野良悪役令嬢
「おい、定男!放課後、ダンスをするからスマホ係な」
「キックトッキングにアップするのさ」
「ウケる~」
「王様君と金持君と里莉亜さん。今日はダメだよ。アイスを買って早く帰らなければいけないんだ!」
僕は野田定男、足達区第一中等学校の2年生だ。この学校、キックトッキング常連校という異名がある。
この学校ではキックトッキングというSNSにダンスを上げるのが流行っているからだ。
「はあ?俺たち友達だろう?頼みを聞いてくれよ。今月スマホのギガ使いすぎて困っているんだよぉ」
「定男のくせに断るなんて生意気だ」
「ウケる~」
「本当にヤバいんだ。うちに悪役令嬢が住み着いたんだ!怒らすとすごい怖いんだ!」
「いいから、お前のギガは俺のギガな!」
と今日も流されて、奴らのダンスを撮るハメになった。
ピョン♩ピョン♩
「アゲアゲ~」
楽しいか?ピョンピョン飛び跳ねているだけだ。
チャリン♩チャリン♩
自転車の呼び鈴がした。
振り向くと、マーガレットさんが僕を呼びに来た。
マーガレットさん。いつの間にかに我家に溶け込んだ悪役令嬢だ。
西欧人だが、中世のドレスっぽいものを着ている。意味が分からない。父さんと母さんも普通に受け入れている。おそらく、どこの物語にも所属出来ない野良の悪役令嬢ではないかと思っている。10代後半だろう。
「ちょっと!定男殿!アイスを買ってきて下さらないのかしら。アイスを食べながらゲームをする約束ですわ!」
「な、何だ。外人か?」
「コスプレ外国人だ」
「ウケる~、名古屋巻き?お水系~」
黄色のドレスを着ている。胸まで縦ロールが伸びている。
その青い目をカッと見開いて僕をにらみつける。
「定男殿のご友人かしら?」
「そうかも・・」
「なら、ご友人と遊ぶなら私に言いなさい!連絡がないから怒っているのですわ-」
「はい・・」
理由を話したら、
「あら、貴方はまるで使用人のようね。それとも使用人のような真似をしてまでダンスを撮るのが好きなのかしら?」
何て答えようか。
すると、マーガレットさんは魔法をかけた。
「自白!」
「はい、嫌です。こんな頭の悪そうなダンス見たくもありません」
「「何を!」」
「ウケる~」
するとマーガレットさんはプイと背中を向けて自転車の乗って去ろうとする。
「え、マーガレットさん。助けてくれないの?」
「殿方なら自分で何とかしなさい!」
チャリン♩チャリン♩と自転車をこいで帰って行った。
「ヒドいよ!マーガレットさん!」
「おい、定男!テメー調子に乗っているな」
「こっちに来い!」
「ウケる~」
ポカポカと制裁を受けた。
夕方、帰るとマーガレットさんはシレッと僕の部屋でゲームをしている。
スカートが大きい。座ると部屋の半分を占領する事になる。
「ヒドいよ!マーガレットさん。何故、僕を助けてくれないの!」
「助けますわ。でも、私は自分を助ける殿方の手助けしかしませんのよ」
「出て行ってよー!ドラン右衛門みたいに助けてくれないのなら無駄飯食いだよ!」
「そうよ。私に出て行って欲しいとの意思をはっきり言えるではないですか?それならもう大丈夫ですわ。今までお世話になりましたわ」
「・・・待って、行かないで下さい・・・助けて下さい。僕を強い男にして下さい」
「分かったわ。転移魔法!」
ピカッ!
と僕はどこかにつれて行かれた。
☆
「最大トーナメント開催です!東!日本!中学生、サダオ・ノダ!」
「西!秘伝格闘技!無影尊大拳、五郎老師!」
「おい、地上最強のサダオだ!」
「頑張れ!」
「チャンピオン!」
え、いきなり変な所につれて行かれた。観客が騒いでいる。どこかで見た憶えがある。
ここは?マーガレットさんは横にいた。
「あら、ここはサダオ殿が大好きなマンガの世界よ。ここで格闘をするのよ」
「何故?マンガの中に入れるの?」
「知らないわ。逆魔法よ。貴方たちの世界のネット小説ならゲームや小説の世界に入り込めてやりたい放題が流行っているでしょう?」
「そんな馬鹿な」
「馬鹿でしょう?小説の中に入れるって、だから私が魔法を構築したの」
【始め!】
「ウシシシ、若いの、ワシの無限殺法を喰らえ」
「ギャアアアーーーー」
骨を折られた。そんな。僕は主人公じゃないの?強くないのか?
「オラ、オラ、オラ!」
「ヒィ、参りました!」
この話は、主人公には歴代最強の漢と言われる父親がいる。
父親を越えるために努力をする話だ。
父親役はマーガレットさんみたいだ。強い。
しかし、僕は強くない。
ヒロインもいる。
「定男さん。どうしたの?瞬殺されたじゃない・・・弱い男は嫌いだわ」
「そんな。良子ちゃん!」
何だかんだで、全治三ヶ月の怪我を負い入院した。
退院したら母親が迎えに来た。マンガの主人公の母親だ。真っ赤なビジネススーツだ。アラフォーだが色気がムンムンだ。
「定男、どうしたの?これじゃ、企業トーナメントで勝てないじゃない」
「え」
思い出した。主人公の母親は財閥の総帥、この世界の日本企業は格闘技で決着つけるのだ。
「今日から世界で修行の旅よ」
アメリカでプロティンを飲んで筋トレをして、総合格闘技のジムに通わされた。
途中でライバルっぽい奴が出てくる。
「は~い、俺はケビン、戦場格闘技出身だぜ!勝負しろよ」
「やだよ」
「チキンだな」
タイにも行った。もちろんムエタイ修行だ。
ライバルが出てきた。
「チャンピオンのマッドコブラだ。君、日本の企業戦士なのだって?勝負しよう」
「やだよ」
「おお、なんて臆病な」
修行は真面目にした。大会にも出場したが、いつも1回戦負け続け。
二年後、日本に帰った。
空港のロビーにマーガレットさんがいた。
「フフフフ、定男殿、そろそろ修行はいいかしら」
「はい、もういいです」
何故か足を180度開脚して空港のロビーで座っていた。あの裾の長いスカートなので足はつま先ぐらいしか見えない。
「転移!」
日本に帰った。時系列はあの日だ。翌朝、学校に向かう。
「行ってきます」
「サダオ殿、帰りアイス買ってきて下さいませ。一緒にゲームをしましょう」
「分かったよ。マーガレットさん」
☆放課後
「おい、定男、お前の撮り方が悪かったせいでバズらなかったぞ」
「今日はしっかり撮れよ」
「ウケる~」
「あ、嫌だよ。今日、マーガレット姉さんにアイス頼まれているから早く帰らなければ」
「定男のくせに生意気だ!」
金持が肩を掴んできたので、サッとよけて足払いをした。
「あれ、うわわわわ」
「おりゃー!」
今度は、王様がタックルをしてきた。これも何回も練習をした。
腰を引いてタックルを潰して、膝蹴りは可哀想だ。
だから、優しく前から首を絞めた。
「ウ、ゴゴ、ギブ、ギブだ」
最後は、里莉亜か。
「ヒィ、ウケる~、近づくな」
「フ、あまりオイタしちゃいけないぜ。変なダンスをしなくても可愛いのだから」
パチンとデコピンをした。
「ウケる~」
「じゃあ、明日、学校で会おうな」
と驚いている三人を尻目にスーパーに行く。アイスを買うためだ。
「ウケる~、子宮にキュンと来たかも」
俺は修行をしたが、マンガのライバル達には一向に勝てる気がしなかったが、それでも中学生レベルではダントツらしい。
「ただいま。マーガレット姉さん」
「ほお、早くやるぞ!」
小説の世界に入るのは人生を翻弄される覚悟のある奴だけだ。
それをマーガレット姉さんは教えてくれたのかな。
「定男殿、アイスを選んでくださいませ」
「え、俺はいいよ。マーガレット姉さんが先に選びなよ。えっ」
あ、そう言えば、姉さん呼びになり。僕から俺に一人称が変わっていたことに気がついた。
もう、マーガレットさんは野良じゃなく、野田家の悪役令嬢になったのだ。
最後までお読み頂き有難うございました。