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【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
11/15

【Ⅹ】 親からの反発の章

タンタカドコドコドンドン!パン!

瑠璃と優愛は、卒業生の奏世から、教わった場所を入念に練習し続けていた。

(…瑠璃ちゃん)

瑠璃は疲れを忘れたように、叩き続けていた。

(…私は疲れたのに、凄いなぁ)

彼女は全く疲れを見せない。体力と同時に、楽しさが彼女を突き動かしているのだ。


一通りたたいた2人は、4時50分になったので、終わりの時間になる。

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

優愛と瑠璃は、挨拶を交わすと、打楽器へ毛布をかける。

「…優愛お姉ちゃん」

「んっ?」

「私の演奏…、どうかな?」

優愛へ瑠璃は問うた。その声はどこか楽しそうな響きを含めていた。

「…上手になってきてるよ」

「わぁ、良かったぁ」

いつもは大人しそうな赤い瞳。今は大きく開いて、踊るように震えていた。

「…明日は水曜日だから、部活は休みだよ?」

「分かってるよ」

茂華中学校は、毎週水曜日は部活がない。

「優愛お姉ちゃん、ばいばい」

「あ、凪咲ちゃんたちと帰るんだっけ?ばいばい」

瑠璃は音楽室を出ると、照れたような表情をする。ソロコンの練習をする毎日が楽しい。今までは鍵盤一筋なのが不満だったからだ。


すると、ふたりの少女が手を振ってきた。

「あ、凪咲!澪子!」

「瑠璃ー」

「お疲れー」

伊崎凪咲と坂井澪子だ。凪咲はクラリネット、澪子はトランペットをやっている。ふたりは小学校時代から優秀だったらしい。

「…打楽器ももう終わったの?」

「うん。優愛お姉ちゃん、バスだから15分くらい早く終わらせてくれるんだぁ」

「優しいよね。榊澤先輩」

「優愛お姉ちゃん、本当に大好き」

瑠璃が言うと凪咲は、首を何度か縦に振って同意した。

「…あっ、」

その時、ふたりの男の子たちを見つける。


「誰かいた?」

「想大くん…」

瑠璃の出した名前は、小林想大のことだ。彼は優月と同じく美術部の部員だ。

しかし、彼は気づいてないようだった。

「…話しかけてきたらどう?」

澪子が彼女の背中を押す。瑠璃は想大のことが好きだからだ。

「…想大くん!!」


瑠璃は、すぐに想大へ話しかけた。

「んっ?」

「あ、古叢井さん」

すると、優月と想大は気が付いた。

「どうしたの?」

想大が訊く。瑠璃はいつもより、少し明るそうな顔をしていた。楽しいことでもあったのだろうか?想大はそう思った。

「…お、お疲れ様」

「お疲れ様!そろそろクリスマスだな」

「う、うん」

想大から、少し早い季節の話題を投げ掛けられ、瑠璃は大きく頷いた。

「まだ12月前でしょ?」

揃えて優月が苦笑した。

「…でも、私はまだ大会があるんだ」

瑠璃が言う。

「大会?」

想大は知らない。首を傾げて瑠璃へ訊ねる。

「大会はね、優愛お姉ちゃんと太鼓やるの!」

すると、彼女は押し気味にこう言った。

「あぁ、そういうことか」

打楽器の本番があるのか、と思いながら、想大は「頑張れ」と笑った。

「うん!!」

優月も、ふふっと笑う。瑠璃はどこか優愛にそっくりなのだ。



翌日、優月たち3年1組の体育は、持久走であった。300mトラックを走りながら、優月と想大は走っていた。

「…瑠璃ちゃん、何の大会に出るんだ?」

「打楽器のソロコンテストらしいよ」

想大の問いに、優月が腕を振りながら答える。

「ソロコンってことか?」

「そ。良いよね…。好きな人と好きなことをするって…」

「…ふ、優月くんも吹部に入れば良かったのに」

「そうだね…」

「…」

物思いにふける優月の横で、息が漏れ出る音がする。

「…てか、優月くん、ペース下げてくれよ」

「え?これくらいで良いでしょ?」

「無理!体力どうなってんだよ?」

高校に入ったら…。そんな思考を広げる彼に、持久走の疲れは伴わなかった。



その日の夜、古叢井家。

「…ふぅん、瑠璃姉、太鼓の大会に出るんだー」

「太鼓じゃなくて、打楽器だよ」

「あー、はいうん」

妹の小麦が力なく返事をする。彼女の性格は、小学生時代の瑠璃とそっくりだ。少し暗い性格をしている。

「大丈夫?先輩に迷惑掛けてない?」

その時、瑠璃の母がそう言ってきた。

「…うん!迷惑は…掛けてないよ」

夕飯のエビフライがさくりと弾ける。衣が踊るようにエビと交わり合う。口の中がソースの味で満たされる。

「最近、帰りが遅いからすごく心配」

「…そりゃあ、たくさん練習しないと」

瑠璃は優愛が忙しくない日には、6時まで練習していた。

「下校が5時なんだから、もっと早く帰ってきて」

「えぇ、もっと練習しないと、大会まで終わんないよ」

そう言うと、母は不機嫌そうな顔をした。

母だけは、吹奏楽に対して良い反応を見せないのだ。

「…だから反対だったの」

事実、最初は思い切り否定された。

「えっ?」

「小学生のときよりも、手伝いもしなくなって…。引っ越してきてスグなのに、何もしない…」

それを聞いた瑠璃の表情が沈んだ。心当たりが脳裏を鋭く突き刺す。

「あなたに吹奏楽を始めさせなければ良かった…」

その言葉に力が抜けた。幼少期みたいに否定されたようで悲しくなった。

何も家のことをしないから、家族から反感を買われてしまったのだ。

「…ごめんなさい」

「全くどうして吹部に入ったのか…」

「まぁ、良いじゃないか」

瑠璃の父が宥めると、母は小さく溜息を吐いた。

「……」

瑠璃は何も反論できなかった。

茂華中学校は強豪校だ。コンクールの練習の為に、忙しくて家の手伝いなんて出来なかった。

それが、母の不満を爆発させたのだ。




(どうしよう?私、優愛お姉ちゃんみたいに、うまくないよ)

夜中になっても、過去のフラッシュバックも混ざって、全く眠る気にはなれなかった。

(…でも、お家のお手伝いもしなきゃ…駄目だよね)

部活でやるべきこと、家でやるべきこと。

ふたつの悩みが、瑠璃の頭を締め付ける。

(でも、優愛お姉ちゃんに迷惑掛けたくない…)


せっかく…やりたい太鼓が叩けるのだ。うまくなってやりたい。優愛よりも頑張りたい。

それが唯一、自分にできる意思表示なのだから。

「私なんか…誰よりもうまくない…」

そんな力ない言葉と同時に、静かで冷たい布団を、小さな5本指で引く。

今回はたった2人だ。

瑠璃の皮楽器の技術は、正直優愛より遥かに下だ。鍵盤楽器ばかりやっていたものだから、分からないことばかりだ。天龍で培った能力など当てにもならない。

(…優愛お姉ちゃんよりも、うまくなりたいのに…!)

だから、たくさん練習して皆から認められたい。

『この子に太鼓をやらせて良かった』

そう言われたい。

でも、今はまだ程遠い。優愛は何も言わないが、間違いなく足を引っ張っているだろう。

「…もっとやりたいのに」

瑠璃は自然と瞼から涙を溢していた…。


『色々、言ってくれてありがとうね…』

優しい優愛の顔を思い出す度、無力な自分の心が締め付けられる。

本当は誰よりも優しい彼女…。

親からの反発で、壁へぶつかってしまったのだった…。

読んでいただきありがとうございました!

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次回もお楽しみに――!!





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