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流星群になろうぜっ!  作者: まりんあくあ


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流星群になろうぜっ! 9

MOON HALLもラストに向けて動き出します

 MOON HALLでは、今秋CDデビューするV-bexの新人アーティストの演奏が始まっていた。

 その演奏をホテルの一室で観ていたのは、ジストペリドの二人。


「ふうん。やっぱりちゃっかりしてるね、V-bexさんは」

「そりゃあ去年あのホールから三人も大躍進したからね。今年もあやかろうって思うのは不思議じゃないだろ」


 そんな二人にマネージャーが声をかける。


「二人とも、そのバンドの演奏が終わったらそろそろ準備してくれよ」


 揃って返事をする二人は、仲良くベッドに腰かけて、一台のタブレットを二人で持ちながら配信映像を観ているところだった。


「ね、シークレットってことはさ、それっぽい格好で行く?」

「それってどんな格好を考えてるの?」


 陽翔が悪戯っぽく提案するのに微笑みながら聞く湊。タブレットを持っていない方の手で湊の頬をつつきながら陽翔が答える。


「そうだね。やっぱり全身黒ずくめにサングラス、とか?」

「シークレットサービスみたいだね。……ふーん、でもそれ、面白そうだな。帽子も付けようか」

「いいね」


 こうしてアメリカ映画に出てきそうな扮装に着替えた二人は、どこか嬉しそうにこそこそとタクシーに乗り、目的地へと向かった。


 さて、MOON HALLでは昨年に引き続き『リドレス』のメンバーがステージに上がっていた。昨年の演奏が好評であったため、トリのシークレットゲストの前座の位置での出番に、メンバー全員が極度の緊張状態にあった。


 このバンドは活動を始めて五年になる。結成から間を置かずライブハウスで火事騒動を起こし、借金地獄の下積みを重ねてきた。犯罪スレスレの動画を上げたり、赤子を抱えたままメンバーが演奏していたりと目立つためなら何でもありのようなパフォーマンスのお騒がせバンドでもあったが、全員の演奏技術が高く、奇抜な衣装とオリジナル曲の多彩さとで徐々に知名度を上げてきた。


 とはいえあまりにも過激なパフォーマンスが話題になったため、今でも彼女たちには入念なボディーチェックが行われているのも有名な話だった。今回もドラムスのハゼロが派手なメイド服のポケットにこっそり小さなウォッカの瓶を忍ばせていたのがバレ、あっさり回収されていた。


 リーダーのキル姐に、


「ハレ舞台を火の海にする気かい!?」


 と怒鳴られたハゼロは半泣きになりながら、


「き、緊張をほぐそうと思っただけだし……」


 とスティックを震わせながら答えていたが、他のメンバーもそれぞれに、持っているギターが小刻みに揺れていたり、発声練習の声が思い切りかすれていたり。この状態で大丈夫なのか? と彼女達を知らない者が見れば、心配を通り越し『ムリじゃね?』と思われても仕方のない様子であった。


 ところが、ステージ上でハゼロがカウントを取り、身体全体を使って透明なドラムセットからビートを繰り出すと、ギターのキルとベースのビッチ、三人のスイッチが途端に切り替わる。彼女達は熱に浮かされたかのように熱い音の渦を作り出した。


 その渦に背中を押されるようにキーボードを肩から下げたボーカルのエラは、俯いていた顔を上げマイクに向ける。その細い身体のどこから出るのかと思うほどによく通る声が、派手な音を一つの曲にまとめ上げていく。


 メタルバンド『リドレス』の曲はステージ上で完成する。音楽評論家の書いた記事の言葉通り、演奏が彼女達を高みへと引っ張り上げていく。やがて興に乗った彼女達は揃って激しく頭を振り始め、そのトランス状態のままによりステージの音が激しさを増していく。だが、エラの声はその激しいパフォーマンスの中でも音程を狂わせることなく観客の鼓膜に突き刺さっていく。



「「世界を叩け! 世界を壊せ! 消し去れ全ての存在を!! 押し込めるな破壊衝動っ!!!」」


 ギターのキルとエラのハーモニーがホールを震わせる頃には、観客も大きな声援とともに曲の一部と化していた。


 司会の玄姫やすむも舞台袖から彼女達の演奏に見入っていた。


「すっごーい、熱いよ!」

「本当だね」


 独り言を呟いたつもりのやすむは、返答があったことに驚き、振り向いた途端に大声を出しそうになり、慌てて口を押さえた。


「やすむちゃん、お疲れ様です」


 二人から声をかけられ、思わず床にうずくまり悶え始めるやすむに、


「「大丈夫?」」


 と優しく声をかける二人。


「聞いてない聞いてない聞いてないよ! まさかまさかまさか……えー、嘘でしょ? これ夢でしょ? 二人がこんなちっさなホールに来るわけないないない」


 頭を抑えてうめくやすむに容赦なく現実が降りかかる。


「あれ、聞いてなかった? 僕達がシークレットゲストなんだけど」

「ふふ、僕らがここにいることはまだナイショだよ」


 とんでもないサプライズにやすむが正気を取り戻すにはしばらくの時間が必要だった。



 やがて起き上がったやすむは感激の涙を流しながら二人と握手を交わし、


「もう、この手洗えないっ!」

「いや、ちゃんと洗ってね?」


 と苦笑されるのだった。

  




今回お借りしたのは、

悠月 星花様より

ジストペリド


そして、

にのい・しち様より

リドレスのメンバー

リドレスが登場する物語は、こちら!

『リドレス・ヘッドバンギング』


https://ncode.syosetu.com/n1505ie/


玄姫やすむは、

江保場狂壱様より


素敵なキャラをお貸しくださりありがとうございました。


長らく連載を続けてきたこの『流星群になろうぜっ!』も残り数話となりました。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



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― 新着の感想 ―
 やすむにとって男は兄の康だけです。とはいえ仕事と私情は分けており、ジストペリドに対する対応は間違っておりません。世間ではどのような対応をすべきかは理解しています。  moonhallにジストペリド出…
バタバタしていてしばらく振りのお伺いになってしまいました。 なんて多彩なキャラクターたち!(*´ω`*) 皆キャラが立っていて本当に魅力的ですね。 手が洗えない! ってなる気持ちわかります……笑。 こ…
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