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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第2章:波乱の幕開け

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第4話 夜会の終わりに②

 ロザリアは脳裏が真っ白になる中で、必死に気丈さを保とうとしていた。プライドの高い公爵令嬢として、人前で取り乱すなど許されない。それでも、胸が痛く、頭がうまく回らない。殿下が壇上にいて、あの声で語りかけている――そんな光景さえ、どこか現実離れしているように感じる。


(どうして……どうしてこんなことを今、口にするの? まさか、私との婚約を……?)


 その先の推測を自分で断ち切るかのように、ロザリアは唇をぎゅっと噛んだ。周りの視線が彼女へも集中しつつあるのを感じる。特に近くにいた何人かの貴族は「あの婚約者の立場はどうなるのか?」という目で見つめているし、気まずそうに目をそらす者もいた。


 壇上では、ジュリアンが再び口を開こうとしている。しかし、その声は会場のざわめきに阻まれ、十分には届かない。彼の眼差しは遠くを見据え、あるいは誰か特定の人物を思い浮かべているかもしれない。少なくとも、この場にいるロザリアの方は向いていない。まるで、まったく別の相手を意識しているかのようだ。


「殿下……いったい何を……」


 周囲の貴族たちがさらに声を上げ、うろたえ始めた。夜会の最終セレモニーが、これほどの衝撃をもたらす形で綴られるなど、普通は考えられない。積み重ねてきた礼儀と格式が、一瞬で崩れ去ってしまいそうだ。ロザリアもまた、息苦しささえ覚えるほどの混乱の中にいた。


「……私には、新しい愛がある」


 ジュリアンはそれだけ繰り返すように口にしたが、詳細はまだ語らない。彼が言葉を続けようとしているのか、それとも周囲を落ち着かせようとしているのかすら、誰にもわからない。やたらに壇上へ近づく者もおらず、ただ誰もが自分の立ち位置から状況を傍観しているだけだ。


「ロザリア様、これは……どういうことなのでしょう?」

「も、申し訳ありません。私にも……」


 隣で問いかけた公爵夫人の一人に、ロザリアはどう答えていいかわからない。事前に何の兆候も聞かされていないし、ジュリアンが夜会の場でこんな宣言をする理由など全く想像がつかない。動揺しながらも、彼女は目を伏せて必死に表情を取り繕う。


(落ち着いて、落ち着いて……公爵令嬢として、ここで取り乱すわけにはいかない)


 人前で醜態を晒すなどもってのほか。それでも、頭の中では「このままでは、私との婚約がどうなるのか」と考えずにいられない。言葉の裏に何が隠されているのかを理解しようとしても、ほとんど白紙のように情報が足りない。


 会場の騒然とした雰囲気は一向に収まらず、むしろ高まっている。王太子の告白めいた言葉は、すでに夜会に参加する全員の耳に届き、ざわざわと波紋を広げているからだ。ロザリアの周辺には、心配げに声をかける者、好奇の目を向ける者が混在し、互いの表情が混乱でこわばっているのがわかる。


「……公爵令嬢、こちらへ」


 そこへ、一人の使用人が駆け寄り、ロザリアの手をそっと取ろうとする。恐らく、主催者側が混乱を防ぐため、彼女を安全な位置に移そうとしているのだろう。しかし、ロザリアは使用人の手を穏やかに振り解き、首を横に振った。ここで退場するわけにはいかない。王太子の口から何が告げられるか、逃げずに直面するべきだと彼女は考えた。


「……大丈夫です。私はそのまま聞かせていただきます」


 低い声でそう告げ、毅然(きぜん)とした態度で壇上を見上げる。青と銀のドレスをまとった立ち姿は、まだ誇りを捨ててはいない証拠だ。ロザリアは自分のプライドを奮い立たせ、全身に力を込める。隣では何人かの貴族が「本当に大丈夫なのか?」という表情を浮かべていたが、彼女がまっすぐステージを見つめている姿には、近づきがたいオーラさえ漂っていた。


「殿下……」


 そう小さく呼びかけてみるものの、当然ながら壇上のジュリアンには届くはずもない。いや、もしかすると聞こえていてもあえて無視しているのかもしれない。彼は少しだけ息を整えて、まるで何か深い決意があるような顔つきをしている。そして、再度会場に向けて口を開こうとするが、人々の戸惑いとざわめきが溢れすぎていて、声を遮られそうになる。


「せ、静粛に! 殿下がお話を続けられますので、皆さま少しお下がりください!」


 主催者側の係が必死に叫び、壇上の付近には近衛兵らしき者も駆けつけてきた。夜会の場とは思えないほど、張り詰めた空気が漂っている。ロザリアはそれを見て、まるで信じられない光景だと思う。一体この先、何が語られてしまうのか。まさか「新しい想い人」をただ発表するだけでは済まされない予感がする。


「殿下……何がおありなのでしょう」

「ま、まさかロザリア様の立場は……?」

「そんな、王太子殿下といえば公爵令嬢との婚約があったはずじゃないか!」


 あちこちから飛び交うささやきと困惑。ロザリアは動揺を表に出さないようにするので精一杯だ。呼吸が乱れそうになるのを必死にこらえ、背筋を伸ばす。眼差しを壇上に注いだまま、次にジュリアンがどんな言葉を吐くのか耳を凝らしている。何せ、彼が「新しい愛」と口にした以上、それは自分との婚約には大きな影響を及ぼすに違いないからだ。


(まさか、ここで婚約を破棄するとでも言うつもり……?)


 自分の考えがそこに至った瞬間、心臓が(きし)むように痛んだ。公の場での婚約破棄がどれほど異例か、彼女は十分すぎるほど知っている。王家や公爵家の名誉がかかっている一大事だし、普通は穏便に済ませるため水面下で調整するはずだ。けれどジュリアンがこんなふうに爆弾発言をした時点で、すでに穏便などという言葉は適用されないのかもしれない。


「くっ……」


 周囲には貴族だけでなく、使用人たちまでもが動揺を隠せずにいる。一瞬の間に、会場の温度が急上昇したかのような熱気を帯び、視線はすべてジュリアンへ集中している。本人はまだ何かを語りかけようとするが、人の声と熱気が絡み合って壇上まで押し寄せ、会場が完全に収拾のつかない状態になりかけていた。


「落ち着いてください! 殿下、お言葉を続けていただきましょうか」


 主催者の侯爵が、壇上でジュリアンのそばへ駆け寄り、急ぎ耳打ちをしている様子が見えた。ロザリアはその様子を目で追いながら、心が崩れ落ちそうになるのをこらえる。いくら公爵令嬢でも、この場をどうにかできる権限はない。自分とジュリアンが直接話をする余地も感じられず、ただ息苦しいまま立ち尽くすしかない。


(……私、どうしたらいいの? これが何を意味するのか、本当はわかっているのに)


 唇が震えそうになる。周囲の人々の顔を見ると、好奇心、困惑、同情、嘲笑、さまざまなものが混じり合って押し寄せてくるような錯覚に陥る。こんなにも多くの視線が、自分を通り越してジュリアンに集まり、それが同時にロザリアの内面を削り取っていくようだ。深く吸った息は、冷や汗の混じる肌をうまく冷やしてくれない。

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