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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第5章:陰謀の影

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第15話 動き始める調査①

 王都でも名高い公爵家の広大な屋敷には、裏庭に面した離れがあった。めったに人が足を踏み入れない小さな書斎で、ふだんは埃をかぶってしまうほど使われていない。しかしこの日、そこに静かに姿を見せたのはレオン・ウィンチェスターと侍女のソフィアだった。


 何度正面から訪ねても門前払いを受けるレオンを見かねたソフィアが、こっそり裏口から招き入れたのだ。二人はロザリア・グランフィールドの汚名を晴らすため、人目の少ないこの場所を情報収集の拠点にしようと考えていた。


 薄暗い離れの窓をソフィアが慎重に開けると、外からのわずかな光が差し込み、部屋の埃がふわりと舞い上がる。彼女は苦笑いを浮かべつつ、慣れた手つきで簡単に掃除を始める。レオンはその様子を見ながら、真剣な面持ちで口を開いた。


「……やはり、この場所なら公爵家の人々にも知られにくいし、情報をやり取りするには適しているかもしれませんね。大々的に動けば、王宮から監視の目が届く可能性がありますから」

「そうですね。ロザリア様のご両親にも、あまり事情を大きく伝えられません。王太子殿下の名誉に関わる話ですし、迂闊(うかつ)に動けば、かえって公爵家全体を危うくするかもしれませんし……」


 ソフィアが小さく息をつき、視線を床へ落とす。公爵家の使用人として、ロザリアの無実を信じているものの、正面から王家を相手取るのはあまりにリスクが大きい。ましてや「裏切り者」とされたロザリアに関する冤罪を暴こうとすれば、陰謀を仕組んだ者たちの逆鱗に触れかねない。だが、だからといって動かずにいるのは、ロザリアを見捨てるに等しい行為――その葛藤が、ソフィアの胸中を乱していた。


 一方、レオンは堅く拳を握りしめ、深く息を吐く。子爵家の立場で王家に盾突くなど、周囲は無謀だと止めるだろう。実際、父親からもたしなめられ、何度公爵家を訪問してもロザリア本人には会えず、手詰まり感に(さいな)まれていた。だが、そこで諦められるはずがない。ロザリアと幼いころに交わした約束は、どれほどの壁に阻まれようとも、彼の背を押し続けている。


「ソフィアさん。……僕は、どうしてもロザリアを救いたい。誰が王家を動かしているのか、どんな陰謀があるのか、必ずつかむつもりです。いま社交界ではエレナという伯爵令嬢の名前が浮上していて、王太子殿下が彼女に心を傾けているとか……それが何か関係している気がして仕方がないんです」


 レオンの声には焦燥感がにじんでいた。ロザリアの婚約破棄と裏切りという扱いは、あまりにも不自然だ。それを境にして、まるで入れ替わるように台頭したエレナ・クレイボーンが、王太子の周りに急速に入り込んでいる。そこにはどんな思惑があるのか。むろん、エレナが直接ロザリアを(おとしい)れた証拠などないが、王宮派閥が絡んでいる以上、無関係とは思えない。


 ソフィアもうなずき、「私もそう考えています」と静かに語る。ロザリアを間近で仕えてきた彼女には、先日の夜会がいかに不自然であったか、すぐに察せられた。もともとロザリアが王家を裏切るなど、常識的に考えてあり得ない。それを無理矢理成り立たせた背景には、何か大きな力が働いたのではないか――ソフィアは直感している。


「お嬢様の性格からして、どれだけ婚約破棄に苦しんでも、ただ逃げ込むだけの方ではありません。けれど、裏切り者とされ、何もかも失いかけている今、誰も信じられなくなったのかもしれません……」

「……僕だって何度も会いに行きましたが、結果はご存じのとおりです。子爵家には無理だ、と突き放されるばかり。あのプライドが邪魔して、助けを求めることすらできないのだろうとわかっていても……悔しいです」


 レオンは歯を食いしばりながら、ロザリアへの想いをにじませる。いくら拒絶されようとも、あの誇り高い少女の苦しむ姿を見過ごすつもりはないのだ。そのためにも、何らかの形で真実をつかまなくてはならない。


 ソフィアは掃除を一段落させると、部屋の隅に小さな机を見つけて布をかける。そこを仮の作業スペースにしようというわけだ。彼女は置いてきた書類やメモの一部を取り出し、「実は……」と続けた。


「わたくし、ここ数日、王宮周辺の使用人仲間に探りを入れてみたのです。そうしたら、何やらエレナ様と懇意にしている人たちが急に増えているとか、エレナ様を推す貴族が裏で動いているとか、あれこれ気になる話を聞きました」

「なるほど……。やはり彼女が関係しているのか。エレナ様自身が悪意を持ってやっているのかはわかりませんが、その急激な台頭は異常ですよね。王太子殿下の周囲も大きく変わっていると聞きましたし」

「ええ。何かが動いている気配がするのです。お嬢様が失脚するように仕向けられたなら、それを仕組んだ勢力がいて、そこにエレナ様が深く関わっているかもしれません」


 ソフィアの言葉に、レオンは熱のこもった眼差しでうなずく。自分の疑念が確信に近づきつつあることに、彼は心を奮い立たせていた。もっとも、証拠など何もない現状で、王太子や王宮の有力者に直接「エレナが怪しい」と詰め寄るわけにはいかない。かといって時間をかければ、ロザリアの名誉がさらに取り返しのつかないものになる可能性がある。


 レオンは複雑な思いを噛み締めながら、紙とペンを取り出してメモを書き始める。ソフィアが持ってきた情報をまとめ、どこを重点的に調べるか考えるのだ。


「まず、王宮の使用人や近衛兵、あるいは侍女あたりを当たってみるべきでしょう。噂話レベルでも、エレナ様がどうやって殿下に近づいたのか、いつから周囲に取り入っていたのかがわかるかもしれません」

「そうですね。私も何人か当たってみます。でも、公爵家にいる使用人が王宮で動くのは目立ちますから、工夫が必要ですね……。こっそりと、人づてに噂を拾うしかないかもしれません」

「ええ。僕のほうは、子爵家の立場を利用して、それほど目立たない形で情報を集めようと思います。一介の子爵家の息子だと思われれば、そこまで警戒されないでしょうから」


 そう言いながら、レオンはペンを走らせて情報収集の手順を書き出す。ソフィアはまるで陰の参謀のように、ロザリアの好物や日常習慣を思い出しては、「あのとき、どこでどういう話が出ていたか」を探る糸口を提供していく。ロザリアにかけられた裏切りの容疑を(くつがえ)すには、どんな証拠が必要か、そしてエレナたちの派閥がどう関わっているのか――考えることは山積みだった。

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