3 星は動く 1
ツアーの打ち上げに遅れて到着した大森祐介とは?
「ママ、あっちと向こうのグループだが、アルコールに気をつけてくれ。十一時になっても帰りそうになかったら、タクシーを呼んでもらえるか」
そう言ってリュウヤは水無月たちと、もう一つ別の場所で賑やかにしている女性アイドルグループ、ハイドランジアを示した。ハイドランジアは六月に結成されたので紫陽花という名前になったという最近結成したばかりのグループだ。ほぼ十代で構成されているはずだ。下は中学生もいると聞いていたが、さすがにそのメンバーは参加していない様子だった。藍はにこりと微笑むと言った。
「心得ておりますよ。スタッフにもそれとなく注意するように言ってあります。本日は本当に凄い方ばかりですから、皆張り切ってくれてます。wing guysはまだ高校生でしたわよね? アルコールを頼まれたのでノンアル渡してありますよ」
「さすがだな。なんかあったら俺も出る」
「ありがとうございます。心強いですわ」
リュウヤは自分たちのマネージャーの坂元を呼び、wing guysのマネージャーにそれとなく連絡しておくように言った。しばらくすると、向こうのマネージャーがこちらに向かっているという連絡を受けた。
「わりいな、せっかくの打ち上げに仕事増やしちまって」
するとにこりと笑いながら首を振る。坂元は三人目のマネージャーでまだ三十代だが、メンバーにもきちんと筋を通す骨のある性格をしている。大抵のトラブルならば安心して任せられる頼もしい縁の下の力持ちだ。きっと酒も控えてくれているのだろう。
坂元がスタッフたちの席へ戻っていくと、リュウヤは再びゆっくりと周りを見渡した。
── 悪くない光景だ。
リュウヤは全国ツアーを振り返ってみた。そして、今日のショーも。
── 悪くねーな。
新曲のリリース回数こそ減ったが、来年はまたワールドツアーが始まる。それなりに年は重ねたが、まだまだ上には上がいる。リュウヤは平均寿命の折り返し地点だ。これからニ華も三華も咲かせられるだろう。
「……ふん、楽しみだ」
そう呟きハイボールでも頼もうかと思ったとき、ビール瓶を片手に壱星が現れた。同じチームの香月 透夜、閑谷 篤志、水無瀬 悠人、栗栖翼が勢揃いしている。
壱星が口火を切った。
「リュウヤさん、全国ツアー成功おめでとうございます。そしてお疲れ様でした!」
メンバーも口々にお祝いの言葉をかけてくる。
「おう、ありがとうな。立ってないで座れや」
「「失礼します」」
全員が礼儀正しく挨拶をして腰を下ろす。Riser☆sは多くのアイドルグループを排出している会社に所属している。数々の先輩後輩のいる中で活動しているからか、ステージ外では常に礼儀正しい。リュウヤはそこを高く評価していた。言葉遣いはコミュニケーションの大事な要因だ。
「Riser☆sの新曲良かったぞ。自分らで作ったんだってな?」
そう話を持ちかけると、リーダーの透夜が答えた。
「ありがとうございます。作詞は壱星が、曲は翼と俺が。ダンスは篤志と悠人が中心になって考えてくれました。チームの力を上手く発揮出来た作品になったと思います」
「お前らを見てるといいTeamだな、って思えるよ。香月はバラエティのMCもやってるんだってな」
すると透夜がウルフカットにしたくせ毛の黒髪に手をやりながら、大きな切れ長の目を細め、
「はい。俺お笑いめちゃくちゃ好きなんですよ。リュウヤさんに知ってもらえてて嬉しいです」
と少し照れている。隣に座る篤志がその透夜の腕を引っ張りながら笑って茶化す。
「リーダーその番組で今度コントにも出るらしいっすよ。噛まなきゃ良いんですけど」
「噛まねーよ! 悠人と一緒にするな」
「え? オレ、とばっちり? 何気にディスられてる?」
一気にリュウヤの周りが賑やかになり、リュウヤも一緒になって笑っていると、
「うわぁ、今日は賑やかですね。リュウさんお疲れさまでした。ツアー大成功おめでとうございます!」
とリュウヤの後ろから声がした。振り返るとリュウヤより二回りほど小柄な男が立っていた。小太りだが筋肉質な体に仕立ての良いスーツを着ている。黒縁の四角い伊達めがねをかけた細いキツネ目の男だ。見た目は小狡そうに見えて、実は好奇心旺盛な彼が、大森祐介だ。
「おお、祐介じゃねーか。そっちもお疲れさん。相変わらず忙しそうだな」
リュウヤがそう声をかけると、祐介の後ろから店のスタッフが人数分のグラスを机の上に置いた。
「先ずはツアーの成功を祝わせてくださいよ。皆さんお疲れ様でした!」
祐介の合図で店のあちこちからポンッという軽快な音が響いた。スタッフが次々とグラスを満たしていく。祐介はリュウヤのテーブルの空いている席に着くと、そのうちの二つを手に取り片方をリュウヤに差し出した。リュウヤが手に取ると、
「乾杯!」
と言ってカチリとグラスを合わせた。
「皆さんもどうぞ。最高級のシャンパンですよー」
「うわ、スゲー! これドン・ペリじゃないですか。うわ本物初めて見た!」
ムードメーカーの篤志が興奮しながらそう言うと、リュウヤは鼻でフンと笑いながら言った。
「こいつはこういうキザなことが大好きなんだよ」
「いやあ、これこそ成功者みたいでしょ?」
そう言って屈託なく笑う祐介だった。
今回も登場のwing guys が登場するのは、こちら
悠月 星花様の
「僕のアイドル人生詰んだかもしんない ~ 転校生は僕の運命の歌い手?! 色気あるバリトンからハイトーンまで……アイドル底辺からの下剋上の歌 ~」
https://ncode.syosetu.com/n5201ic/
メインのジスペリ登場はもうしばらくお待ちください。
次回は誰が登場するか。お楽しみに!
次の更新も二週間後を予定しています。