自分の葬式
「……だとしたら、最初の1ヵ月のシューシュー?
とやらは何をするんだ?」
「生活修習でございますか? それは次の3ヵ月の新規住民に向けての生活方法・習慣を身につけていただく訓練です」
「新規住民ってつまり幽霊になるだけだろう?
なんでそんな面倒なスケジュールなんだ?」
ソロンは恐怖や怒りとは裏腹に、なぜか頭が冷えていって、これまで獲得した情報と情報の間の糸を結びつけていけるようになった。
これもそれまでのオダカ市を求めて世界を放浪したタフな経験のたまものだろうか。
「幽霊になるだけ、という言説は正確ではありません。
心身二元論的説明でより正確をきすならば、新規住民として登録される3ヵ月は、ご自分でご自分のお葬式をいとなみ、もはや不要となった肉体を捨てて『ミハリラ』に包摂されるための霊魂となる準備をととのえることです」
「自分の葬式を自分で……」
ソロンは目まいがした。
たしかにソロンの知るかぎり、ある宗教では生前から自分の葬式を自分で行うところがあるという。
ただ、それはかならずしも世間の慣習として定着しているとはいいがたい。
あくまでその宗教の聖職者や一部の信徒が行っているものだという。
ソロン自身はどの宗教の信徒でもないが、無神論者かと言われるとためらいがある。
だから、自分の葬式を勝手に自分でいとなむのは、神に対して不敬ではという思いもあった。
ただ自分は現実ではすでに死んでいるという、そのガイドの言い分を信じるなら、死人である自分が行うのもとくに問題はないのではないか……。
疑問や思考はつきないが、ソロンが返答をするまえに、ガイドが言った。
「新規住民候補としての生活修習のご説明をしてもよろしいでしょうか?」