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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
優月と優愛 すれ違う恋編
19/20

【XV】ほろ苦い追憶の章

その翌日。この日もこの日とて、ふたりは図書室へと来ていた。

「えっ?優愛お姉ちゃんの好きなタイプ?」

瑠璃は想大に訊かれ、首をただ傾げていた。

「そう。知ってるか?」

結局、あの後は優月の代わりに、想大が訊ねることにしたのだ。

「ううん。そういう話はあんまりしないんだぁ。聞いとこうか?」

しかし彼女には苦笑で返されてしまった。どうしょうもないので、想大は瑠璃に小さく頭を下げる。

「おっ!お願いします!」

「いいよぉ」

すると瑠璃はすぐに了承した。その表情には、いつもドキッとさせられるのだった。



放課後。

「…優愛お姉ちゃん!」

「あ、瑠璃ちゃん…」

先に基礎打ちを始めた優愛に、瑠璃は話し掛けた。

「ど、どうしたの?」

瑠璃の瞳はキラキラと光に満ちていた。しかも心なしか頰も赤い。

「えっとね…!」

「どうしたの?落ち着いて」

優愛が宥めると、瑠璃は両手の拳を握り締めた。

「…優愛お姉ちゃんの、好きな人のタイプってどんな人?」

「えっ…?」

彼女はやっとの思いで問いをぶつける事ができた。瑠璃自身も、恋がまつわることで興奮しているのだろう。今か今かと答えを待っている。


しかし優愛は頰を赤らめるばかりで、ただ時が過ぎていく。ホルンやトロンボーンたちの音出しが微かに耳の奥を刺激する。

すると、やっと優愛は口に出した。

「一緒に…いてくれる人。瑠璃ちゃんみたいに」

彼女はそう答えた。その声には瑠璃への当てつけも混じっていた。 そして、恋というよりは未来への希望のように聞こえたのだ。

「私みたいに?」

「うん。私とずっと一緒にいてくれる人が良いから」

「へぇ。私となんか似てるね…」

瑠璃が丸みを帯びた顎に手を当てる。少し自分と似てるような気がしたが、少し違うとも感じた。

「…そろそろ練習、始めよっか?」

「あ、うん!」

瑠璃を以てしても、この日は大した情報は得られなかった…。



翌日。瑠璃は鉄棒の前にいる想大と優月へと報告に来ていた。

「…優愛お姉ちゃん、一緒にいてくれる人がタイプなんだって」

「ほおー…、だってさ。優月くん」

「へえ。あ…古叢井さん、ありがとね」

優月が困った顔になりながら礼を言うと、瑠璃は少し表情を苦くした。

「いえ。それに、私も申し訳ないことしちゃったから」

「?」

彼女が何を言っているのか?この時の優月には全く分からなかった。


すると瑠璃はツインテールの髪を解いた。黄色がかった髪が自由に宙を垂れる。

「…でも、優月先輩のこと、好きそうでしたよ」

そして瑠璃がそう言った。

「…い、いや、僕は」

しかしバレたくなかった優月は、頰を赤らめながらも否定し続ける。

「えっ?優月先輩じゃないんですか?」

「ち、違うよ」

無論嘘だ。

「えっ、優月くん…」

「ちょっと!想大くん!!」

すると優月が想大の口を塞ぎにかかる。そして小声で耳打ちをする。

『古叢井さんに、それ言っちゃ駄目だよ!何回かストーカー認定されてたんだから…』

『えっ?あ、そうだったっけな』 

『今は内緒なんだよ』

『悪い悪い…』

そんな怪しげな先輩ふたりに、瑠璃は小さく首を傾げた。

「…えいっとぉ」

そして両手で鉄棒を握る。腹筋に力を入れ下半身を上げる。すると、あっという間に鉄棒の上にぶら下がっていた。

「…逆上がりだ。古叢井さんできたんだ」

「できますよー」

瑠璃は嬉しそうに笑う。冬の風が彼女の長髪へとなびいた。彼女は身体能力が高いようで、鉄棒も得意なようだ。

「結局、優愛お姉ちゃんのことが好きな人って誰なの?」

結論が知りたい瑠璃はそう質問する。

「う、うーん、ここにはいないんだよな」

「ここには…。そうなんだぁ」

瑠璃は純粋で騙されやすい。想大の真剣な声にはそう反応した。



優月はただ鼓動を打ちながら、騙される彼女を見つめる。

(…告白できるまでは、バレたくない)

その理由は――彼女を初めて見た時だった。




『えっ?後輩?』

優月と優愛は中学でも仲が良かった。たまに会った時は仲良く話すような間柄だった。

『優愛ちゃん、後輩できた?』

『後輩…。妹みたいな後輩ならできたよ』

『妹…。まぁ、優愛ちゃんは小さい頃から面倒見が良かったもんねー』

『そう?』

その時だった…。


『…お姉ちゃん』

ツインテールの少女が目の前に現れる。優月より幾つか身長が低い。シューズの色が黄色なので、1年生だろう。

『お姉ちゃんに近寄らないで!』

そんな事を思っていると、少女にはそう叱責されていた。突然、優月の頭の中がクエスチョンマークに埋もれる。

『あ、えっ…?』

何故、彼女に怒られているのだろう?

次の瞬間には、無意識に首を傾げていた。大体、この少女は誰なのだろう?言い返そうとした時だった…。


『瑠璃ちゃん、優月くんはストーカーじゃないよ』

優愛が優しい目をして言った。瑠璃というのは彼女の名前だろう。

『…えっ?』

『別に付きまとわれてるわけじゃないわ』

すると瑠璃は驚いたような顔をした。

『そ、そうなの…?』

『そうだよ。小倉優月くん』

優愛が言うと、優月は彼女に話しかける。

『えっと、この子は?』

『…ああー、私の後輩の古叢井瑠璃ちゃん。すっごく可愛いでしょ?』 

『…う、うん』

確かに幼児のようで可愛いが、優愛とはまた違う可愛さだ。

『…う、うん』

そんな考えがバレないように、小さく笑みを浮かべて首を縦に振る。すると彼女は小さな声で彼に謝る。

『…え、ごめんなさい。優月…先輩』

『あ、大丈夫だよ!』

誤解が解けたようで安心した、とクスリと笑う。

『この人ね、私と同じ小学校だったの!』

更に優愛がそう言う。

『え?』

『すごく優しいんだよ』

『…そうだったんだ』

瑠璃という少女との誤解はなくなった。優月は思わず柔らかい笑みを浮かべる。

『えっと…よろしくね』

『…はい』

すると瑠璃はコクリと頷いた。だが吹奏楽部員が集まってきていた。なるべく片想いが知られたくない優月は、

『じゃあね、優愛ちゃん』 

と早急に去ることにした。

『ばいばい、優月くん』

そのあと、優愛の安心させるような別れの挨拶は忘れることがない。



瑠璃には言いたくない。

ほろ苦い記憶がいつも邪魔をする。彼女にはまだ言いたくはない。

また――何かありそうだったから。


そんな記憶も、数年後には――へと変わることになる…。

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