【プロローグ】 孤独からの拒絶の章
小説家になろう 連載
原作
幻創奏創造団
(連載中 吹奏万華鏡シリーズ)
どぉん、どぉん、どぉん…
母に宿る胎児の鼓動のように、その音は心地よく響いた。産まれる前の赤子のように、少女は小さな手を伸ばす。大きな救いの手を求めるように、その無力そうな手を振る。だが、暗闇に包まれた泡沫は、つまらない笑い事かのように、勢いよく弾けて消えた。脳に心地よい音だけが、ただ暗闇を包みこんだ…。
心地よいはずなのに、水中にいるかのように息苦しい。
体中は悦楽に満ちているのに、心は苦しい…。
どうしてだろう?
どうして皆…、私を否定してくるのだろう?
音楽室前の廊下。そこは部活動へと向かう生徒たちの会話で満ちていた。そんな喧騒から一際離れた、ひとりの小さな少女は黄色がかかったツインテールをふわりと揺らした。
古叢井瑠璃。年は中学1年生だ。背丈はかなり小さく、可愛らしいツインテールをさげている。瞳は丸を形どったように丸く赤い。顔立ちがかなり幼く、妖精のように可愛らしい女の子だった。そんな彼女は珍しい苗字から、あまり友達ができていなかった。
『…あ、』
覗くと廊下には…今日もいた。とある女の子に付きまとう男の子を。
少女はそれを見つけると、殺意に近い赤い瞳を細める。
『…お姉ちゃん』
その名を呼ぶが、血の繋がった姉ではない。ただ彼女が勝手にそう呼んでいるだけだ。
『お姉ちゃんに近寄らないで!』
しかし、まるで妹のようにこう叫んでいた。
『あ、えっ…?』
すると目の前の少年は、困ったように首を傾げていた。彼は姉のような先輩に付きまとうストーカー…だと思っていた。
しかし…
『瑠璃ちゃん、優月くんはストーカーじゃないよ』
『…えっ?』
『別に付きまとわれてるわけじゃないわ』
その予想は大きく外れた。
『そ、そうなの…?』
『そうだよ。小倉優月くん』
すると少年は姉のような先輩へ話しかける。
『えっと、この子は?』
『…ああー、私の後輩の古叢井瑠璃ちゃん。すっごく可愛いでしょ?』
『…う、うん』
すると優月と呼ばれた彼は、小さく笑みを浮かべて首を縦に振る。
『…え、ごめんなさい。優月…先輩』
『あ、大丈夫だよ!』
優月はクスリと笑った。何だか優しい笑みだなあ、と瑠璃は思った。
『この人ね、私と同じ小学校だったの!』
『え?』
『すごく優しいんだよ』
『…そうだったんだ』
瑠璃は自分の勘違いに少し悔しくなった。
優愛…。彼女を独占したい気持ちはなかった。ただ姉を…姉を守りたいだけだった。
『えっと…よろしくね』
彼女の反省を待つ間もなく、彼はにこやかに笑ってくれた。
『…はい』
瑠璃はこくりと頷く他なかった。少し自分より背丈の高い少年に、少しばかり心臓がキュッとなった。高過ぎず、低過ぎず、丁度良い距離感の身長差だ。
『じゃあね、優愛ちゃん』
『ばいばい、優月くん』
ふたりはどこまでも仲が良さそうだった。それは瑠璃が頰を赤らめてしまうほどに…。
いいなあ。
そう思ってしまった…。
この2人はきっと孤独に飢えることはないだろう。それが何だか瑠璃には羨ましかった。
孤独…。
瑠璃の中では、常に孤独への恐れが渦巻いていた…。
それは…あの文化祭まで。
古叢井瑠璃と榊澤優愛…。
友情と感動の物語が始まろうとしていた――
その半年後――
冬の夜。色鮮やかなイルミネーションが、ふたりの少女を煌びやかに彩る。
『…優愛お姉ちゃん!私の為にありがとう』
涙を流す瑠璃。驚く優愛。
『るり…ちゃん』
映える光の中、ふたりは本当の楽器の楽しさを知ることとなる。あの感動と共に――。
長編版
吹奏万華鏡0
打楽器ソロコンテストの章
零時開演!!




