27 星は歌う 7
鮎美、壱星、リュウヤがメッセージを伝えます。
本日は二回更新です。
次の更新は歌詞のみです。
「誰もが自由に好きなことを楽しめる。誰もが自由に好きなところへ行き、好きなものを食べ、好きな人と過ごす。そんな当たり前の日常を私達は奪われました。誰もが不自由を感じる世界で起こったこの出来事は氷山の一角ではないでしょうか。この不自由な世界が早く終わりを告げ、自由に羽ばたける未来を願います。聞いてください『翼をください』」
先程とは打って変わったバラード調のメロディーに乗せ、華咲の歌声が静かに浸透していく。サビに差し掛かると高らかに歌い上げ、間奏へと移る。
「皆様の願い事が叶いますように。祈りが届きますように。どうか共に歌に思いを乗せてください」
曲が二番に差し掛かると、Riser☆sがハモりを入れ始めた。そしてサビに差し掛かる前に透夜が呼びかける。
「画面の前の皆さんも一緒に歌いましょう!」
二番が終わると曲調が一変した。ハードなリズムに変わり、RYU-SAYらしいロックな音が会場に響き渡る。セイジの威勢のいい掛け声と共にドラムの重低音が胸に迫ってくると、やおらリュウヤがステージに飛び出した。トレードマークの赤い長髪を振り乱しシャウトするように歌う。華咲がその歌声に合わせ、二人の正反対の声が絶妙のハーモニーを生んだ。サビに差し掛かると反対側の袖から壱星が現れ、三人の声が合わさる。壱星のメロディーを華咲とリュウヤが挟み込むように歌い上げ、セイジのドラムとマルとシンのアドリブを加えてラストまで勢いを殺さず突っ走るようにして曲が終わった。
三人が大きく一礼し、バンドの音が余韻を残して消えていく。一呼吸置いて、華咲がマイクを口に当てた。
「改めまして今回のSECRETのメンバーを紹介します。私、華咲 鮎美とそしてリュウヤ、それから佐ノ川谷壱星です。よろしくお願いします。そして演奏はRYU-SAYのメンバー! ケイ、マル、シン、そしてセイジー!」
ケイ、マル、シン、セイジの順にソロを短く入れたバンド紹介が終わると華崎が続ける。
「このメンバーでSECRETの曲をお届けするのですが、なぜこの三人で組むことになったのかをまずお話しさせていただきます」
そこで一旦言葉を切ると、少し俯く華咲。すぐに顔を上げると一度唇を引き結び、口火を切った。
「先程お話しさせていただいた、亡くなった少女が好きだったバンドがRYU-SAYです。そして彼女のグループの推しがRiser☆sでした。彼女はグループの友達に壱星のファンだと伝えていました。ご存知の方も多いかも知れませんが、壱星くんはリュウヤの大ファンです。同じRYU-SAYのファンである壱星に彼女は親近感を持っていたそうです。そして彼女はRiser☆sの曲を聴くうちに彼らのファンにもなっていました。その彼女が亡くなったことを聞き、壱星とリュウヤは大変心を痛めました」
壱星とリュウヤは黙って頷く。壱星は涙をこらえるように少し俯いた。華咲が続ける。
「大切なファンの一人が辛い思いを抱えたまま亡くなってしまったこと、彼女が誰にもその胸の内を語らぬまま逝ってしまったこと。彼女が誰かに相談できていれば、命を失うことはなかったかもしれません」
そこで一度言葉を切った華咲は再び話し始める。
「『こころの電話相談』というものがあります。誰にも言えない、相談できない、そんな悩みを無料で聞いてもらえるサービスです。学生の皆さんは学校から案内を受け取ったことがあるのではないでしょうか。誰にも聞いてもらえない、誰にも話せない、そう一人で殻に閉じこもる前に少しの勇気を持って電話をすれば救われるかもしれません。次の曲のタイトルは『CALL NO. 114《ワンワンフォー》 』と言います。114は仮の番号ですが、勇気を出してコールしてほしいという願いが込められています。私、壱星、そしてRYU- SAYのセイジが歌詞を書きました。曲はリュウヤさんが書いてくれました」
そこで壱星がマイクを持った。
「俺のファンでもいてくれた彼女がコロナ禍の中、苦しみを一人で耐え尊い命を散らしてしまったことを知り、とても辛い気持ちになりました。きっかけは些細なことだったのかも知れません。でも、その行動に多くの生徒達が関わることで大きな『いじめ』へと発展してしまいました。彼女と同じグループの少女達は自分達の行動がきっかけとなり、彼女がクラスで孤立し誰とも話せない状態になったとき、元に戻そうと働きかけたそうです。ですが、その時にはもう彼女は心を閉ざしてしまっていて彼女達の声は届きませんでした。……実は俺も、小学校から中学校の間、いじめられていたことがあります」
そう言うと壱星は言葉に詰まり、一度マイクを放した。涙をこらえるようにして再び話し出す。
「だから彼女の気持ちが少しだけわかります。誰とも話せず、孤独と一人きりで戦う気持ちが。その時のことを思い出しながら、詩を書きました。俺が彼女のように心折れずにいられたのは、今のRiser☆sのメンバーに出会えたおかげです。俺はこんなふうに泣き虫で、すぐに泣いてしまう」
そう言うと壱星はぐいと目元を拭う。
「だからずっと、『泣き虫』『弱虫』とからかわれてきました。俺もずっと誰にも相談出来ずに抱え込んでいました。そんな時にメンバーが言ってくれたんです。『お前の涙は優しさだ。お前の心が優しいから泣けるんだ、それは強みになるぞ』って。その言葉のおかげで俺はここまでRiser☆sとして活動してこられました。彼女のように心を閉ざしてしまう前に、一人でも話を聞いてくれる人がいれば救いになったかもしれません。いじめられて苦しいと感じたなら、この曲を思い出し勇気を持ってコールして欲しいと思います」
次にリュウヤがマイクを取った。
「俺は難しいことはわからねえ。だが俺のファンがまだ若い身で命を散らしてしまったことにはやりきれない気持ちになる。ただ、これだけは言える。黙って一人で耐えてるだけじゃ何も変わらないんじゃねーかってな。誰にも言えないんならこっそり電話してみろ。立ち直るきっかけになるかもしれねぇよな。とりあえずコールしろ、これはそう言う曲だ」
コールしろ、と言いながら左手の親指と人差し指でL字形を作ると耳に当てる仕草をした。それからリュウヤが合図すると、曲が始まった。
いでっち51号様とコラボして書いたCALL NO.114
この歌詞を私の物語の中で使うに当たり、悩みながらこのシーンに至りました。
SECRETのメンバーがどのようなムーブメントを起こすのか、続きもお楽しみいただければと思います。
次の回は コラボの歌詞を掲載します。




