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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第5章:陰謀の影

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第15話 動き始める調査②

 窓の外では、秋の風がひと吹きし、庭先の花が揺れている。公爵家の離れは人目を避けるにはうってつけだが、長く滞在していると誰かに見られるかもしれない。二人は時折、視線を窓に向け、周囲に怪しい人影がないか注意していた。


「でも、レオン様……本当に大丈夫でしょうか。私たちがこんなことをして、もし王太子殿下に怪しまれたら……お嬢様の立場が悪くなるかもしれません」


 ソフィアは不安げに問いかける。いくらロザリアの無実を信じていても、下手に動けば王家の逆鱗に触れる可能性がある。そのとき、ロザリア本人にさらなる重い処罰が下されるかもしれない――それが最も恐ろしい結末だ。


 だが、レオンは迷いを振り払うように首を横に振った。


「そんなことを言っていたら、何もできません。僕は子爵家の跡取りですが、だからこそ王家相手に本格的な闘いは難しいとわかっています。でも、だからといって黙っていられないんです。ロザリアを救える可能性があるのなら、動かないわけにはいかない」

「……レオン様」

「ソフィアさんだって、お嬢様の心の痛みを誰よりわかっているはずです。ロザリアを真実で救わずに、他にどんな道があるのか……。僕は、彼女があのまま潰れてしまうのを見たくありません」


 レオンの拳が少し震える。それを見たソフィアは深くうなずき、「私もお嬢様を放っておけません」と決意を口にする。結局、二人とも結論は同じなのだ。立場を守ろうとすれば、ロザリアを見捨てることになる。ならば、危険を承知で動いてみるしかない。


「まずは、一つでもいいから確かな手がかりを見つけないといけませんね……。ロザリア様が裏切り者とされる根拠が捏造(ねつぞう)されたものだと示す証拠や、エレナ様周辺の怪しい動きを立証するきっかけを得る……小さなことでもかまいません。それを積み上げるしかありませんね」

「そうですね。何か書類の不備や、関わった人物の証言……どんな形でもいいのでつかみたいです。王宮に出入りする商人や、エレナが秘密裏に会っていると噂される派閥の領主たちに、何かしらの足跡が残っているかもしれません」


 レオンはメモに「王宮出入りの商人」「エレナ周辺の領主」などのキーワードを書き込み、そこから情報源になりそうな人物のリストを作成し始めた。ソフィアはそれをのぞき込み、「私が知っている限りの名前を加えます」といくつか追記する。お互いに出せる情報を継ぎ合わせれば、少しは現状が見えてくるはずだ。


 しかし、書き込みを進めるうちに、レオンの手が一瞬止まる。自分の行動がもしかしたら王太子を敵に回すことになるかもしれないという恐怖が頭をかすめたのだ。だが、それでも彼はペンを握り直す。ロザリアの苦しみに比べれば、恐怖など些細なものだと自分を奮い立たせる。


「……王太子殿下が完全にエレナ様に心を許しているなら、なおさら早く真実を突き止めないといけませんね」

「ええ、今はあちらが優勢です。ロザリアの存在が忘れられてしまう前に……。裏切りという言葉で葬られてしまう前に、僕たちが何としても光を当てなければ」

「そう……ですね。エレナ様が何者なのか。それを知ることが、ロザリア様を救う手がかりにもなる気がします」


 そのやりとりに、二人の意気が高まる。屋敷の離れは外の風の音しか聞こえないが、二人の心には闘志が宿り始めていた。公爵令嬢と子爵の立場を越えて、その人間同士の信頼が固まってきている。ロザリアを支えたいという純粋な思いが、もしかすると陰謀の一端を暴くきっかけになるかもしれないのだ。


 部屋の隅でかすかな(きし)む音がして、ソフィアが振り返ると、扉のところに使用人が一人(たたず)んでいた。その使用人は「失礼いたします」と低頭し、小声で「外に不審な動きはありません。ただ、一人、王宮の者らしき人物が近くをうろついているとか……」と報告する。レオンとソフィアは顔を見合わせ、声をひそめる。やはり簡単には動けない状況が浮き彫りになる。


「ここに長居はできないようですね。目をつけられれば厄介ですし、僕たちの動きが公になれば本末転倒です」

「そうですね。日を改めて、別の方法で情報を共有しましょう。私も、王宮へ忍び込むほどの無茶はできませんが、信頼のおける仲間を通じて話を集められるかもしれません」

「僕は僕で、子爵家の人脈を探ってみます。あと、街の裏通りにある商会や、王宮御用達の納品業者を当たるのも一つの手かも」


 こうして二人は計画を大まかに立て、細心の注意を払いながら離れを出ることにした。ほんの小さな一歩に過ぎない。だが、エレナ周辺にかかる噂と、王宮派閥の暗躍がロザリアの婚約破棄に繋がった可能性があるとすれば、やはり黙ってはいられないのだ。


 離れを出る直前、ソフィアがもう一度だけ振り返る。そこには簡易の机や椅子が置かれ、メモや書類が雑然と並んでいるが、ひとまず最低限の物だけを持ち帰り、怪しまれそうなものは安全な場所に隠しておく。まるで秘密組織の拠点のようだが、二人にはそれが必要だった。


「……お嬢様のところへ少し戻ります。何かあったら、こちらからレオン様にお知らせしますね」

「わかりました。僕も成果があれば連絡します。お互いに気をつけましょう」


 レオンは微笑み、ソフィアも小さく微笑み返す。公爵家の侍女と子爵家の嫡男という不釣り合いな組み合わせだが、ロザリアを思う気持ちは同じだ。ここから二人の密かな調査が始まる――王宮の裏事情を探り、エレナの足跡を辿り、王太子の周囲で渦巻く陰謀の糸を少しずつ解きほぐそうとする。


 その後、夕方の路地を歩くレオンの姿があった。子爵家に戻る前に街を少しだけ巡ってみようと考えたのだ。王宮近くの食料品商や衣料品店には、しばしば宮廷関係者が出入りするし、運搬を請け負う車夫や雑貨屋の店主など、人々の噂はそこからこぼれ落ちる可能性がある。レオンは懇意にしている店主を訪ね、さりげなく「最近、王宮に出入りする怪しい人はいるか」と切り出した。


「王宮への納入は専属業者が多いから、あまり接点はないけどね……。ただ、エレナっていう伯爵令嬢を(かば)うような話を小耳に挟んだよ。どうやら王宮関係者が『彼女に不都合な情報を漏らすな』って厳しく言ってるらしい」


 店主の口から飛び出したエレナの名に、レオンはやはりと確信を深める。そこまで情報規制が敷かれているなら、何か後ろ暗い動きをしているのだろうか。それとも、派閥の意向でエレナのイメージを損なうような噂を封殺しようとしているのかもしれない。


「助かります。ありがとう。もしまた何か怪しい話を聞いたら、僕に教えていただけますか」

「……あまり深入りするなよ、レオン坊ちゃん。王太子殿下の周辺で変なことを探ると、君の身も危うくなるかもしれない」


 店主は心配そうに眉をひそめるが、レオンは「承知しています」と苦笑して店を出る。危険は百も承知だが、ロザリアを見捨てるよりはマシだという強い意志がレオンの足を動かしている。後ろ暗い勢力に目をつけられても、彼にはもう退く気などなかった。

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