【XIV】恋から逃走の章
優愛から貰った青いネイルチップ。それを細い指にくっつけていく。何だか変な感触がした。
「優愛ちゃん、やっぱりネルチって高いの?」
すると優愛は笑って曖昧にした。
「ピンキリだよ。優月くんのやつは1000円くらい。100円のものもあれば、3000円のものもあるからね」
「ぼ、僕のちょっと高いね」
「だね。まぁ優月くんだから別に良いけど」
「それって…どういうこと?」
優月は優愛のことが好きだ。ドキドキと不安げな情けない鼓動を抑えつつ、彼女へ確認の響きを伝える。
「え?大切な友達…でしょ?」
「…うん」
優愛の言う通りかもしれない。だが、大切という言葉に優月は、どこか希望を見いだしていた。
「ねぇ、優愛ちゃん」
「うん、何か?」
「あの優愛ちゃん、好きな人とか…できた?」
「!?」
優愛の顔色が明らかに変わる。優愛とは次にいつ話せるか分からない。今のうちに訊いておかねば、と考えたのだ。
「…好きな人。私は瑠璃ちゃんがいちばん好き」
「!?」
次に顔色が変わったのは優月だ。少し動揺してしまった。
「瑠璃ちゃん、思ったよりね、私のことが好きだったみたい」
「それは…優愛ちゃんは凄く優しいから、好かれるだろうね」
「へへっ、ありがと。優月くんに言われたら自信付いちゃうなぁ〜」
「!?」
また動揺。ここで告白できなかった自分を、後に深く恨むのであった…。
翌日。
「…俺は瑠璃ちゃんが好きだ」
何と想大がそう言った。彼は瑠璃のことを気になっていた段階だ。急に好き…とは。
「まぁいいや、そんな訳でこれから瑠璃ちゃんに話しかけようと思ってな!」
「いつ?」
「瑠璃ちゃんは本が好きらしくて、今日は図書室で話すことにしてるんだ」
「いいなぁ」
優月はそれを心底羨ましがった。
優愛を誘っても、昼休みは白夜たちと遊んだり、クラス全体でレクリエーションをしているらしいので、昼休みの接触は大変困難を極めていた。
一方の想大はそんな事も知らず、本を読む瑠璃へ駆け寄った。
「やぁやぁ、瑠璃ちゃん。久しいな」
「想大先輩!久し振り〜」
瑠璃はあからさま嬉しそうな表情をした。ちなみに瑠璃が想大を好きな理由は、いちばん最初に仲良くしてくれた男子だから、である。
「何読んでるの?」
「あ、これねー」
瑠璃は本棚から、想大に視線を移すと本を振る。彼女の小さな体には、やけに本が似合っていた。
「…これはね、最近読み始めたのー」
「お、おお…」
表情はイラストの集合体だった。可愛くて、色鮮やかなそれは、読む人の興味を引き込むのだろう。
「めっちゃ…可愛いな」
「でしょ?『5分後に〇〇なエンド』って本なんだぁ。優愛お姉ちゃんがお薦めしてたから読んでるの」
「へ、へぇ」
どうやら優愛の影響はここでも受けてるらしい。
「すごく面白いよ!想大先輩も読む?」
「え…、いいの?」
「てか、想大先輩は本読むんですか?」
「よ、読むよ。朝の読書で」
そう言って彼は司書へ本を引き渡した。
「その…、ソロコンだっけ?それはどう?」
本を借りたふたりは、図書室のテーブルにて話し込んでいた。そこで想大が1つの問いを投げる。
「えっ、ソロコン?うーん」
すると瑠璃は、目を細めて子供のように、
「すっごく楽しいよ」
と笑った。
「そうなんだ。特に悩みとかないのか。良かった」
彼が安堵したように言うと突然、彼女はあからさまに顔をしかめた。
「…あ、でもね」
「ん?」
「先生には音量が大きいって怒られちゃう。想大先輩、私たちの音そっちまで聴こえる?」
「えっ…いや…、そんなに聴こえてないよ?」
実は耳の奥まで聴こえる、とは言えない彼はやんわりと返した。
「そ、それなら良かったぁ…」
その安堵の様子が可愛らしくて、想大は少しばかりドキッとしてしまった。
「で、でも…もしも音が大きくても…」
「?」
突然、想大が何かを言おうと顔を近づけてくる。瑠璃は目と耳をただ傾けた。
「音が大きいって、それだけやる気があるってことだと思う。それって素晴らしいことじゃない」
「…あ、」
瑠璃は何だか嬉しくなって、頰を赤らめてしまった。何だか、本当の自分を肯定されたかのようで嬉しくなったのだ。
「ありがとう…ございます」
彼女が嬉しそうにエヘヘと笑った。
「おう」
やはりその顔は愛おしかった。
「はあー、想大くんは良いなぁ」
優月は美術室にて、想大を少しばかり妬んでいた。理由は想大ばかり恋愛がうまくいっているからだ。
「優月くん、優愛さんを誘いなよ」
「優愛ちゃんったら、この前誘ったらクラスで遊ばなくちゃ駄目なんだー、って」
「それはドンマイ」
優愛と瑠璃の性格は正反対だ。何かに縛られる優愛と自由に呆けた瑠璃。当然、優愛のほうが苦戦することは必然だろう。
「…いや、んな事言ってられない!」
その時、優月の腕を掴んだ。優月はあまりの強さに少し眉をひそめてしまう。
「ど、どうしたんだよ!?」
つい痛みで口調が荒くなってしまう。そんな彼にも動じず、想大は美術室から彼と脱出する。
「おんじゃー!今から昼休みのお誘い行くぞ」
「え?部活中だよ」
「大丈夫!この前、写生に協力してもらったときだって、全然大歓迎だっただろ!」
「な、謎の自信」
(出たよ…。いきなり猪突猛進型)
想大は変な所で走る所があるのだ。しかし本当に今、音楽室に行けば大迷惑は確実だ。
…と言っても聞かなさそうなので、優月は抵抗することにした。
「想大くん!」
優月は階段の中段から一気に飛び降りる。着地にわざとらしく両手を床へつける。足にジリジリと痛みは走ったが、想大と手を離すことには成功した。
「…はぁ、想大くんったら落ち着いて」
「うう」
想大は結局、優月を音楽室へ強制連行することを諦めたのだった。




