁ」
優月は拭いきれない焦燥を床へ落とす。去年までは楽しく絵を描いていた。その過去が懐かしい。
「…まぁ、いいじゃないか!受験終われば遊べるし」
「…そうだね」
優月は頷いた。確かに受験が終われば、春休みなどに幾らでも遊べるのだ。
その頃。
音楽室では、顧問の笠松が、吹奏楽部員全員を招集していた。
「…管打楽器ソロコンテスト?」
その名に聞き覚えのある1年生もいたようで、口々に何かを言っていた。
「はい!」
しかし、笠松はその緩んだ空気を一気に引き締める。
「…今年は、このコンテストに出たいと思います!」
そして、概要の説明を始める。
「…管打楽器ソロコンテスト。この大会は吹奏楽連盟の大会で、いきなり県→支部→全国となります」
この『管打楽器ソロコンテスト』このコンテストは少しばかり規則や形式が違う。
まず、この大会は『ソロとしての優秀な奏者』を発掘する為に行われている。アンサンブルコンテストとは違って、1人からどんな楽器でも出場が可能なのだ。トランペットからコルネット。クラリネットからエスクラリネット、チューバからスーザフォンまで、どんなジャンルの楽器でも演奏が可能だ。そこで優秀な成績を収め、プロを目指す者も数多い。 有名な奏者でいえば、ホルン奏者の野々村葉菜やオーボエ奏者の鈴木燐火など、優秀な奏者も多数現れている。
「このコンテストは、各楽器1人から4人で演奏します」
顧問、笠松明菜の言葉にガヤガヤと声が湧く。
「ですが、人数が少ないので…、人数の多いパートだけ出てもらいます」
その声に辺りがざわつく。
「トランペットは4人、クラリネットも4人、そして…打楽器が、榊澤さんと古叢井さんで出てもらいます!」
「…はい!」
優愛だけが返事をする。瑠璃は想定外の指名でたじろいだ。
「古叢井さーん?」
「は、はい!」
3年生が去りし今、この吹奏楽部は大分人数が減った。この学校は、12月の中旬まではどの部活も自由参加だが、志望校への受験勉強に追われるので、部活へ参加する者は少ない。
笠松は話しを続ける。
「それで、打楽器の形態ですが、2人でマルチパーカッションをしてもらいます!」
「…まるちぱーかっしょん?」
「?」
瑠璃は意味がよく分からなくて、何度も瞬きをする。マルチとは何なのか?
(まるち?マルチーズなら知ってるのに)
どうでもいい事を頭の中で考えてたって、結局それらしい答えは出てこない。頭の中のクエスチョンマークは増えるばかりだった。
「先生、マルチパーカッションって何ですか?」
指示終わりの笠松に、瑠璃が真っ先に訊く。優愛に聞いても分からなかったからだ。
「マルチパーカッションはね、何個もの楽器を組み合わせて演奏することを言うの」
「へぇ…」
よく分からないけれど楽しそう。瑠璃は思ったことを、そのまま口へ出した。
「そこで古叢井さんには、色々な太鼓の演奏をしてもらうよ」
「…えっ?太鼓ですか?」
「そ、それを皆の前で披露してもらうよ」
太鼓…とは、ドラム等だろうか?
そう思っていると、笠松は皆には見えない角度でスマホを見せる。
「こういうのね」
画面には、3人の男女が大量の打楽器を一斉に奏でる動画があった。
見たところ、とても楽しそうに見える。
「やったぁあ…」
また思いっきり叩けるのかな?
瑠璃は、大きく目を輝かせたのだった。
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