32 星は流星群になる 4
Riser☆sの出した結論とは……
その時、悠人が言った。
「俺はいじめを受けたことも、いじめられたこともないよ。だけど、同じクラスに『あいつ、いじめられてるんだろうな』と思う子ならいたことがある。その時は自分の友達でもないし、関わり合いになりたくなくて何もしなかった。だけど、皆と話しているうちに、その時の俺にも何か出来ることがあったのかも知れないって思うようになったんだけど」
壱星が頷いて答えた。
「悠人、そういう立場にいた人のことを『傍観者』って言うんだ。実はいじめの問題の中で一番人数が多くて厄介なのが、この傍観者だった人なんだって」
「え、それはどういうこと?」
メンバーが訝しげな顔を浮かべる中、壱星が話し出した。
「いじめというと、いじめられた被害者、実際にいじめた加害者との関係のように思われがちなんだけれど、実はこれは氷山の一角のようなもので、その周囲には直接いじめに関わっていない他のクラスメイトがいるよね。または、実際にいじめの現場を目撃したけれども関わらずに何もしなかった、という人たち。そういう人たちをまとめて『傍観者』と言うんだけれど、この傍観者の立場にいた人たちも実はいじめに大きく関わっているんだ」
「壱星、詳しいね」
透夜が驚いたように声を上げた。他のメンバーもじっと壱星の話に聞き入っている。
「SECRETとして活動する時に前もって勉強したのもあるけど、この前に出演したクイズ番組の参加者の中に八木先生がいてね。休憩時間に声をかけてくれたんだ」
八木先生とは教育者として数々の番組に登用されている人物で、いじめ問題にももちろん見識が深い。彼はSECRETの活動を高く評価しており、壱星に声をかけてきたそうだ。
「その時に今回の件について簡単に相談してみたんだ。俺たちの番組にいじめについての投書があって、どう扱うか悩んでいるって」
すると篤志が問う。
「八木先生は何て言ったんだ?」
「『バラエティで扱うにはデリケートすぎる問題だろうね。何か別の形で取り組むほうがいいと思うよ。でも君たちが真面目に語れば、きっと多くの人に届くメッセージになるだろうね』って。その時のアドバイスの中にこの傍観者のことがあったんだ」
「壱星、くわしく教えてくれる?」
悠人の問いに壱星は頷くと説明を続けた。
「話を戻すね。この傍観者という立場の人たちは一見いじめには関わっていないように見えるよね。だけど、もしも自分がいじめられている本人だったら、どう見えるかな」
しばらく考えていたメンバーが口々に言った。
透夜
「そうか。いじめられている本人からしたら手を貸してくれない冷たい人たちに見えるだろうね」
翼
「『誰か助けて』って思うよな」
悠人
「関わり合いになりたくなくて知らないふりをしていると、いじめられている側からしたら『どうして助けてくれないの』って思うかも」
篤志
「逆にいじめをしている方からしたら、『何も言ってこねーんだから、こいつらは俺らの味方みたいなもん』って調子に乗るパターンだな」
メンバーの返答を聞いた壱星が続ける。
「傍観者側としたら『下手に関わって自分にその牙が向いたら困る』という考え方もあるとは思うよね。そこでなんだけど、この傍観者はいじめに関係がないのかな」
悠人が答えた。
「そうか。そう考えると『ない』とは言えないね。だけど、じゃぁ何ができるかって言われると難しいよね。勇気も力もあれば、『それぐらいでやめとけよ』って止めに入れるだろうけど、矛先が自分に向いたら嫌だと思ったら、その場では何もできないよね。俺もどちらかといえばそうだったかもしれないって今考えたら思ったよ」
「なるほどね。壱星、貴重な意見ありがとう。だったら、僕らからのメッセージは傍観者にも届くようにしないといけないね」
「やっぱり、詳しい人に聞きながら進めようぜ。壱星、八木先生に相談することは出来そうか?」
「うん、透夜。俺もいじめの被害者、加害者、傍観者の三つの立場の人全員に届くようなメッセージを伝えたいって思った。それから篤志、俺もそうしたいとは思う。でも、番組で声をかけられただけだから、マネージャーから連絡を取ってもらったほうがいいね」
こうしてRiser☆sとしての方向性は決まっていった。結菜の問題については番組では直接触れることはせず、篤志が仲介役となって華咲の娘愛華と結菜が連絡を取り合うことで決着となった。
その後、結菜は愛華と二人で自分たちなりに罪を償う方法を模索していくことにした、と華咲から報告を受けた。Riser☆sは八木先生を含む何人かの有識者のアドバイスを受けながら、自分たちが届けるメッセージについて検討を重ねていった。
その後、番組後半に「Riser☆sから大切なメッセージがある」という告知をしたところ、SNS上で「解散?」と物議をかもす騒動があったが、Riser☆sは無事務めを果たした。その内容は彼らの動画配信チャンネルでもアーカイブを配信し続けることで、メッセージを届け続けている。
そうしてRiser☆sが奮闘している間にも、Meteor Shower Fes.に向けての準備は着々と整いつつあった。
重い問題を何とか書ききることができました。
彼らの出したメッセージについては本編から逸れますのでここでは書きません。
次回からはいよいよFes開催に向けて動き出します。
ご意見、感想、いいねお待ちしています。
それでは、また二週間後にお会いしましょう




