18 星は再び動き出す3
華崎提案のメテオシャワーフェスとは?
「それってまさかの便乗ネタってことなのかい?」
「そう捉えられても仕方ないと思いますが、華崎社長の話ではこれは場繋ぎのための措置だそうです。今の状況では本来の方法で開催することは難しい。けれども、世論が待ちわびているのだから別の方法で開催し、本来のフェスまで繋げようという趣旨だそうです」
ケイの問いに淀みなく坂元が答える。
「各ホール観客は出演者と関係者のみ、実質は無観客ライブとなります。代わりに大手配信会社数社と契約し、チケット制の生配信を行うそうです。これにより現地に行かなくてもフェスに参加することができるため、視聴者はかなりの数が見込まれます。また、参加アーティストの中継参加も受け付けるということですので、かなりのアーティストが無理なく参加できることになりますね」
「あれまぁ、それなら元のフェスよりも豪華になるじゃん。現地開催する意味ってあるの?」
「元のフェスとの辻褄合わせにしか見えねーな。華崎の考えそうなことだ」
セイジとリュウヤが呆れ半分、してやられた感半分にため息まじりに呟くと、マルが重い口を開く。
「リュウさん、大森さんは何と言ってるんですか?」
「わからん。連絡がつかねーんだ」
すると高槻が言った。
「大森くんも今対応に追われているだろうからね。だが、今回のフェスはどの事務所にとってもメリットが大きい。うちやV−bexくらい大きいところでもコロナ禍による打撃はかなりのものだ。個人事務所だの小さいところは廃業か借金地獄で火の車になっているところも多い。華崎の提案は我々にとっても渡りに船。それに華崎のことだ、筋は通して了承を得ているだろう。さて、そこでだ」
高槻が手を組み合わせると身体を起こし、メンバー一人一人と視線を合わせながら重々しく話し出した。
「RYU-SAYとしては思うところも大きいだろうが君達にも大人の対応を願いたい。今回のメテオシャワーフェスに出演してもらう」
「断る。出る義理はねーな。大体名前は同じだがロゴからして違うじゃねーか。祐介のは英語表記だが鮎美のはカタカナだ。どう考えたって別物だろうが」
「だが君達の拡散しているタグは同じカタカナ表記だろう。元はといえば君達が撒いた種だとも言える。ならば言い換えよう。これは業務命令だ。フェスに出演するように。坂元、水野。後はたのむ」
言いたいことだけ言い放つと高槻は席を立ち、会議室から立ち去っていった。残されたRYU-SAYメンバーは重苦しい空気に包まれる。
「馬鹿馬鹿しいが、あたしらには出る選択肢しかないみたいだね」
ケイはため息を吐きながらそう言うとリュウヤを見た。リュウヤは苦虫を噛み潰したような顔で黙りこくっている。一本気なところのある彼にとっては受け入れがたい提案だろう。
「リュウさん、命令じゃ仕方ないよ。フェス開催までにやんなきゃいけないことからやっちまおう。例の新曲は間に合いそうかい?」
「あれは出さねえ。今回のような紛い物に出すつもりなぞない」
「……そう言うとは思ってたよ。坂元サン、何か言うことあるかい?」
箸にも棒にもかからないリュウヤを持て余し気味にセイジから話を振られた坂元は言った。
「リュウヤさん、業務命令だからというだけでなく、SNSで名前を拡散していた以上出演しないわけにはいきません。けれど、逆に言えば出演さえすれば義理は果たせるとも言えますよ」
「坂元っちゃん、どういう意味だい?」
ケイが疑問を口にすると、シンがピンときたように手を打つと言った。
「なーる。坂元サンやるねー。ようは出演さえしてれば文句は言われない。つまり、歌えとまでは言われてないってことね。リュウさん、フェスには出ても歌いたくなきゃ歌わなきゃいいってことだ」
「シン、そりゃどういう意味だ?」
リュウヤも意味がわからずそう聞き返す。
「言葉の通りですよ。RYU-SAYとして出演はしなくちゃならないけど、要は出さえしていれば文句は言わない、と坂元サンは言ってるんです。どんな形で出るかは俺達に任せるってことですよね」
マルがそう説明すると、坂元と水野も頷いた。水野が言う。
「私と水野も今回のV-bexの提案は鳶に横から餌を拐われたようで、それでいて厚顔にも出演を依頼してくるのだから納得ずくで受けている訳ではありません。ですがここでRYU-SAYが全く関わらなければ本来のフェス開催にも泥がつくかも知れません。そこでフェスには出場するけれど、本来のグループとして参加する必要はないと思います。たとえばバックバンドとして参加し、リュウヤさんは司会やコメンテーターとして出演する、といった参加の仕方でも出演したことにはなるでしょう」
水野の提案に全員が頷く。セイジがリュウヤに水を向けた。
「リュウさん、これならどうだい?」
「茶を濁すようなやり方は好きじゃねーが、出ねーって選択肢を潰されている以上それしかねーか。だが司会なんぞやったことねーことを振られてもな」
そう言って頭を掻くリュウヤに坂元が言った。
「その辺りは直接華崎社長と相談されてはいかがですか。この後リュウヤさんに華崎社長からの面会依頼が来ています」
全員が口をあんぐりと開けたのは言うまでもない。
次回、華崎鮎美はリュウヤに何を話すのか?
華崎鮎美はいでっち51号様の「歌う蟲ケラ」よりお借りしています。あちらをお読みの方は展開の想像がつくかも。
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それではまた二週間後にお会いしましょう!