死亡宣告
そのときのソロンの心中は、まことに筆舌につくしがたい。
いままであたりまえに人間だと思っていたものが、もし気持ち悪い虫の集合体だったらどうだろうか。
あるいは、いままで食べていたカレーライスが、じつは人の臓物と歯のあわせものだったら。
ソロンは、何も考えられなかった。
何も、考えたくはなかった。
いままでふつうだと思っていた構内のポスター、看板、貼り紙、文字──そのすべてが──。
ソロンはおもわず出口に向かってかけだした。
もはや本能的な衝動だった。
「ガイドはどこだ!」
裏返ったかん高い叫び声。
叫ばずにはいられない。
「ガイド! ガイド!」
見つけたのは、例のショッピングモールのインフォメーションセンター。
この世界に足を踏み入れた、はじまりの更地の手前。
「いったいどういうことだ! 説明しろ!」
暴れ牛のようにたけり叫ぶソロンをなだめるように、ガイドは困惑の顔を見せつつも、両手の掌をソロンに向ける。
「お客様、おちついてください。深呼吸を──」
「深呼吸なんてしてられるか!
なんなんだよあの駅!
あのポスター!
あの看板!
いったいどういうことなんだよ!
オダカ市ってなんなんだよ!!」
「お客様、どうかおちついてください」
「おちついていられるかよ、こんなの!
もう帰る!
帰る方法を教えろ!」
「お客様、もうしわけありませんが、お客様はすでにこの都市の新規住民候補なのです。
もとの世界に帰る方法はありません」
「それじゃ監禁だろ!
許されないだろ、そんなん!」
「監禁ではございません。
お客様──アクラミ・ソロン様はすでに死亡しておられます」
「──は?」
「お客様はすでに死亡しておられますので、もとの世界に帰還する方法はございません。
いまごろは、すでにそのご遺体も埋葬されていることでしょう。
そしてご遺体の分解がはじまっております。
お客様というアイデンティティをうけいれる器はすでにもとの世界にはございません。
お客様には、この都市の住民となるべく、指導を受けていただきます」
「なん、だと……死亡……? ボクが? 遺体? 分解?」