エピローグ
「……おい、今何て言ったんだ?」
「だから、来年の開催が決まったんですよー!」
「冗談だろ? あんなバカげた祭りが続くわけねえだろう」
「え? 本当なんですか? すごいじゃないですか!」
Meteor Shower Fes.が終わり、久しぶりに三人でクラブ藍に来ていた。忙しい三人が顔を合わせ、ささやかなフェスの打ち上げをしていた最中の祐介の発言に、リュウヤは目を丸くし壱星は破顔する。
「それだけじゃないですよー。今後は定期的に開催する方向で進んでますからね、お二人とも引き続きよろしくお願いしますねー」
「マジかよ……うわ、めんどくせぇ」
「もちろん、出来る限りサポートさせてもらいます!」
対象的な二人の反応に祐介が頬を膨らませる。
「もう、リュウさんももっと喜んでくださいよー。大丈夫です、もう話は通してありますからね!」
「なんでお前はそう仕事が早いんだ……」
頭を抱えるリュウヤを見ながら壱星が言った。
「リュウヤさん、しゃべるのがめんどくさいって思ってるだけでフェス自体は嫌じゃないんですよね? ステージ最高に盛り上がってましたし」
するとリュウヤがため息を吐いてグラスの酒を一気にあおる。すかさず置いたグラスに新しい一杯をいそいそと作る祐介のことは意に介さず答えた。
「まあな、フェスは悪くなかった。締めも盛り上がったしな」
「SNSのトレンドになってたらしいですよ、メテオシャワーが」
「そうなんですよ~! あのフェスに参加した人数見ましたか? 小樽も旭川も近隣のホテルまでほぼ満室になってたらしいんですよ! しかもフェス終わりに飲食店を利用する人も多いですからね、地元への貢献が半端ないってことで自治体なんかも協賛してくれることになりましてねー、それに……」
興に乗った祐介がペラペラと話し出すのをあっさり聞き流しながらリュウヤは思い出していた。
自分のファンだけでなく会場一体となって熱唱したラストナンバーは、間違いなくリュウヤの魂を揺さぶった。歌姫マリア・カナリーとの共演は新たなパフォーマンスの可能性を見せた。
『You must call soon No.114』のフレーズは今もまだ耳にする。リュウヤがシャウトしたこのフレーズはフラッシュのように切り取られ、ユーチューブなどでも使われている。マリア・カナリーは日本で配信されるこの曲の収益の一部を、『いじめから守る』団体に寄付することを発表し、リュウヤたちと同じようにマリア・カナリーがこのフレーズを妖艶な笑みとともに口ずさむCMすら流されている。
今回のフェスを機にデビューを勝ち取ったグループも話題になっていた。女性四人組のロックバンドで、全員がヘドバンしながら演奏するパフォーマンスが受けているらしい。リュウヤも曲を耳にしたが、オリジナルで高い技巧も持つ演奏にこれから躍進してくる気配を感じた。数年後には同じ舞台に立つかも知れない。
確かにあのフェスがもたらした興奮や反響はリュウヤの中にも未だ熱を持っていた。あのアンバサダーという役柄は面倒きわまりないが、再びあの熱を感じることは悪くない。
「しゃあねえな。乗りかかっちまったものは仕方ねえ。だが、これから先ずっと、ってのはねぇからな」
「わかってますよー、この先もずーっと続けていくには世代交代も必要ですからね! あ、でも、キャンペーンへの協賛は継続します! ……あーあ、それはそれとしてラストナンバーを生で聞きたかったなー」
「お前あの会場にいたんじゃなかったのか?」
「いましたよー。でもね、接待の任務がありましたから仕方ないんですよ〜」
「スポンサーのですか?」
「違いますぅ〜、もっと大物! 彼女が出演するかわりに北海道満喫観光プランを案内する大役があったんです! しかもお忍びでって依頼ですからね、大変だったんですよー」
そこからはしばらくまた祐介の愚痴と自慢の混じった独壇場が繰り広げられた。リュウヤも壱星も適当に相手をしながら時折苦笑を交わし、和やかに打ち上げは続いていった……。
「……まさか七年も続いてるとはな」
リュウヤは還暦を迎えたこの年、数年ぶりにEARTH HALLの舞台に戻ってきた。
歌手の世界は栄枯盛衰が激しい。長くメジャーの地にいるのはほんの一握りのアーティストだけだ。あの時点で既に大御所であったRYU-SAYの人気は安定しているが、リュウヤの体力も考えて活動を少し減らすようになった。定期的にライブは開催されているし海外ツアーもありがたいことにまだ続いているが、両方同時にこなすことはしていない。
逆にLAST BULLETSやKING&QUEENは更に勢いを増し、海外公演も精力的にこなしている。日本ツアーに海外からの追っかけが加わることも珍しくない。
秋本美咲は紅白出場を果たし、玄姫やすむはあれ以来MOON HALLのメインパーソナリティになっている。あの時デビューを勝ち取ったリドレスは数年前にこのEARTH HALLを沸かせた。
反対に歌う蟲ケラは三度の解散を経て、今年はこのEARTH HALLに出演していた。綺羅めくるは歌手活動も継続はしているが、毒舌を武器にバラエティに参加することが増えている。ハイドランジアはメンバーが全員入れ替わり、今はハイドランジアNEOとして活動しているらしい。リュウヤはあまりアイドルには詳しくなく興味もないのでうろ覚えだ。
Riser☆sはというとチームでの活動は冠番組のみで新曲の発表回数も減った。今は個人の活動に重きを置いており、俳優、ダンス、ソロ活動、バラエティとメンバーがそれぞれの得意分野で個性を発揮するようになっている。
── そして、今日このEARTH HALLではついに夢の舞台が開かれる。
RYU-SAYのラストナンバーは『CALL NO.114』だった。マイクを持つリュウヤがコールした。
「ラストナンバーはこの男とやるぜ。来いや、壱星!」
舞台に壱星が真っ赤な薔薇の花束を持って登場した。
「リュウヤさん、還暦おめでとうございます」
そう言って六十本の薔薇の大きな花束をリュウヤに手渡すと、会場に大きな拍手が起こった。
「この記念すべき舞台に、……」
壱星の言葉が詰まる。涙ぐんでいるのだ。会場から
「がんばれー」と声が上がる。ぐっとこらえるように顔を上げた壱星は、
「Meteor Shower Fes.七周年という記念の時に還暦を迎えられたことを心よりお祝い申し上げます。また、この舞台で共にこの歌を歌えること、そして、フィナーレを共に歌えること。本当に夢のようです」
一気にそう言い終えると、リュウヤがにやりと笑った。
「言っただろ。夢ってのはな、願うものじゃねえ。叶えるもんなんだってな。やっとここまで来たな」
「……はい! 精一杯歌わせてもらいます!」
そして華咲の代わりにケイがコーラスを入れながら『CALL NO.114』が歌われた。
盛大な拍手の中、舞台は暗転し。次第に拍手が手拍子に変わると客席からコールが響く。
「流星群、流星群……」
その間にステージには出演したアーティスト達がフィナーレの為に集まってくる。リュウヤと壱星は舞台中央でその瞬間を待っていた。
「最後まで泣くんじゃねえぞ」
からかうようにリュウヤが言うと、壱星がかすかに頷くのがわかった。
「俺たちの歌を轟かそうぜ、準備はいいか?」
スタッフからの合図を確認するとリュウヤはマイクを持ち上げ、シャウトした。
「We are members of」
客席から大きなレスポンスが返る。
「「Meteor Shower!」」
舞台がパッと明るくなり、壱星が叫ぶ。
「みんなでー」
「「流星群になろうぜっ!!」」
壱星が『夢だ』と語っていた舞台の幕は開かれ、大きな果実となって返ってきた。出演者、観客、そしてSUN HALL、MOON HALL、三つのステージを繋いだ盛大なパフォーマンスの中、リュウヤと壱星の声がその全てに届けられる。
── そうさ、俺たち皆流星群の仲間
Yes,all of us are members of Meteor Shower.
All of us are members of Meteor Shower. ──
── 完 ──
ご愛読ありがとうございました。
この物語は、多くの作家様の生み出されたたくさんのキャラクターのおかげでここまで紡ぐことができました。素敵な作品の数々に、快くお貸しいただけた作者様方に心より感謝申し上げます。
『歌手になろうぜ』企画に参加させていただきありがとうございました。
Special thanks!
いでっち51号様
如月 文人様
江保場 狂壱様
山崎山様
にのい・しち様
蟹海豹なみま様
未来屋 環様
悠月 星花様
お読みいただいた読者様、ありがとうございました!
ラストに、『流星群になろうぜっ』の歌詞を掲載します。




