7 星は動く 5
ようやく打ち上げが終わります。
「祐介、大風呂敷もそこまでにしておけ。んな大きなフェス、俺と壱星だけで出来るわけがねーだろう。俺んとこと壱星のチームが合わさったところで、そんだけ大掛かりなものを俺たちだけで出来るわけがねえ。無理だ、無理。金も必要だが俺らだって自分らのチームの仕事で手一杯だ。フェス作ってるような暇はねえよ」
けれども祐介は少しも怯まず続ける。
「何もリュウさんや壱星くんにフェスの運営をしろって言ってるんじゃないですよ? 壱星くんがさっき言ったように発起人として名前を連ねてくれたらいいんてす。無論何度か打ち合わせなんかには入ってもらわなきゃならないでしょうが、裏方仕事は全部こちらで引き受けますって。要は人手と資金を集めりゃいいんでしょう? 大丈夫ですって。こんな面白い企画、実現しなくちゃ勿体ないですよー」
そう言って目をパチパチさせながら手を組み合わせリュウヤに詰め寄る祐介。はっきり言って気持ち悪い。案の定リュウヤは嫌そうな顔で祐介を押しのける。
「現実を見ろ。俺と壱星のとことじゃ客層だって違う。両方の集客だけでどえらい数の観客になるぞ?」
「なるほどなるほど。場所の確保ですね?」
祐介がスマホを出してメモを取り始めた。
「みなさん、どんどん意見出してくださいよ。実現可能かどうかなんか考えないで。どんなフェスにしたいです?」
「なんか盛り上がってますねー。何の話っすか?」
いつのまにかセイジとケイがリュウヤの後ろに揃って立っていた。
「おう、お疲れさん。まあ座れや、面倒かけてすまなかったな、ケイ」
「それはどうってことないわよ。美咲ちゃん可愛いかったわよー。しっかりしてるしね、誰かと違って」
そう言ってチラリとセイジの方を見て笑うケイ。
「ケイちゃーん。何気にディスるの本当やめてよー。ま、あちらさんは意外と話通じるしたたか者ってやつだったね、ありゃワザとだな」
「ほう? そういや本人はどうした?」
「マネが迎えに来て帰ったわよ」
セイジと並んで座ったケイが続ける。ショートの銀髪が照明にキラリと輝き、緑色の毛先がはねた。パッチリと大きな瞳は緑色のカラコンで彩られ、くるりとカールしたまつ毛の下で獲物を狙うようにテーブルを睨めつけている。そのままおもむろに祐介が目の前で入れてくれたシャンパンのグラスを手に取ると、くいっと呷った。ふー、と一息つくと口を開く。
「さすがに世間を騒がすだけのことはあるね。肝っ玉の座り方が違うよ。あたしらが行くとさ、目の前でさっさとスマホの映像を消してみせたよ。ご丁寧に『お騒がせしてすみみせん。こんなにたくさんの有名人と御一緒するなんて初めてのことで舞い上がってしまいました』ってキュートな笑顔つきでね。あれは元っからあたしら狙いだね」
セイジがケイの肩に手をまわしながら続ける。
「代わりに俺とケイちゃんとのスリーショットと、他にもインスタアップ用に写真提供してきたよー。ま、たぶんそっちが本命だったんだろうね。ケイちゃんとアド交換してたしー」
するとケイがため息を吐いて言った。
「違うよ、あの子の狙いは。リュウセイはあの子の動画見たことあるかい?」
「いいや」
「俺、見ました」
リュウセイが首を振ると壱星が言った。
「僕ら一緒に出演する人のことは前もってチェックするようにしてるんです」
「司会者に振られた時に答えられるようにしとこうと思って」
「お騒がせ配信者だけど抜群に演歌が上手いとか、彼女の歌うところでは必ず騒ぎになるとか言われてますけど、動画の内容はすごいまともなこと言ってるんですよね。歌手として、というよりは活動家に近いかも」
「わざと煽る発言して、怒った相手が暴力を奮おうとした途端に逮捕させちゃうとか、ものすごく度胸のある人ですよね」
リュウヤは口々に美咲の見解を述べるRiser☆sのメンバーの話を聞いて言った。
「なるほどな。だとしたら頭ごなしに怒鳴って悪かったな。ケイ、すまなかった」
ケイは首を振って大きなため息を吐くと言った。
「あの子が用意周到なのよ、リュウヤは悪くない。……参ったね、彼女相当頭のいいやつ抱えてるんだろうね」
「一体、何を言われたんだ?」
「いや、今日はいいよ。またきちんと決まったら報告するからさ。それよりも何をそんなに盛り上がってたんだい?」
ケイはさっさと話を切り上げると元の流れに戻してみせた。すかさず祐介が乗る。
「ケイちゃーん、相変わらずのクールビューティーだね、お疲れ様ー。あのね、とってもビッグなアイデアでね……」
ざっと今までの流れを立て板に水のごとくまくしたてる祐介。
「……ということで、アイドルとロックのコラボフェスいいじゃないですか! ケイちゃんどう思う? あ、ついでにセイジもアイデアよろしくー」
「お前ね、そのついで、て俺の扱いヒドくない? ……ま、確かに面白そうっちゃそうだけど、それだと年末の紅白みたいに何でもござれで、客は何見ていいかわかんないんじゃね? 俺ら面白くても客はどうなのよ? それにそんなでかいの夏にやる場所なんて、どーすんのよ?」
呆れ半分にセイジが答えたが、祐介は、
「だから面白いんじゃないですか! ここでどんどんアイデアいただいて、ま、後は僕に任せてくださいよ! 悪いようにはしませんって」
そう言って眼鏡の奥の油断ない瞳を輝かせた。
こうしてその夜の打ち上げは賑やかに過ぎて行った。
登場人物多いとなかなか話が進みませんね(汗)
ようやく次に移れます。フェス開催に向けてどう動いていくのか、お楽しみにー!
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