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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱるめりあ
第5章:陰謀の影

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第13話 伯爵令嬢の台頭①

 王都の社交界には、年を追うごとに新しい顔ぶれが登場し、流行や話題が絶え間なく生まれては消えていく。だが、ここ最近のパーティや集まりで、特に急速に人々の注目を集めている伯爵令嬢がいると噂が広がりはじめた。それがエレナ・クレイボーン――儚げな風貌と上品な立ち居振る舞いを併せ持つ存在として、一挙に脚光を浴びているのだ。


 貴族たちが集まる夜会や茶会では、エレナの姿を見ようと人々が群がり、彼女が微笑みを浮かべるだけで、どこからともなく陶然としたため息が漏れる。周囲からは「いま最も華やかな令嬢」と評され、また「清らかで儚い雰囲気が魅力」と言われることも多い。伯爵令嬢としてはもともと地位はそこそこ高いとはいえ、急激に評価が上がるのは珍しい現象だ。


「クレイボーン伯爵家の娘、エレナ様は確かに美しくて優美ですわ。でも、あの躍進ぶりはどうにも不自然というか……」

「ええ、私も思います。どこかの有力者が裏で後押ししているのかもしれません。まるで、一夜にして社交界の寵児に祭り上げられたような――」


 ある華やかな夜会の一角で、貴族婦人たちが小声でささやき合う。大広間には色とりどりのドレスをまとった令嬢や夫人、そして上品なタキシード姿の紳士たちが入り混じり、楽団の奏でるゆったりした曲に合わせて談笑を楽しんでいる。だが、そんな優雅な場の裏側では、エレナに関する噂が絶え間なく飛び交い、ある種のざわめきを生んでいた。


 中央付近にある壇上からは、パーティの主催者が挨拶を続けているが、人々は耳半分にしか聞いていないらしい。その視線は自然とある一点へ向かうことが多い。その先にいるのは、淡く薄紫がかったドレスを纏った、そよ風のように儚い雰囲気の令嬢――エレナ・クレイボーンだった。彼女は控えめに周囲と言葉を交わし、時折微笑を浮かべると、それだけでパッと人々の心をつかむかのように見える。


「まさか、あのエレナ様が王太子殿下と深く親交を結んでいるのでは、という話まで聞きましたわ」

「まあ、本当かしら……。でも、最近は王宮にも出入りしているそうですし、何やら権力者の方々と親しげにしているとも……」


 婦人たちは口を抑え、抑えきれない好奇の目を光らせる。実際には、王太子が先日の夜会で婚約破棄を宣言したこともあり、王宮周辺には騒ぎが絶えない。そこでロザリア・グランフィールドが不当な扱いを受けたという話は衆知の事実となりつつある。そんなタイミングに合わせるようにして、エレナという新星が社交界の表舞台に躍り出たのだ。それも、まるで「ロザリアが姿を消した穴」を埋めるような形で。


「まさか、あのグランフィールド公爵令嬢の婚約破棄と何か関係が……?」

「さあ。でも噂によれば、エレナ様の背後には王宮内の派閥が絡んでいるという話もあって……」


 ささやかれる言葉に人々は戦慄しつつも、さらに好奇心を煽られる。派閥争いは昔から貴族社会に付き物だが、ここ数年は比較的落ち着いていたとされる。しかし、ひとたび王太子に動揺が生じると、その影に勢力争いがうごめくのは常。エレナの台頭が、そうした波乱の幕開けを告げているのではないか――そう推測する声が日に日に大きくなっている。


 夜会の会場の隅では、エレナを支持する者たちがこぞって彼女を持ち上げるかのように声をかけている。中でも、伯爵や子爵級の貴族が集まる一団が、エレナと積極的に接触している光景が見受けられた。彼らの会話を遠巻きに聞くと、エレナに対する賛辞ばかりが飛び交い、「彼女こそ新たな社交界の花」と讃える言葉が溢れている。


「エレナ様、最近のパーティはどこへ行っても大人気ではありませんか。やはり、あのおしとやかな物腰が人を惹きつけるのでしょうね」

「いいえ、私などまだまだ……。皆さまがお優しいから、そう見えるだけですわ」


 エレナは控えめな笑みを浮かべながら小さく頭を下げる。その様子は慎ましやかで、まるでか弱い小鳥のような印象すら与える。だが、すぐそばで談笑に加わる人物の瞳には、どこか探るような光が浮かんでいた。いかにも何か利益を得たいと狙う派閥の匂いを匂わせる輩たちが、エレナを囲み、丁寧に扱うその光景には一種の異様さがある。


 ある貴族の男性が声を潜めてエレナにささやく。


「しかし、あのグランフィールド公爵家が婚約破棄の件で荒れている中、こうしてエレナ様が一気に注目を浴びるというのは、運命的というか……。まるで何者かが筋書きを書いたようにも見えますが、いかがでしょう」


 エレナは一瞬だけ口元を引き締め、すぐさま穏やかな表情に戻した。彼女が所属するクレイボーン伯爵家には、近ごろ王宮内のある派閥との繋がりが噂されている。だが、その真偽ははっきりしない。もし事実なら、王太子の周囲で権勢を狙う一団がエレナを担ぎ上げ、グランフィールド公爵家を陥れた可能性がある――と噂されるのも無理はない。


「まあ、私にはわかりませんわ。もともと人前が苦手ですのに、皆さまがあまりに温かく接してくださるから、つい甘えてしまうだけで……」


 彼女は目を伏せ、微笑みを湛える。その儚さに多くの貴族が引き寄せられる一方で、何か暗い企みを感じ取る者も確かにいる。ちょうど今、ロザリア・グランフィールドが王太子から「裏切り者」とされて失脚したばかりなのに、エレナが「新しい風」のように持ち上げられるのは、あまりにも偶然が重なりすぎると警戒する人々もいるのだ。


「でも、本当に不思議。あの方はロザリア様とは真逆の雰囲気ですわね」

「ええ。ロザリア様は高貴で美しいけれど、気高さや誇りが際立っていた。エレナ様は儚さや控えめな優雅さで人を引きつける。対比があまりに鮮やかで……」


 そんな噂話が、グラスを手にした婦人たちの間を飛び交う。誰もがロザリアの状況とエレナの台頭を結びつけて考えており、その背後にある派閥を推測している。王宮内にはいくつかの勢力があるとされてきたが、近年は大きな争いが沈静化していた。だが、王太子が思わぬ形で婚約を破棄したことで、再び勢力争いが燃え始めているのではないか。そう疑う者は少なくない。


 その中でも、エレナを支持する派閥は複数の伯爵や子爵、騎士団の一部、さらには王宮の高官の一部を巻き込んで動いているらしい――まだ断片的な噂だが、それを匂わせる会話が夜会の端々で聞こえてくる。


「エレナ様も、表向きは柔らかい笑顔を振りまいているが……本当は誰かの駒なのではないか、という説もありますね」

「わざと『儚い姫君』を演じることで、王太子殿下の心を傾かせようとしている、ですとか……」


 ロザリアがパーティの席から突如「裏切り者」と断罪され、婚約破棄されたあの夜を思い起こす人々は、どうしてもタイミングの一致に疑惑を抱く。エレナがほんの数週間のうちに社交界で席巻し、王太子にも近い存在とささやかれ始めたのは、あまりに出来すぎているという見方が多いのだ。


 実際、エレナをひと目見れば、誰もが「確かに美しい」と思わず納得するだろう。その上、控えめな仕草とたおやかな笑い声に加え、相手を心地良くさせる巧みな言葉遣いがある。しかも、相手の家柄や職位に応じて絶妙に振る舞いを変えているふしがあり、どんな人にも「癒やし」を与える存在として語られている。そんな彼女が、ロザリアの失脚とほぼ同時期に注目を集め始めたことは、まさに不可思議と言わざるを得ない。


 この夜会の主催者である侯爵は、エレナの招待を熱心に行っていた。どうやら彼もまた、エレナの背後にある派閥と何らかの繋がりがあるらしく、夜会を通じてその影響力を拡大したい意図を持っているのではとささやかれている。実際、この場にいる貴族の顔ぶれは王宮の有力者と繋がりの深い者が多く、彼らはエレナとの対面を「儀礼的な面会」ではなく「新たな協力関係の模索」としてとらえている節があった。

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