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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
5/15

【Ⅳ】 管打楽器ソロコンテストの章

それから数日後の美術室。

優月は完成させた絵を友達に見せびらかす。

「想大くん、これどう?」

「…上手いやん」

「想大くんの絵も見せてよ?」

「…ほれ」

想大は掲げるように、自身の絵も見せる。

「…うっま!」

「ンなことないよ」

「いや、絶対うまいって!」

想大の描いた学校の風景はかなりの出来だった。夕日のパステルブルーからオレンジへのグラデーション。そして校舎の光の反響。

保育園の頃から続けているだけある出来だ。

「…何したら、そんなにうまく描けるの?」

優月が訊く。

「さぁな。取り敢えず、部活に集中すれば…」

「そういえば、今日は吹部の音が聴こえないね」

「あ、」

確かに、と話していた想大も気が付いた。

「どおりで、優月くんの声がよく聞こえるわけだ」

「想大くん?」

「あ、いや、別に貶したわけでは…」

「…」

優月が不審げな視線を浴びせると、想大は食い入るようにタブレットのキーボードを叩く。

「お!それより…、1回行ってみたい所があるんだよ」

「行ってみたい所?」

優月が想大の画面を見る。

そこに写っていたのは、壮大な光の森だった。幾つもの色彩豊かな光が、夜の広場を照らす…イルミネーションだった。

「イルミネーション…、超綺麗。ここ何処?」

「どこかのホールのイルミらしい」

「どこかのホール?」

「んあ。めっちゃ綺麗だよな。一度行ってみてー」

「…行ったら?」

優月が尋ねると、想大は意外な提案をしてきた。

「んじゃ、一緒に行かないか?」

「えっ?イルミネーションに?」

「ああ。優月くん、暇な時ある?」

「土曜日なら全部暇でーす」

そう言って、傍らの絵に手をつける。そろそろ終わりそうだ。

「…土曜日。じゃ、12月の第1土曜日にするか!私立の受験勉強もあるし」

「はぁー、もう受験かぁ」

優月は拭いきれない焦燥を床へ落とす。去年までは楽しく絵を描いていた。その過去が懐かしい。

「…まぁ、いいじゃないか!受験終われば遊べるし」

「…そうだね」

優月は頷いた。確かに受験が終われば、春休みなどに幾らでも遊べるのだ。






その頃。

音楽室では、顧問の笠松が、吹奏楽部員全員を招集していた。

「…管打楽器ソロコンテスト?」

その名に聞き覚えのある1年生もいたようで、口々に何かを言っていた。

「はい!」

しかし、笠松はその緩んだ空気を一気に引き締める。

「…今年は、このコンテストに出たいと思います!」

そして、概要の説明を始める。

「…管打楽器ソロコンテスト。この大会は吹奏楽連盟の大会で、いきなり県→支部→全国となります」


この『管打楽器ソロコンテスト』このコンテストは少しばかり規則や形式が違う。

まず、この大会は『ソロとしての優秀な奏者』を発掘する為に行われている。アンサンブルコンテストとは違って、1人からどんな楽器でも出場が可能なのだ。トランペットからコルネット。クラリネットからエスクラリネット、チューバからスーザフォンまで、どんなジャンルの楽器でも演奏が可能だ。そこで優秀な成績を収め、プロを目指す者も数多い。 有名な奏者でいえば、ホルン奏者の野々村葉菜やオーボエ奏者の鈴木(すずき)燐火(りんか)など、優秀な奏者も多数現れている。


「このコンテストは、各楽器1人から4人で演奏します」

顧問、笠松明菜の言葉にガヤガヤと声が湧く。

「ですが、人数が少ないので…、人数の多いパートだけ出てもらいます」

その声に辺りがざわつく。

「トランペットは4人、クラリネットも4人、そして…打楽器が、榊澤さんと古叢井さんで出てもらいます!」

「…はい!」

優愛だけが返事をする。瑠璃は想定外の指名でたじろいだ。

「古叢井さーん?」

「は、はい!」

3年生が去りし今、この吹奏楽部は大分人数が減った。この学校は、12月の中旬まではどの部活も自由参加だが、志望校への受験勉強に追われるので、部活へ参加する者は少ない。


笠松は話しを続ける。

「それで、打楽器の形態ですが、2人でマルチパーカッションをしてもらいます!」

「…まるちぱーかっしょん?」 

「?」

瑠璃は意味がよく分からなくて、何度も瞬きをする。マルチとは何なのか?

(まるち?マルチーズなら知ってるのに)

どうでもいい事を頭の中で考えてたって、結局それらしい答えは出てこない。頭の中のクエスチョンマークは増えるばかりだった。



「先生、マルチパーカッションって何ですか?」

指示終わりの笠松に、瑠璃が真っ先に訊く。優愛に聞いても分からなかったからだ。

「マルチパーカッションはね、何個もの楽器を組み合わせて演奏することを言うの」

「へぇ…」

よく分からないけれど楽しそう。瑠璃は思ったことを、そのまま口へ出した。

「そこで古叢井さんには、色々な太鼓の演奏をしてもらうよ」

「…えっ?太鼓ですか?」

「そ、それを皆の前で披露してもらうよ」

太鼓…とは、ドラム等だろうか?

そう思っていると、笠松は皆には見えない角度でスマホを見せる。

「こういうのね」

画面には、3人の男女が大量の打楽器を一斉に奏でる動画があった。

見たところ、とても楽しそうに見える。

「やったぁあ…」

また思いっきり叩けるのかな?

瑠璃は、大きく目を輝かせたのだった。

読んでいただきありがとうございました!

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次回もお楽しみに――!!





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