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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第7章:浮かび上がる真相

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第20話 疑わしい証拠②

 ロザリアの声には震えが混じっていた。あの夜会のとき、自分が信じていたすべてが崩れ、王太子さえも自分を見捨てたと感じた。しかし、もしその一端にこうした「偽造の証拠書類」が絡んでいるとすれば、裏切り者の烙印(らくいん)を押されたのは完全にでっち上げられた可能性が高まる。思わず唇を嚙み締め、悔しさと安堵がない交ぜになった感情が胸に湧きあがる。


「……本当に、こんな形で私を(おとし)めたのね。誰が、何のために。王太子殿下がこんな雑な書類を信じたなんて……情けないけど、まだ間に合うかもしれないわ」

「はい、ロザリア様の潔白を証明する道が見えた気がします。ただ、まだこれだけじゃ不十分です。書類自体の出どころや、他にも同じ印章を使った書類があるかなど、さらなる裏付けが必要です」


 騎士がそう意見すると、ロザリアは深く息を吐いて「そうね」と応じる。だが、その瞳には力がこもっている。先ほどまでの絶望感が、いま少しだけ希望の色へ変わりつつあるのを、ソフィアは間近で感じ取った。


「わかったわ。やるしかないわね。もしこれが偽造だと公になれば、殿下も私を断罪した根拠が崩れる。……エレナが絡んでいるかどうかはまだわからないけど、それでも一歩前進よ」

「はい、ロザリア様。私たちが全力で裏付けを固めます。レオン様や騎士の皆さん、執事の方々の力を合わせれば、必ず糸口を見つけられるはずです」


 ソフィアの声が静かに響く中、レオンはロザリアに向き直り、まっすぐな眼差しで誓う。


「ロザリア、あなたを(おとし)めた陰謀を暴くための鍵が手に入りました。まだかすかな光ですが、これを失わないよう丁寧に突き詰めていきます。……どうか、もう少しだけ頑張ってください。あなたが崩れてしまえば、全てが水の泡になってしまいますから」

「あなたが言うと不思議と信じられるわ。私が諦めるわけにはいかないのも確かよ。わかった、任せるだけじゃなく、私も自分にできることをするわ」


 ロザリアは書類をそっと握りしめてテーブルに置き、騎士や執事たちと視線を交わす。皆が応援のまなざしを向け、彼女の言葉を静かに待っている。その光景に、一瞬ロザリアは胸が熱くなる。これだけの人が、自分を信じてくれる――それだけで、今までの孤独がいくらかやわらぐ気がするのだ。


「まずは、ここの印章と筆跡の違和感をもっと厳密に照合してみましょう。私が知っている王宮の正式文書との付き合いもあるし、書記官が使う書式にも心当たりがある。どこまでできるかわからないけど、私が協力できる範囲でサポートするわ」


 ロザリアが意欲的に語ると、執事や騎士は「かしこまりました、お嬢様」と一礼する。レオンも頼もしげに微笑む。「これなら本当にいけるかもしれない」と心から信じているのが表情に表れていた。ソフィアはそんな二人の間を見つめて、小さくうなずきつつ言葉を添える。


「私も引き続き王宮で働く使用人仲間や、街の噂を確認してきます。もし同じ印を使った文書が他にも出回っていれば、芋づる式に偽造が暴けるかもしれません」

「いいわね。エレナが何か関与しているなら、その足取りを追うことも忘れないで。あの人の周辺が急に力を持ったのも、私を(おとしい)れるための動きと無関係とは思えない」


 そう話すロザリアの表情には、確かな闘志が宿っている。まだ薄氷を踏むような状況だが、先ほどまでの停滞感が薄れ、「やるべきことがある」と自覚した興奮がうかがえるのだ。書類を手に入れたとはいえ、冤罪を(くつがえ)すまでの道のりは遠いが、一筋の光は確かに見えている。


「みんな、くれぐれも慎重に動いてちょうだい。これを王宮や殿下に向けて突き付ける前に、決定的な証拠として積み重ねられるようにしたいわ。エレナにしろ誰にしろ、証拠を隠滅される前に手を打たなくてはならない」

「承知しました、お嬢様。私たちも万全を期します。きっとお嬢様の汚名を晴らせる日が来ると信じております」


 執事が誓い、騎士たちが静かに拳を握る。レオンはそんな姿を見つめ、満足げに深く息をつく。皆が心を一つにして動き始めている。それはロザリアにとっても大きな励みとなるだろう。


「やっと、手応えを感じられるものが出てきたわね。時間はかかったけど、これで私が取り戻すべきものに一歩近づいた気がするわ」

「はい、必ず僕たちが形にしてみせます。エレナや王家を揺るがす事態になるかもしれませんが、ロザリアの名誉を挽回するために必要なら避けて通れません」

「ええ……私も覚悟するわ。もう、怖れてばかりではいられないもの」


 ロザリアは改めて書類を見下ろし、悔しそうに唇を噛みしめる。この偽造文書が、あの日の夜会での悲劇へと繋がった可能性を思うと、煮えたぎる憤りが湧き上がる。だが同時に、これこそが自分を救う鍵かもしれない。その矛盾する思いが、彼女の瞳に複雑な光を宿していた。


「では、執事や騎士の皆さんは筆跡や印章の詳しい照合、他の公文書との比較を急ぎましょう。ソフィアさんと私は外で引き続き、同じ印を使った書類がないか調べます。ロザリアには、宮廷書式の知識をお借りしながら、そちらで気づいた点を整理していただきたい」


 レオンが段取りをまとめると、全員が「かしこまりました」とうなずく。ロザリアも短く「ええ」と答えながら、胸の奥にわき上がる闘志を再確認していた。この偽造書類こそが、王太子が誤った断罪を下した証拠になり得る――そう信じられるだけで、世界が少しだけ明るく見える。


「それにしても……よくこんな書類が私の元に回ってきたものね。誰かが意図的に流したのか、それとも偶然かしら」

「詳しい経路はまだわかりませんが、陰で協力してくれる人物がいるのかもしれませんね。もしくは相手のミスが発覚したとも考えられます。いずれにせよ、こちらとしては好機です」


 騎士が低くつぶやき、ロザリアは難しそうに眉をひそめつつも「そうね」と応える。彼女はこの“偶然”を必然と捉え、絶対に無駄にしないつもりだ。エレナと王太子が結託する前に、あるいは既に結託しているならそれを崩すために、真相に近づきたい――そんな思いが、ふつふつと胸に広がっている。


「やっと歩を進められる。これまでは、自分が疑われたままどうしようもなかった。だけど、偽造が立証されれば、私にかけられた罪状がすべて虚構だと証明できるかもしれないわ」

「そのとおりです、お嬢様。王太子殿下もこれを突きつけられれば、さすがに考えを改めるでしょう。裏でエレナ様が糸を引いていたかどうかも、そこから明らかになるはず」


 ソフィアが浮かべる微笑みは、これまでにない手応えを感じてのことだろう。ロザリアも短く笑みを返し、わずかだが表情が柔らかくなる。もしこれほどの矛盾を示す書類が本当に裏で使われていたなら、王太子が知らなかった可能性も高い。そうなれば、彼がロザリアを見捨てたのは“誤った情報によるもの”と位置付けることができる。自分の誇りを正当に取り戻せるかもしれないのだ。


「では、皆さん。作業に取りかかってちょうだい。私も昔の王宮書式の文書をいくつか探してみるわ。照合に使えそうなものがあるかもしれない。それから、殿下が発行した正式通達と見比べたら、さらに矛盾が見つかるかも」

「わかりました、お嬢様。私たちも協力いたします。少し時間をいただきますが、結果はなるべく早くまとめましょう」


 執事が深く一礼し、騎士たちも各々動き始める。レオンはソフィアと顔を見合わせ、軽くうなずきあった。このチームはまだ結成されたばかりだが、明確に突破口を示すネタを手に入れたことで全員の士気が高まっている。いかに敵の勢力が大きかろうと、地道な証拠の積み重ねによって陰謀を暴ける可能性がある――それが皆の熱意となって表れていた。

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