1 星の出会い
本日プロローグを同時に投稿しています。
未読の方はそちらからお楽しみください。
「それでは今宵の宴もここまでといたしましょう。また次のミュージックショーアワーでお会いしましょう。本日のゲストの皆さん、ありがとうございました!」
多くのアーティストがキラキラと瞬くスポットライトの下、笑顔であちこちのカメラに向けて手を振ったりアクションを起こしたりしている。
もはや大御所の域にあるハードロックバンド「RYU-SAY」のメンバーもその中で大きく手を振っていた。寄りカメに愛嬌を振りまくバンドメンバーとともに、ボーカリストのリュウヤも悠々と手を振る。赤色に染められたたてがみのような髪。腕のROLEXと金のネックレスがロゴ入りの白い袖なしTシャツと黒い革ジャンの上で輝いている。骨太な彼の身体は筋肉質な体格もあり精悍な印象を与え、多くの出演者の中でも一際大きく見えた。切れ長の目は深い皺の刻まれた壮年の男の顔の上で意外にも柔らかいが、尖った顎がいかつい印象を与える人物だ。
やがて収録が終わり、舞台を降りる段になると、リュウヤは太い声を張り上げた。
「皆お疲れさん! 打ち上げやるから来たいヤツは来い」
ぶっきらぼうな声のかけ方に、すかさずセイジがフォローの声を上げる。
「お疲れ様っすー。この後ツアーの打ち上げを兼ねてクラブ貸し切ってるんで、良ければ便乗しちゃってくださーい。もちろん費用はこっち持ちでーす! 未成年の子も大丈夫っすよー。ソフトドリンクも完備なんで気兼ねなく! あ、場所はうちのマネージャーに聞いてね。ツアバスにも空きあるんで、一緒に移動したいって人は俺達に気軽に声かけてねー」
笑顔で手招きを見せるセイジ。リュウヤもニヤリと笑いながら言った。
「こいつらガタイはアレだが、みんな気のいいヤツらだ。心配せず気楽に来い」
それから両隣のベーシストとギタリストの背中をバンバンとたたいた。
ベーシストのシンが、
「ちょ、リュウさんのパワー半端ないんでやめてくださいよー。俺の繊細な指に何かあったらどうしてくれるんですかー」
と笑いながら返すと、ギタリストのマルも、
「そうっすよ、ツアー終わってへろへろんなってる俺の肩にヒビ入れるつもりっすか?」
と受ける。途端に周りが和やかな笑いに包まれた。共演したアーティスト達が口々に礼の言葉を言いながら立ち去っていく。
このミュージックショーアワーは生収録が売りだ。既に時刻は二十一時を回っている。声はかけたが実際に来るのは成人済の幾人かになるだろうとリュウヤは踏んでいた。
番組スタッフ一人一人に「お疲れさん」と声をかけ、打ち上げ参加にも誘うと、リュウヤもスタジオを後にした。件のクラブは一晩貸し切ってある。メンバーだけでなく関わったスタッフ全員をねぎらうための打ち上げだ。……今頃はツアースタッフが次々とクラブへ集まって来ている頃だろう。
今回の全国ツアーは仙台を皮切りに北海道、名古屋、福岡、岡山、大阪、そしてラストが東京とおよそ三ヶ月をかけた大がかりなものだった。人気絶頂期ではなくともバンド結成二十周年記念としてはまずまずの成果だった。そのツアーも昨日で終わり、締めがこのミュージックショーの生出演。どでかい仕事をやり遂げた心地よい疲れをリュウヤは感じていた。
楽屋に戻り荷物をまとめていると、コンコンとノックの音がした。
「おう、入れ」
声をかけるとガチャリとドアが開き、顔を見せたのは明るい茶色のサラサラヘアーをボブショートにカットした人懐こそうな二十代半ばの男性だ。
「お疲れ様です、リュウさん。ツアー成功おめでとうございます」
部屋に入るなり丁寧な挨拶をしてみせたのは人気アイドルグループ、Riser☆sのメンバーの壱星だ。Riser☆sとはこのミュージックショーアワーズの出演を通して四年前に知り合った。とりわけこの壱星は初顔合わせのときに真っ赤な顔で挨拶をしに来て、
「あの、前から大ファンでした! 握手してください!」
と力いっぱい手を出してきて、リュウヤが握手をしながら軽くハグしてやると涙をこぼして喜んでいたやつだ。
「すげー。夢みたいだ」
と男泣きする壱星に、
「ばかやろー。夢ってのはこれからを見て言うんだよ。まだ会っただけじゃねーか。お前もシンガーなら俺と共演したいぐらい言ってみせろ」
とバンと背を軽くたたいて言ってやると、
「それこそ夢ですよ」
と涙を腕で拭いながら言うので、ハッパをかけてやったものだ。
「んなことねーよ。名前売ってりゃ、そのうちそれこそこの番組で声もかかるようになるぞ。そんときを楽しみにしやがれ」
「はいっ」
残念ながらまだその機会には恵まれていないが、向こうも結成七年になり、アイドルとしてはベテランの域に入りつつある。壱星の夢もそろそろ叶ってもおかしくはない頃合いだ。
「おう、壱星じゃねーか。ありがとよ。お前、お忍びなんて水くさいこと言わずに堂々と見に来いよ。楽屋にこっそり差し入れだけ置いとくんじゃねーよ。いつでも顔見せに来いって言ってるだろ?」
そう声をかけると、頭をかきながら、
「すいません。こっちも収録の合間に隙見てちょろっとしか行けなかったんですよ。アンコールまでいたかったんですけど。だから今日、メドレー聞けて感激で!」
そう言うともう少し涙ぐんでいる。ものすごく気のつく優しい男なのだが、かなりの泣き虫なのだ。収録中もきっちり泣き顔を撮られていた。
たがそこがカワイイと、女性ファンには言われているらしい。リュウヤにはよくわからないが、これが当世流なのかと思っている。
こちらの小説は、不定期投稿となります。
次話は来週投稿予定です。お楽しみに。
続きが気になるそこのあなた!
ブクマ推奨です(笑)
この作品はいでっち51号さんの「歌手になろうフェス」参加作品です。このフェスに参加している作家さんの作品に登場する人物やグループがどんどん登場しますので、お楽しみに。
次回トップバッターは演歌歌手のあのかた
気になる人は読もうの検索でフェス名を入れてみてください。たくさんの作品に出会えます!
私の作品のキャラも登場するかも? お楽しみに!
まりんあくあを追っかけてくれてる素敵な読者様、いつもありがとうございますm(_ _)m
また違ったテイストのこちらの物語もお楽しみいただければ幸いです。