表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
最終章:祝福のフィナーレ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/144

第43話 広がる祝福①

 公爵家の広大な敷地に、華やかな人々が集まっていた。石畳の中庭には色とりどりの花が並び、優雅な音楽が風に乗って流れている。今日ここで開かれるのは、貴族たちが一堂に会する公式の場――本来は社交シーズンの行事の一環だが、実際には最近の大きな話題となっている「ロザリア・グランフィールドとレオン・ウィンチェスターの関係」について、改めて報告と祝いを兼ねた場として機能しつつあった。


 この数カ月間、ロザリアとレオンは、身分差や周囲の圧力を乗り越えようと奮闘してきた。公爵家の両親は当初、王太子妃への復帰を望み、子爵家のレオンを「分不相応」と強く否定していた。しかしレオンは己を高めるために多方面で努力を重ね、真摯な姿勢を示し続け、ロザリアも彼を支える形で両親を説得し続けた。その結果、今では公爵夫妻も少なくとも「見直すだけの価値はある」と認めるようになり、周囲の貴族たちの目も変わってきた。


 そして、最も大きな転機として、王太子ジュリアン・アルディネスがどう動くかが注目されていた。かつて王太子ジュリアンはロザリアとの婚約を破棄し、新たな想い人エレナを選んだが、エレナの陰謀が明らかになってからは猛省の色を示し、ロザリアに謝罪していた。王太子としてロザリアを再び王太子妃に迎えるという声もあったが、ジュリアン自身が「ロザリアの意思を尊重したい」と言ったことで、周囲の流れは変わりつつある。いまや王太子自身が、公の場でロザリアとレオンの結びつきを尊重するかどうかが決定打となっていたのだ。


 そして今日、この公爵家の公式な席で、ジュリアンの態度が公に示されるという。多くの貴族たちは好奇心と興奮を抱えてこの場に足を運び、鮮やかな衣装をまとって社交辞令を交わし合っている。ロザリアはそんな人々の様子を遠目に感じながら、控室でじっと落ち着きを保とうと深呼吸をしていた。


「……大丈夫かしら。殿下は本当に私たちを認めてくださるのかしら」


 ロザリアは鏡越しに自分を見つめ、わずかに震える声でつぶやく。髪は完璧にセットされ、淡い色のドレスを(まと)っているが、その表情には固さが見える。隣には侍女ソフィアがついており、優しい声で返した。


「お嬢様、ご安心ください。きっと殿下は既にお気持ちを固めておられるはずです」


 しかし、不安が拭えるわけではない。ロザリアは唇を噛みながら、心に引っかかる思いを正直に口にする。


「ええ、殿下は私に『もう一度婚約をやり直したい』と一度は言っていたし、今は『応援する』と言っているけれど、本当にどう出るのか……。今日、はっきり態度を示すと公に宣言されているし……」


 ソフィアは静かにうなずき、落ち着いた声で続けた。


「それでも殿下が動いてくださらないと、公爵家のご両親や社交界の皆さまは完全には納得されないでしょうね。どうか落ち着いて」


 ロザリアは深い息をつきつつ、レオンと結ばれるための最終段階が来たのだと覚悟を決める。


「ここで殿下がはっきり『ロザリアはレオンを選ぶ』と尊重し、さらに祝福する姿勢を示してくれれば、私はもう堂々とレオンと一緒にいられる。父と母にも遠慮せずに……」


 そう胸中でつぶやいたとき、扉の外で足音が聞こえる。公爵家の執事がノックし、中から声をかけた。


「お嬢様、お時間でございます。殿下もお着きになり、会場の準備が整ったとのことです」


 ロザリアは一度大きく息を吸い、ソフィアに支えられながら部屋を出る。廊下を進む途中、胸の高鳴りが止まらない。


(レオンは……どうしているかしら)


 同じく今日はレオンも、子爵家から公爵家へ招かれている。これまでは「分不相応」だとして(うと)まれたが、近頃の努力が認められた結果、公の場に招かれるほどの扱いになった。王太子殿下と同じ場に並ぶことを考えれば、相当に大きな前進だ。ロザリアは一刻も早くレオンに会って顔を見たいが、それは式典に近い正式の場で行われる予定なので、個別に会うのは許されていない。


「絶対にうまくいく……。レオンがいて、殿下も私たちを応援してくれる。そう信じるしかない」


 ロザリアが自分を奮い立たせるようにつぶやくと、目の前に大きな扉が見えてくる。その奥には華麗な装飾が施されたホールがあり、多くの貴族たちが列を成していた。中央の壇上には公爵家の家紋が掲げられ、すぐ近くに王太子の紋章も見える。既に盛大な音楽が流れ、視線がドアの方向へ集中していた。


 執事が大きく宣言する。


「ロザリア・グランフィールド様、ご入場でございます――」


 扉が両側から開かれ、ロザリアは姿を現す。そこに注がれる数々の視線を感じ、心拍数が上がっていくのを抑えきれない。それでも、持ち前の気高さを思い出して背筋を伸ばし、ドレスの裾を優雅に揺らしながら堂々と歩みを進めた。人々のざわめきがホール内に広がり、賛嘆の声や小さな噂話が飛び交う。


(落ち着いて……。私は「公爵令嬢」として、最後まで振る舞わなくちゃ。レオンとの結びつきを認めてもらうためにも……)


 そう心に言い聞かせ、ゆっくりと壇上へ向かうと、そこには父と母が席についている。二人の表情は硬めだが、最近はあからさまな拒絶をしなくなった分、少し余裕があるように見えた。その一段高い場所には、王太子ジュリアンが既に立っている。艶やかな衣装をまとい、王位継承者としての威厳を備えながらも、その瞳には少し複雑な感情が宿っているようだ。


「ロザリア、ようこそ」


 王太子が穏やかに声をかける。ロザリアはドキリとしながらも、礼儀正しく一礼した。


「殿下、今日はこのような場を設けてくださり、ありがとうございます」


 ジュリアンは笑みを浮かべ、優しく返す。


「こちらこそ感謝したい。君のことを公に語る機会がほしかったんだ」


 既に多くの貴族が席につき、二人のやり取りを見守っている。騒がしい雰囲気ではないが、熱い注目がこもる空気だ。ロザリアは視線を落とし、「私のこと……公に語る……」と心中で繰り返す。いよいよ運命の瞬間が来るのだろう。かすかに息を震わせながら、壇上にある席へ案内された。


「さあ、皆さま、お静かに」


 司会役を務める者が声を張り上げ、ホール内が一気に沈黙へ包まれる。王太子が今から何を言うのか、誰もが期待していた。そこへ、もう一人の注目の人物として招かれたレオンが案内される。子爵家の正装を(まと)った彼は、いつもより緊張した面持ちでホールに入ってきたが、その姿は真摯かつ堂々としているように見えた。


 ロザリアの胸はときめきでいっぱいになる。「レオン……」と思わず心のなかでつぶやき、彼と視線が交わる。ほんのわずかな合図のように微笑み合うと、レオンも壇上の端に整列させられた。


 この日、王太子自らが「ロザリアとレオンの関係に関する声明」を出すと告知されており、また公爵家としても「二人の意思を尊重する」と正式に態度を表明するかもしれないという噂が広がっていた。つまり、これまで長く懸案だった王太子妃への復帰か、あるいは子爵家との結婚か――それを事実上、はっきりさせる場である。室内には静寂な緊張感が漂い、誰もが言葉を飲み込んだまま王太子を見つめている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ