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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第6章:一時的な共闘

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第18話 小さな協力体制②

 そして、短い時間での打ち合わせを終えると、家臣たちは散っていった。部屋にはロザリア、レオン、ソフィアの三人が残り、最後の確認を行う。ロザリアは壁にかかった小さな窓を見つめながら、どこか遠くを見やるように口を開く。


「……本当なら、私には王太子殿下との婚約や、社交界の華やかな未来があったはずだった。なのに、今はこんな後ろ暗い場所で密談をするなんて、滑稽(こっけい)ね。でも、滑稽であろうと何であろうと、私は生き抜いてやる」

「ええ、お嬢様はそんな簡単に折れる方ではないです」


 ソフィアが笑顔で応じ、ロザリアは薄く微笑み返す。レオンはその二人のやりとりを見て、改めてロザリアの強さを感じ取っていた。絶望に沈みつつも、こうして少数でも味方を得て再び立ち上がろうとしている。もしこのまま何もしなければ、彼女は本当に孤立したまま王宮の陰謀に呑まれていただろう。


「ロザリア、僕もできる限りのことをします。たとえ相手が王家でも、君を(おとしい)れる嘘があるなら暴いてみせる。だから、絶対に諦めないでください」

「あなたが一番危ないんだから、あまり無茶はしないで。……私のせいで子爵家まで潰れたら後味が悪いわ」

「ご心配なく。僕は危険な橋を渡る覚悟で来ました。子爵家の者としては未熟でも、あなたに見捨てられるよりはずっとましです」


 その言葉に、ロザリアはわずかに目を見開き、「本当に馬鹿な人ね」と独りごちる。しかし、言葉の調子は柔らかく、嫌悪の表情は見られない。レオンのまっすぐな気持ちに、彼女自身も救われているのだ。


 このようにして、ロザリアを中心とした「小さなチーム」が事実上結成された。公爵家の侍女や執事、騎士、そして子爵家のレオン――皆それぞれの立場や能力を持ち寄りながらも、表立った行動は避け、密かに動くことを決める。名づけるなら“陰の小隊”というようなところか。エレナや王宮派閥の大きな陰謀に比べれば力不足かもしれないが、ロザリアのために立ち上がる意志を共有できたのは大きい。


「じゃあ、皆が戻ったらすぐ情報を集めてきて。ソフィア、あなたは私に届く手紙や書簡、外での噂をしかとチェックしてちょうだい。レオンも頼むわよ。あなたが外で動けるのは大きいんだから」

「承知しました。すぐに仲間たちに声をかけ、街や王宮の周辺を探ってみます。まずは一つでもいいから手がかりを握りたいですね」

「そうね。ここで話していても仕方がない。皆が無事に戻ったら、またこの場所で共有して、次の行動を考えましょう」


 ロザリアの指示に、レオンとソフィアは同時に「はい」と答える。ロザリアは一瞬戸惑ったように視線を落とすが、すぐに首を振り、気を取り直したかのように立ち上がった。薄暗い談話室の扉を開け放つと、涼やかな風が入り込んでくる。まるでこの場所を包む空気が少しだけ軽くなったように感じられた。


「行くわよ、ソフィア。私も部屋に戻って、夜会や王宮での記憶をもう一度洗い出す。そのなかに引っかかるものがあるかもしれないし、忘れていた事実があるなら思い出したい」

「かしこまりました、お嬢様。私もお手伝いいたします。小さなことでもヒントになり得ますから」


 レオンはそんな二人を見送るように微笑んで「僕も早速動きます」と言葉を残す。ロザリアは振り返らないまま、ドレスの裾を靡かせて談話室を後にした。顔を合わせる時間は短かったが、ここで共有した意志こそが、彼女を再び前へと進める原動力になりそうだ。


 こうして結成された小さなチームは、今後の方針を簡単にでも共有し、それぞれの役割を担うことになった。ロザリアの高慢さは完全に消えたわけではないが、背に腹は代えられないという状況が、彼女をやむなく皆の力を受け入れる方向へ導いている。家臣たちはお嬢様への忠誠を支えに、レオンはロザリアを救うという一心で動き始める。この小さな結束が大きな波を起こすか、まだ誰にもわからないが、確かに希望の火は灯った。


「失礼します、レオン様。今日のところは私たちが散って情報を探しますが、くれぐれもお気をつけて」


 執事が一足先に出て行くレオンに声をかけ、レオンも穏やかな笑みで応じた。


「こちらこそ、お互いご無事で。少し危険かもしれませんが、ロザリアを信じてやり遂げましょう」

「ええ。お嬢様の誇りを守るために、私たちはどこまでもついていきます」


 部屋を後にする騎士たちの足音が遠ざかり、残ったレオンは静かに談話室の空気を吸い込む。濃厚な沈黙と、そこに染み付いたロザリアの気配が彼の胸に迫る。幼いころには考えられなかったような状況だが、今はたったこれだけのメンバーで王家の陰謀を疑い、エレナの動きを探ることになる。とはいえ、レオンは後悔していない。むしろ、「これでようやくロザリアを取り戻す道が開けるかもしれない」と期待に胸を弾ませている。


「ロザリア、必ず一緒に真実をつかみましょう。あなたが失った誇りも、取り戻せるように……」


 そう静かにつぶやいて、レオンは談話室を出た。外へ出ると、公爵家の廊下を行き交う使用人たちが遠慮がちに視線を向けてくるが、彼は軽く会釈を返すだけで通り過ぎる。余計な勘繰りを受けず、静かにこの屋敷を離れることが重要だ。まだチームの存在が露見すれば、王家やエレナの派閥に潰される危険が高いからだ。


 公爵家の門を出て、レオンは空を見上げる。曇りがちな天気だったが、一筋の光が雲間から差し込んでいて、不思議と心が明るくなる気がする。この小さなチームが、本当に王宮の陰謀に立ち向かえるかどうかは未知数。しかし、ロザリアが再び手を伸ばしてくれた事実だけでも、レオンにとって大きな意味があった。


「まずは、僕が調べられるところから……エレナと関連する噂を集めて、何か手がかりを持ってロザリアに報告しよう」


 心中で誓いを立て、レオンは次なる行動へと足を進める。やるべきことは多いが、彼には燃えるような情熱があった。子爵家という低い立場かもしれないが、その分動きやすさもある。公爵家や王宮の動きに触れるには危険が伴うが、ロザリアのためなら一切の犠牲を惜しまないと思っているからだ。


 一方、談話室を後にしたロザリアはソフィアとともに自室へ向かう。歩きながら、「あの離れを拠点にしましょう」とソフィアが申し出た。ロザリアはうなずいて「そうして」と短く答える。騎士や執事たちが戻ったとき、あの場所で情報交換がなされるわけだ。ロザリア自身が全員の前で指示を出すことになるかもしれないと想像すると、わずかに心が震える。


「お嬢様、きっと大丈夫です。皆、お嬢様を(した)っているからこそ、命をかける覚悟です」

「わかってる。……私だって、ただやられっぱなしなんてごめんだわ。エレナがどんなに勢力を拡大しようと、私の誇りまで踏みにじられるのは耐えられないもの」


 ロザリアの声には、先ほどまでの悲壮感に加えて新たな強い意志が混ざっていた。レオンや家臣たちの情熱が彼女を静かに奮い立たせている。もちろん、まだエレナが持つ後ろ盾に対抗できる具体的な策はない。けれども、一人きりで沈み込むよりは、一歩でも行動を起こすほうがましだ――そう信じることで、ロザリアはようやく自分を取り戻し始めている。


 こうして、グランフィールド公爵家の離れを拠点とする小さなチームが結成されるに至った。ロザリアにとっては、まだ完全に信用を置いているわけではないレオンと手を組み、公爵家の執事や騎士、ソフィアらとともに王宮の陰謀を暴くための戦いを開始するという、想定外の展開だ。プライドを抑えながらも、チームとして動き出すことで現状を打破しようとする姿勢が生まれたことこそ、大きな一歩だろう。


 外からは依然としてエレナの評判を示す噂が絶えず聞こえてくる。王太子殿下は彼女とともに様々な行事に参加し、貴族たちはこぞってエレナのもとに集まる――あの夜会以来の急展開は、ロザリアの首を絞め続けていた。けれど、この小さなチームの結成がすべての歯車を変える可能性がある。もし綿密に調査を重ね、エレナや王宮派閥の不正を突き止められれば、ロザリアの潔白を証明し、再び堂々と立ち上がるチャンスが巡ってくるかもしれない。


「エレナが私から奪ったものを、取り戻してみせる。レオン、あなたがどこまでやれるのか、私も見極めてさせてもらうわ」


 ロザリアは自室の扉を閉じながら、そう決意を声に出さずつぶやいた。言いようのない悔しさと淡い希望が胸を満たし、これまでの孤独に比べれば、わずかばかり心が軽い。ほんの少数ながら、共に歩んでくれる人々が存在する。その事実がロザリアにとって大きな支えとなるのは明らかだ。


 こうして、ロザリアのもとに集う小さなチームが実質的に動き出す。プライドを抑えてでも、真実を求めるために共闘を決意したロザリア。レオンの行動力と熱意、ソフィアや執事、騎士たちの忠誠心が合わさって、地道な調査が本格化する――まだ先は長く、エレナの勢力に比べれば些細な戦力かもしれないが、ロザリアの誇り高き魂が再び闘志を燃やす瞬間が訪れたのだ。


 この先、王宮の陰謀やエレナの黒幕に迫る上で、彼らがどう動き、どんな困難を乗り越えるのか。ロザリアとレオンが手を携えたこの初動こそが、後に大きな嵐を巻き起こす一歩となる。エレナが王太子を取り込もうとする裏で、この小さなチームがその野望を打ち砕く鍵になるかもしれない――そんな期待を抱きつつ、彼らは静かに調査と行動を開始するのである。

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