表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編版】 吹奏万華鏡0 打楽器ソロコンテストの章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃 打楽器ソロコンテスト編
10/15

【Ⅸ】 双姉の章

太鼓は玩具を触るみたいに楽しかった。しかし小学4年生になって、それはできなくなった。


諦め切った瑠璃が、ふさぎ込んだ時に現れた人物。

「…あなた、友達にならない?」

「えっ?」

「私は月館(つきだて)紅愛(くれあ)よ。瑠璃だっけ?よろしくね」

月館(つきだて)紅愛(くれあ)だ。彼女は姉っぽさが混じっていて、特別な能力を持っていても不思議ではない、と思うくらいの不思議な少女だった。

「…どうして私に?」

そんな彼女がなぜ、瑠璃に話しかけてきたのか?ちなみに紅愛には、狂信的な友達が多い割に、皆と親しくする場面を見たことがない。

「なんか、アナタ妹っぽいし」 

「私、一応長女なんだけど…」 

「そうだったのー。それは失礼」

少し照れたように笑った紅愛。その表情に瑠璃は安心感を感じた。

この人なら何があっても守ってくれそうだな、と思った。


その時、紅愛がとんでもない事を言う。

「…私があなたの面倒を見てあげる」

「えぇ…」

「だから、お姉様って呼びなさい」

「…」

「ね?」

紅愛は無理にウィンクした。その『信頼してください』感が可笑しかった。

「…いいよ!!」

「わっ!?」

だが、純粋無垢な瑠璃はすぐに承諾した。友達ができるなら『お姉様』呼びなど、気にもしなかった。

「じゃあ、何する?」

「それは瑠璃が決めて良いわよ。アナタが妹なんだから」

「えぇ〜、何がいいかなぁ?」

(瑠璃って…すごく純粋なのね…)

しかし、その様子は誰から見てもおかしかった。



ある日の放課後。

「…月館に無理矢理、お姉様呼びさせられてんじゃないの?」

こう男子から訊かれた。彼の顔からは、明らかに紅愛を忌み嫌っているのだと分かる。

「ううん、紅愛お姉様は、お姉ちゃんっぽいからそう呼んでるだけだよ」

「本当か?」

「紅愛お姉様のこと、嫌いなの?」

「偉そうな感じがムリ」

その言葉に、瑠璃は細い眉をへの字に曲げた。

「良いじゃん。何かあったら守ってくれそうで」

「…もういい」 

紅愛を庇うような言葉に諦めた彼。男子が去っていくと、代わるように紅愛が入ってきた。

「…瑠璃!何か言われなかった?」

「紅愛お姉様?全然!」

紅愛は、瑠璃まで孤立するのではないのか?と心配していたが、そんなことは無さそうだった。

しかし…紅愛の異質な性質のせいで、彼女自身が瑠璃に話しかけることも、あまりなかった。


それから中学1年生の春、親の仕事の都合で、瑠璃たちは茂華町へ引っ越すことになった。

「紅愛お姉様、今までありがと」

「私の方こそ」

結局、紅愛を最後まで『お姉様』呼びしていた同級生は、瑠璃たった1人だった。

「そうだ、瑠璃に良いこと教えてあげる…」

最後、紅愛は瑠璃に『あること』を教えてくれた…。




でも…天龍を辞めたあとは、全くと言っていいほど、太鼓に触れることはなかった。こうして年を重ねる事に、太鼓への未練は消えていった…。

紅愛と別れて、中学校に上がると同時、瑠璃は茂華町へと転校した。


教室にひとつの溜息が落ちる。

「…はぁ」

瑠璃は転校生だ。そのせいか、余り馴染めず友達ができていなかった。

正直いって、周りからは嫉妬されていた。誰よりも可愛い顔をしているのに、暗い性格をしている。だから、それを最初は妬まれていた…。 


歩き疲れた彼女は、外の小さな階段へ腰掛ける。春の暖かい風は、彼女の髪を静かに揺らした。誰かと行くこともないので、もう暇だった。

しかし…。

「…どうしたの?」

そんな時に会った人物が榊澤優愛(さかきさわゆあ)だった。

「…ん?誰?」

「私?私は榊澤優愛だよ。吹奏楽部、興味ない?」

「…すいそう…がくぶ?」

吹奏楽部。

瑠璃にとって、その単語は初めて聞いた。

「…うん。楽器を演奏する部活」

優愛が端的に説明する。

「…じゃあ、なんで楽器を持ってないの?」

それを聞いた瑠璃が訝しげに聞く。

すると優愛は小さな両手をパッと開いた。

「私、太鼓やってるんだ」

「…へぇ」

分かり易く説明したから、すぐに彼女は理解を示した。

「…行ってみたい!!」

「…ふふ」

優愛の優しい人柄に瑠璃は惚れた。


だから、すぐに楽器室に行った。

「…わぁ!色んな楽器があるんだね!」

「…何かやりたい楽器はないの?」

「和太鼓やりたい!」

「…わ、和太鼓?うーん、い…今準備するのは難しいなぁ」

「…うーん、じゃあ他には?」

「ドラムとか!ドラムなら、すぐに叩けるよ!」

「叩きたい!」

瑠璃が最初にハマった楽器は…ドラムセットだった。


瑠璃は嬉しそうに、スティックを握った。すると、彼女はとんでも無いことを言い出した。

「…これ、細いね?壊れないかなぁ?」

「えっ…?」

「ぎゅっとして…」

瑠璃はスティックを、思い切り握った。

「どーん!」

叩かれたタムは、叩き起こされたように震える。どぅー!と残響が空気を揺らす。

「…わぁあ!音おもしろーい!」

その音にハマった瑠璃は、愉しそうに笑う。

「…つ、強いよ」

「へへ」

久し振りに太鼓を叩いた瑠璃は、またやってみたいなぁ、と思った。

(私の新しい玩具(オモチャ)かな?)

あまりにも楽しくて、天龍のときのことを思い出す。


大太鼓をやっていた過去。それを言おうとした時だった。

「ねぇ、お名前なぁに?」

優愛が名前を聞いてきた。名札を見ても、苗字が難しいので分かりにくいのだろう。

古叢井(こむらい)瑠璃(るり)だよ」

瑠璃は恥ずかしそうに答えた。

「…こむらい…るりって言うんだ」

それを聞いた優愛が、そう言うと「うん」と頷いた。

「いい名前だね。可愛い名前」

「…えっ?ほんと?」

「…ほんとう。瑠璃ちゃん、吹奏楽部に入ってほしいなぁ…」

その言葉は、太鼓を否定された過去を持つ瑠璃にとって、何よりも嬉しかった。

「…じゃあ、私、ふたつ、お願いがあるの!」

それを聞いて優愛が「何?」と目を細める。

「…優愛先輩のこと、おねーちゃんって呼んでもいい?」

「…おねーちゃん…。いいよ」

優愛が快く了承する。すると、瑠璃の目が爛々と輝く。

「…あとひとつ…なんだけどね…私、太鼓を沢山やりたい」

「…何?楽しかったの?」

優愛がケラケラと笑いながらそう訊ねると瑠璃は満面の笑顔で「うん!」と笑う。

そこまで言う人は初めてだ、と優愛は微笑む。

「いいよ。できそうなやつは回してあげるよ」

その言葉は承諾だ。すると瑠璃は「やったぁ!」と両手を挙げる。

内気な少女だと思っていた優愛は「わっ!」と驚いた。

(紅愛お姉様の言った通りだった)

今、思えばこの出来事も、紅愛に言われたもの、そのものだった。



『いい?絶対に友達になりたい人には、特別な呼び方をするのよ?』

卒業式の日、紅愛は彼女へそう言った。

『特別な呼び方?』

『そう。例えば、私みたいに「お姉様」とか』

提案した『特別な呼び方』とは、仲良くなりたい人のことを、家族のように扱うということだった。

『お姉様かぁ…。あんま親近感ないんだよね』

瑠璃が困ったように言った。「様」を付けると、親近感が薄れてしまうような気がした。

『じゃあ、お姉様じゃなくて、お姉ちゃんとかはどう?』

『…すっごく良い!!』

瑠璃は一瞬で即決したのだった。

『…新しい中学校でも頑張ってね』

『紅愛お姉様こそ、頑張ってね』

最後の言葉を交わしたその時、ふたりの間を柔らかい春風がすり抜けた…。

読んでいただきありがとうございました!

良ければ、、、

ブックマーク

評価 ★★★★★ 

ポイント

リアクション

、、、をお願いします!!

次回もお楽しみに――!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ