第43話 広がる祝福⑤
やがて日が暮れ始めると、音楽がいっそう盛り上がり、人々がグラスを手に乾杯を繰り返す。
「ロザリア様とレオン様の未来に!」
「幸せを!」
そんな声があちこちから上がり、ワインやシャンパンが注がれる。ロザリアは幾度も「ありがとう」「私たち頑張るわ」と答え、レオンも恐縮しながら「ありがとうございます……」と礼を述べた。その様子を見守るだけでも、誰もが微笑ましく思う。「王太子妃への再浮上」などという言葉は、もはや誰の口にも上らない。レオンが真面目に努力し、ロザリアが一歩も譲らず支え合った結果たどり着いたゴール。多くの貴族が「よかったね」「きっと素晴らしいご夫婦になるわ」と讃え、拍手が絶えなかった。
「あなた、落ち着いて。飲みすぎないでね? 顔が赤くなってきてるわ」
「ごめん、嬉しすぎて……。でもわかった、少し控えるよ……いや、本当に感激で頭がくらくらして」
「わかるわ。私も、ここまで騒がれるとは思わなかったし、父様と母様があんなに笑顔になるなんて……夢みたい」
「夢じゃないよ。僕が君を守りたいと思って、君が僕を信じてくれたから……そしてみんなが理解を示してくれたからこそ現実になったんだ」
ロザリアはレオンの言葉に胸を打たれ、彼の横で笑う姿がいっそう愛おしく感じられる。数々の苦労が報われ、もう何も恐れることはない。
「さあ、これからは式の準備が忙しくなるわよ? あなたの家も、公爵家も大騒ぎになりそうだけど……大丈夫?」
「もちろん。僕は覚悟できてる。君にふさわしい結婚式を挙げたいし、子爵家の面々も誇りを持って参加する。公爵家の騎士や家臣だって協力してくれるだろうし」
「そうね、父様と母様も、どうせなら盛大にやろうって考えてるみたい。楽しみね……あなたと一緒に計画するのが待ち遠しい」
「僕もだよ。ドレスの選び方とかはわからないけど、一生懸命ついていくさ。君が最高に美しく輝く日になるんだから、僕も隣で恥をかかないようにしないと」
「ふふ、あなたが恥をかくわけないわ。みんなが今、あなたを称賛してるんだもの。私は誇らしいわよ、こんな素敵な人を私が選んだんだから」
その言葉の端々には、二人の愛がきらめいている。公爵家の者が「ロザリア、お客さんがまだ待ってるよ」と声をかけ、二人は手を繋いだままそちらへ向かった。周囲からは「おめでとう!」という声が響き渡り、王太子が去ったあとも祝福の輪はさらに拡大していく。
こうして王太子ジュリアンがロザリアとレオンの関係を公に認め、周囲が全面的に承認するという瞬間が訪れた。あとは挙式に向けて準備を進めるだけ。公爵夫妻は協力を惜しまない構えを見せ、子爵家も緊張しながら「新しい未来を作ろう」と動き出す。国全体の視線も「あの二人の恋は、身分差を越えた美談」と好意的になり、次々と祝辞が届いた。
夜が更け始めるころ、ホールの喧騒も少し落ち着いてきたが、祝宴はなお続いている。ロザリアとレオンは一息つこうとホールを抜け出し、廊下のテラスへ出た。涼しい夜風が二人の熱気を冷まし、星が静かに瞬く空の下で、改めて顔を合わせる。
「レオン……いろいろあったけど、今日は一生忘れないわ。殿下があそこまで言ってくれて、父様たちも笑顔で認めてくれて……本当に夢みたい」
「僕も同じだよ。殿下から祝福されるなんて想像していなかった。でもこれでもう誰にも邪魔されずに結婚できる。堂々と君を妻に迎えられるんだ。ありがとう、ロザリア、僕を信じてくれて」
「あなたが何度も諦めずに努力してくれたからよ。私はそれを見て勇気をもらってた。……私こそ感謝してるわ。あなたがいなかったら、今ごろどうなってたか……」
二人は夜風に揺れるカーテンを背に肩を寄せ合う。どこかの貴族が遠くから「あら、ロザリア様とレオン様……」と視線を向けるが、誰も邪魔する気配はない。すべてを静かに祝福する空気がそこにある。
レオンはロザリアの手を包み込み、小さくうなずいた。
「これから先、もっと大変なことがあるかもしれない。でも、僕らなら乗り越えられるよ。君を守るのが僕の務めだから」
「そうね、もう怖くないわ。私もあなたをずっと支える。家の名誉や身分差に縛られず、一緒に生きる喜びを大切にしたいの」
「だから改めて、よろしくね……私の『主人』になる人」
「主人だなんて。僕はただ君の『伴侶』でいたい。立場は対等。ずっと……愛してる」
その一言にロザリアは心が満たされ、思わず涙がにじむ。彼女はこくりとうなずき、かすれた声で答えた。
「私も愛してるわ、レオン」
月の光が二人を照らし、長い戦いを経てつかんだ幸福を実感させる。まさに「祝福のゴール」。残るは結婚式の誓いのみ――この夜を境に、二人は堂々と並んで歩む未来を手に入れた。
会場に戻ると、まだ多くの人々が待っており、音楽と踊りが再開される。ロザリアはレオンに誘われ、軽くステップを踏んだ。最初はぎこちなかったが、「踊れ、踊れ!」と囃し立てられているうちに息も合い、自然と笑顔があふれる。客席からは大きな拍手が起こり、公爵夫妻もにこやかに手を叩く。
「なんだ、意外に踊れるじゃないか」
「さすが若いな」
そんな言葉に背中を押され、ロザリアとレオンは胸いっぱいの幸せを分かち合いながら踊り続ける。もう「分不相応」という言葉は見当たらない。その代わり、「身分を越えた愛」への称賛が会場を満たしていた。
(私は今、とてつもなく幸せ……!)
ロザリアは心の声を感じながら、レオンとステップを刻む。星明かりに導かれるように夜が深まり、二人の物語はまさに大団円へ。王太子妃という道を選ばなかったからこそ得られた、かけがえのない幸福だ。
愛と努力が結実し、王太子も両家も認める最高の結末を手にした今、あとは正式な婚約と挙式の準備のみ。ホールには貴族たちが次々とワインを掲げ、「乾杯!」と叫ぶ声が絶えない。心からの賛辞と拍手に包まれ、夜はさらに更けていく。
しばらく踊って息を整えたロザリアとレオンは、壇上に揃って戻り、そろって深く礼をした。
「皆さま、ありがとうございます。私たちは今後、結婚式を挙げるにあたり、色々とご相談させていただくこともあるかと思いますが、どうか末永く見守っていてくださいませ」
ロザリアの言葉に続き、レオンも宣言する。
「これまでお世話になった方々に恩返しをしながら、ロザリアを誰よりも幸せにしたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします」
人々は再び大きく拍手で応え、「万歳!」「お幸せに!」の叫びが飛び交う。こうして周囲の全面的な承認と王太子の応援を得た二人は、幸福をつかむ大きな一歩をしっかりと踏み出したのだった。




