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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第12章:激突の果てに

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第34話 華やかな開幕②

 そして、エレナとジュリアンが会話を交わす横を過ぎ、ロザリアは会場をゆっくりと回るように移動し始める。目的はあくまで「今は見せ場を作らないこと」――この宴で、証拠を披露するのはまだ先のタイミング。大勢の貴族が集まっているが、焦って訴え出たりすれば逆に打ち切られてしまいかねない。


 レオンがさりげなく近づいてくると、ロザリアは横目で合図を送る。「大丈夫よ、まだ時じゃないわ」と言わんばかりに、彼も心の中で「承知しました」と応える。二人で視線だけを交わし、それぞれ別の貴族グループへ近づく。ロザリアは堂々とした振る舞いで貴族たちの談笑に加わり、当たり障りのない会話を交わす。


 たとえば、ある子爵夫人との会話では――


「まあ、ロザリア様、お久しぶりですわね。最近はさまざまな噂を耳にいたしますけれど……ご機嫌はいかが?」

「ありがとうございます、子爵夫人。噂など気にしていませんわ。こうして元気に過ごしておりますし、殿下もこのように宴を開かれるなどご活躍ですし、私も負けていられませんもの」

「そうですわね。先ほど拝見したら、エレナ様と殿下が非常にお似合いで――あ、失礼しました。あなたは……」

「いいえ、気にしないで。かつての話はもう過ぎたこと。私としては殿下が幸せであれば何よりです。そうそう、ところでこの宴、何かしら大事な発表があるのかしら? 急に開かれるなんて少し不思議で……」


 ロザリアが自然に探りを入れると、子爵夫人は「それがわからないんですよね」と言って首をかしげる。どうやら周囲の貴族も、この宴に明確な名目を見出せず、ただ「王太子が開催するなら出席するのが礼儀」と考えて集まっているようだ。ロザリアは内心で「やはり誰も事情を知らないのね」と確信する。


 会話を離れると、レオンが廊下側から現れ、「あちらでも皆、何のための宴かわからないと困惑している」と小声で耳打ちする。どうやら彼も同様の感触を得ているらしい。ロザリアは微笑を保ちながら応じる。


「それでいいわ。この戸惑いこそが私たちの狙い。殿下が特別なアナウンスをする前に、エレナたちも下手に動けないでしょうし、私たちは注目を集められる。証拠を披露する時には、皆が一気に集中してくれるわ」

「ええ。あとは殿下が合図を送るか、エレナが油断している瞬間を狙って、私たちの準備を動かせばいい。僕たちの仲間はもう散って、周囲の警戒をしてます。妨害があっても対応できるはずです」


 レオンは少し緊張した面持ちだが、頼もしさも感じる。ロザリアは「ありがとう」と声を落として、再び別の人々のほうへ視線を移す。ホールの中央では、音楽に合わせて貴族たちが軽く踊りを楽しみはじめていた。やや離れた場所にある玉座に近い一角は、王太子が来賓と挨拶を交わすスペースに使われている。


 そちらをちらりと見ると、エレナが何人かの貴族令嬢と談笑しているのが見えた。その横にジュリアンもおり、彼女の儚げな仕草に引き込まれそうな顔をしている――というより、どこか緊張して視線を避けているようにも見える。


(ジュリアン、あの人に完全に傾倒していたはずが、いまはやや距離を置いているのね。もしかしたら私との話を経て、エレナに本格的に疑念を抱いているのかもしれない)


 そう感じて、ロザリアは複雑な思いを抱く。彼が本気でエレナから離れる気があるのなら、今夜は絶好の機会だろう。でも、まだロザリアは王太子に対して素直に期待してはいない。あくまでこの宴を利用するために彼を誘導しただけで、互いの感情を修復するつもりは薄い。


 そんな思いを胸に抱えつつ、ロザリアは大広間の端へ移動する。ここからなら全体を見渡しやすいし、仲間の位置も把握しやすい。グラスを手に取るふりをして周囲を観察し、うまく時を待つわけだ。


 すると、遠くでエレナが貴族に笑顔を振りまいたあと、ロザリアのほうへ視線を向けてきた。二人の目が再び合うと、エレナは柔和な笑みを浮かべ、まるで「あなたなど怖くありません」と言いたげに首をかしげる。ロザリアは負けじと、かすかな笑いで応じながらすぐ目を逸らさずじっと見返す。


 それは短い視線の応酬。しかし、その中に激しい火花が散っていた。エレナがどれほど裏で権力を蓄え、王太子を手中にしようと計画を進めていても、ロザリアにはもう恐怖はない。いずれ暴露される真実を知っている今、むしろ「その優雅で儚げな仮面をはがしてやる」との強い意志を満たしている。


「お嬢様……こちらへ」


 ソフィアが軽くロザリアの腕を引く。音楽が一段落し、数人の貴族がロザリアのもとへ挨拶にやってきたのだろう。ロザリアは笑顔を絶やさぬように切り替え、挨拶に応じる。決して今すぐ行動を起こしてはいけない。焦りは禁物。計画は殿下が合図するか、あるいは適切なタイミングが到来してから仕掛ける。


 時間が経つにつれ、場はさらに盛り上がりを見せ、貴族たちの輪が形成されていく。金杯を合わせる音が聞こえ、談笑の輪が各所に点在している。ロザリアが一目を置かれているのは明白で、彼女がかつて王太子との婚約者だったこと、そしていまだ公爵家の有力者であることが理由だ。その注目は作戦上、まったく悪いことではない。


(あの夜会では私は断罪され、逃げるように会場を去ったけれど……同じように着飾ったこの場で、今度は私がエレナを終わらせるの。こんなに多くの人々が集まっていれば、一度に証拠を提示できるわ)


 ロザリアは心中でそう誓いながら、ちらちらとレオンの姿を探す。彼は騎士や執事と会話するふりをしながら、ロザリアの近くを巡回して警護を密かに行っているらしい。何度か目が合うが、そのたびに二人は小さく笑みを交わすだけで、余計な言葉を発しない。


 やがて王太子ジュリアンが高めの台座に設けられたステージの前へ向かい、手を叩いて場を静める。どうやら何かしらの挨拶をするつもりらしい。ロザリアもグラスを持ったまま近づき、他の貴族とともにジュリアンへ意識を傾ける。ここで何を語るのか――もしここで「新しい報せがある」とでも言われれば、ロザリアも行動に移る合図になる。


 ジュリアンはやや気まずそうな面持ちだが、朗らかさを装って口を開く。


「皆さま、今宵は私の無理な呼びかけに応じてお集まりいただき、感謝しています。日頃は国政の様々な課題で皆さまを(わずらわ)わせておりますが、このような機会を通じ、互いの親睦を深められればと願っております」


 とりあえずは無難な言葉だ。ロザリアは静かに息をつき、壇上に立つジュリアンの後ろにエレナの姿を確認する。相変わらず柔らかな微笑を(たた)えながら、まるで王太子妃のように並び立ち、貴族たちに優雅なお辞儀をしている。あの態度こそ、エレナが王家の中心を奪おうとしている証にも見えるが、ここでまだ騒ぐわけにはいかない。


「本来、こうした集まりは予定されていませんでしたが、近々行われる祭典の準備も兼ねて、皆様と意見交換をし、あわせて親睦を深めたく思いまして……どうぞ、思う存分お楽しみください」


 ジュリアンがそう締めくくると、場内からは薄い拍手が起こる。貴族たちはさらなるスピーチや発表を期待していたのかもしれないが、とりあえず乾杯が行われ、音楽が再開した。ロザリアは落ち着いてその様子を見守る。


(今はまだ何も始まらないのね。殿下としても、いきなり告発の場を設けるわけにはいかないか……もう少し時機をうかがうべきかしら)


 すると、台座から戻ったジュリアンがロザリアのそばへ一瞬近づいてきて、さりげなくささやく。


「……準備は大丈夫か。私はもう少し人々に挨拶して、いずれタイミングを作る。少し待ってくれ、ロザリア」

「わかりました。私はどこにも行かないわ。殿下が場を整えてくださるなら、そのときに」


 ロザリアは短く答え、ジュリアンはうなずく。そしてまたエレナのいる方向へ視線を流し、何か言葉を交わしに行ってしまう。ロザリアは殿下とエレナの背中を見送りながら、心に苛立(いらだ)ちを感じるものの、いずれ警戒を解かせてから一撃を放つ段取りだと自分に言い聞かせた。

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