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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
4/15

【Ⅲ】 本音とはじまりの章

それから少し経った日。

その日の個人練習時間。

優愛が小太鼓(スネアドラム)を演奏し終えると、隣に瑠璃が居ないことに気付く。

「あれれ?瑠璃ちゃん?」

瑠璃は嫌々ながらも、優愛が大好きだという理由でいつも一緒にいる。

何かあったのか?と優愛が音楽室を見渡すも、中北ひとりだった。

「中北ちゃん先生、瑠璃ちゃんを見ませんでしたか?」

すると中北は首を横に振り、

「見てないね」

と心配そうに言う。

瑠璃を捜しに、優愛が音楽室の隣にある楽器室に入る。

「瑠璃ちゃーん…?」

その時だった。

「ぐすん…、すっ…!」

嗚咽が聴こえた。この声は、瑠璃のものだとすぐに気が付いた。

「瑠璃ちゃん?」

次に名前を呼んだ時には、優愛特有の元気さは、しぼんでいた。

楽器のない薄暗い空間。そこで瑠璃は腕に顔を沈めて泣いていた。

「…だ、大丈夫…!?どこか痛い!?」

優愛は咄嗟に駆け寄り、瑠璃の肩を優しく叩く。

「見ないで…」

「どこか痛いの?」

「お…おねえ…ちゃん……。ううっ…」

彼女の目元は彼女自身の涙で歪み、体を震わせていた。あの元気な彼女が、ここまで泣くとは、余程のことがあるのだろう、と優愛は思った。

「…待っててね」

そう言って、優愛は、音楽室へと戻って行く。

「中北先生!瑠璃ちゃん、体調悪そうなので、保健室に連れていきます!」

優愛の剣幕に「ええ…」と中北は狼狽の声を上げる。 

優愛は、泣いている瑠璃の肩を持つと、中北に言う。

「えっ?瑠璃ちゃん!?」

中北が駆け寄ろうとするも、優愛は瑠璃の小さな体を、手で覆うようにして庇う。

「…私1人でも、大丈夫なので…笠松先生に言っておいてください」

優愛はそう言って、瑠璃を保健室に連れて行った。

廊下でも、他のパートの生徒に見られないように、優愛は瑠璃の肩を優しくさする。彼女が泣いている理由は知らないが、体調不良ではないことだけは分かった。

「瑠璃ちゃん、保健室行こ?」

「…誰もいないなら」

「じゃ、決まりだね」

それ以降は、何も話さなかった。


保健室の先生に話しを通した優愛は、瑠璃をベットに寝かせる。

「…大丈夫?」

優愛が訊く。しかし瑠璃は首を横に振る。

「私…部活辞めたい」

その衝撃的な言葉に、優愛が悲しそうに目を細める。

「何か、あったの?」

すると、瑠璃がこくりと頷いた。

「先生がね…言ってたんだ。来年入ってきた子に太鼓やらせるって…」

「…もしかして、太鼓やらせてもらえないことに不満を持ってる?」

そう彼女が訊ねると、彼女が首を縦に振る。

「…私、鍵盤やりたくて、入ったわけじゃないのに…」

そうなのだ。瑠璃は太鼓やりたさで入部しただけなのだ。それは、優愛も承知している。でも、

「それは、仕方ないよ。吹奏楽なんだから」

と宥めるように言った。

すると瑠璃の顔が真っ赤になる。

「…おねーちゃんに、何がわかるの!?」

「…!」

「私がやりたい楽器をやらせてもらえなくて…どれだけ悔しかったか。どれだけ辛かったか…」

彼女の本音が、いつもとは違う乱暴な口調で吐き出される。

「…うん」

優愛はその一言に、出そうとした言葉を沈めた。瑠璃は大きな声を上げたというのに、肩を揺らす動作もない。

「…辛かった…の?」

優愛がそう訊ねると、瑠璃はハッ!としたように瞳孔を大きく開かせた。

「ご…ごめん…。私…」

「不満が…あるんだね…?」

「うん…。私もおねーちゃんと同じ楽器をやりたいのに…」

「そっか」

こう返すことしかできなかった。

「ごめんね」

こう謝るしかできなかった。

今まで、笑って交わしてくれた彼女がここまで辛かったんだとは。全く思わなかった。

それでも、瑠璃には言っておきたいことがあった。

「…でもね」

その時、優愛の目が、鋭くなる。

「…最後にそれを決めるのは、笠松先生たちじゃないんだよ」

「…え?」

「私たちが決める、いや決めなくちゃいけないの!!」

その言葉に瑠璃が「本当?」と訊く。

「本当だよ。それにその未来を変えるのなら、瑠璃ちゃんも変わらなくちゃいけない」

それを聞いた瑠璃は真っ白な布団に顔を蹲る。

「辛かったよね。私のせいで…。私がバカな先輩だったせいで…」

悔恨の念を吐くように、優愛がそう言って、瑠璃の頭を撫でる。

「…ううん。私が悪いの」

すると瑠璃がそう言って顔を上げた。

「おねーちゃん、ごめんなさい。私、言い過ぎたよ…」

「…ううん」

優愛はそう言って、瑠璃の頬に伝う涙を,指で拭う。

「分かった…。私、先生に、太鼓やらせてもらえるように頼んどくよ」

その優しい声に、瑠璃の体は少しずつ軽くなる。

「あ、ありが…とう」

「色々、言ってくれて、ありがとね」

すると、瑠璃は優愛にしがみついた。

「…うん」

自分の我儘に寄り添ってくれる優愛が先輩で本当に良かった…と瑠璃は思う。


「あ、あの〜…」

その時、1人の生徒が入ってきた。どうやら部活中に怪我をした人らしい。

「…あ、ごめん!は、入って!」

「お姉ちゃん…」

「あ!私、保健室の先生じゃないよー」

その下りが面白くて、瑠璃はつい吹き出してしまった。

(お姉ちゃん、やっぱ面白いなあ)

とても優しいのに、自分を真面目に考えてくれる。まるで姉のようだ。

紅愛と日心。

なぜか、ふたりの顔が浮かんで見えた。



—瑠璃の告白から数日後—

部活前、優愛は職員室を訪れた。

「失礼します」

「あ、榊澤さん」

そんな彼女に1番に気付いた先生は、笠松だった。

「どうしましたか?」

「実は、先生に相談がありまして」

すると笠松は、優愛を心配そうな目つきで見る。

「何?」

笠松の穏やかな声に空白を入れると、

「近ごろ、本番はありますか?」

そう訊ねた。

「…本番?うーん、茂華祭で終わり…だと思いますけれど。何かの本番に出たいんですか?」

その問いに、優愛は少し強めに言う。

「瑠璃ちゃんに、太鼓させてあげたくて…」

「!!」

明らかに驚いていた。

優愛は更に畳み掛けるように言う。

「何か…ありませんか?」

「…そうねぇ」

笠松は少し考え込むように黙り込んだ。



「…アンサンブルコンテストとか?あ、」

しかし、笠松は途中で言葉を止める。

「それじゃあ、また古叢井さんが鍵盤になっちゃう…」

「…」

優愛は表情を沈める。このままでは、瑠璃が本当に潰れてしまうかもしれない。

太鼓をやりたいという、瑠璃の願いを叶えてあげたいのに。


「…あ!」

その時、笠松が声を上げる。

「そういえば…、12月あたりにあった気がする」

と同時に、笠松はパソコンで何かを検索にかける。

「…何が、ですか?」

優愛は少し不安な眼差しで、パソコンを見下ろす。

「これ、管打楽器ソロコンテスト」

「…!?」

カーソルをクリック。すると、全日本吹奏楽連盟のホームページへ飛んだ。

【10月24日更新 R3年度管打楽器ソロコンテストについて】

その文字を再びクリック。

「このコンテストは、鍵盤とパーカッションセットのどちらかを、少人数で演奏します。古叢井さんのいい練習にもなるかも…」

「…先生」

喜色を隠さない笠松に、優愛は声をかける。

「…来年、もし打楽器の1年生が入ってきたら、今年みたくずっと瑠璃ちゃんに、鍵盤をやらせますか?」

その問いに、笠松は真剣な眼差しでこちらを見る。

「…本当はせっかく入ってくれたから、色んな楽器をやらせてあげたい。でも、古叢井さんほど鍵盤ができる子も、ほんっとうに貴重」

「…」

「だから、コンクールでの鍵盤枠は、古叢井さんがベストだと、今は思っています」

「…そうですか」

優愛は少し悲しさの混じった声を、床へぽつりと落とした…。


 一体、これからどうなるのだろう?――

読んでいただきありがとうございました!

良ければ、、、

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次回もお楽しみに――!!





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