七つの課題
死の都市のガイドは、淡々と、りゅうちょうに説明をはじめた。
「新規住民候補のみなさまは、まず生活修習として七つの課題を解いていただきます。
まず第一の課題は『赤い血』。
第二の課題は『橙の竜巻』。
第三の課題は『黄色い泥』。
第四の課題は『緑のワニ』。
第五の課題は『青い海』。
第六の課題は『藍色のかまど』。
第七の課題は『紫』。
以上の七つの課題を、第一から第七まで通して一ヶ月で解決していただきます」
「なんだ、その課題は。意味がわからない」
「課題の内容はここではお知らせできません。
ただ、この課題は第一から順番に一つずつ解いていただくものです。
第一の課題『赤い血』の次は、第二の課題『橙の竜巻』、
そのつぎは第三の課題『黄色い泥』。
そのように、順番にやっていただきます。
順番をけっして飛ばしてはいけません。
もしむりに飛ばそうとすると──」
ガイドは、ソロンの眼を刺すように見つめて、
「ソロン様は無縁者として、永遠に『ミハシラ』に包摂されることなく、この都市をさまようことになります」
「この都市をさまよう……?」
ソロンにとっては、この誰もいない都市を永遠に放浪することは、たしかに寒々しいことだとは思った。
だが、孤独には慣れている。
そもそも、親も親族も、恋人すらも縁を切ってまで世界を独りで探求したのだ。
暇潰しの図書館でもあればそこまで難儀はしないだろうとたかをくくっていた。
だが──。
「ソロン様、この都市について、あらかじめお断りをしておきます。
わたくしがご案内しますので、こちらへどうぞ」
ガイドに案内されたのは、インフォメーションセンターのすぐ近くのトイレだった。
多目的トイレのしょうしょう広めの個室に入る。
「なんでこんなところ──」
「ソロン様、そこの蛇口を開けてみてください」
ソロンは言われるがままにしてみたが、おもわず悲鳴をあげてのけぞった。
「なんだこれ──」
蛇口から流れるのは、あのいつもの透明な、なんてことはない液体ではない。
黒ずんだ赤色の、奇妙な粘度をもつものだった。
ソロンは、その液体に覚えがあった。
いや、その液体こそ、ソロンの身体を機能させている必要な生体物質だ。
「まさか──血液……!?」
「そのとおりです、ソロン様」
あぜんとするソロンに、ガイドはさらに話をつづける。
「さきほど第一の課題『赤い血』と申し上げましたが、すでに課題への挑戦ははじまっております。
ソロン様は元の世界では死亡なされたとはいえ、この世界ではまだ現実世界のように、
その身体を維持させるため、元の世界と同じ行動が必要です。
すなわち、摂食による代謝。
この世界にはごく少量の、特定の食品しかございません。
蛇口をひねっても、このように血液が流れ出てくるだけです。
なおこの血液は、元の世界とは違って、飲んでも代謝を行うことはできません。
この世界の食糧はただひとつ、『マナ』と呼ばれるもののみ。
ソロン様が課題を解決されましたら、その『マナ』を獲得できるでしょうから、
それを用いて身体を維持なされてください。
もし、その『マナ』を摂取できなければ──」
「…………」
「ソロン様は、身体を動かすことができず、かといって元の世界のように死して意識を失うことすらなく、永遠にこの都市に放置されます」
「……つまり、それは、永遠に飢えに苦しみつづけて、もがくことすらできないというわけか」
「そのとおりでございます」
「……クソッ」