15 星は留まる4
ゴールデンウィークを過ぎても仕事のオファーが来ることはなかった。新曲のレコーディングすら出来ずにいる。シンは回復したが、マルは退院後も自宅療養を続けていた。手足に痺れが残り、回復のためセルフマッサージやリハビリを続けているらしい。
リュウヤ達は事務所の勧めもあり、マネージャーも含めたグループラインを設け、そこで打ち合わせをするようになった。と言っても、健康確認と自宅待機を続けるようにという事務連絡くらいしかやり取りをすることはない。それでも孤独を感じなくはなってきたのでSNSも捨てたものじゃないとリュウヤも気付きつつあった。
祐介、壱星、リュウヤの家飲み会はあれからも月に一度くらいのペースで行われた。多くは祐介の愚痴に付き合うばかりであったが、時折フェスの話題も口に上った。来年の開催に向けてのタイムスケジュールの打ち合わせ、札幌近辺での小ホールの検討。……だが、具体的なことは何も動き出せずにいた。相変わらず首都圏は緊急事態宣言下にあり、発足したばかりの実行委員会は初回の顔合わせ以降会議すら持てない状況が続いていた。
リュウヤは晴香に教えてもらいながら動画を撮っていた。凝ったことは出来ないので、流し撮りでアコースティックギターに合わせて歌っているところを撮るだけだが、持ち歌だけでなくネットで話題の曲なども歌ってみた。いくつか撮りためたところで坂元に相談してみた。
「いいですね。今事務所でもRYU-SAYの公式チャンネルを作って過去のライブ映像を提供する話を進めています。新しいコンテンツはこちらとしても欲しかったところです。映像を送ってもらえばこちらで編集して組み込みましょう」
こうしてあっという間に公式チャンネルが開設され、過去ライブの配信とリュウヤのソロライブ映像が配信されることとなった。持ち歌はセイジやシンがギターに合わせてアレンジを加えた映像とミキシングして配信された。チャンネル登録者数は今のところうなぎ上りだそうだ。
リュウヤは晴香のすすめもあり、ツイッターアカウントも開設。公式アカウントも同時に開設され、配信の宣伝などを呟くようになった。瞬く間にファンから多くの励ましや応援のコメントが書き込まれるようになり、リュウヤ自身も自信を取り戻していった。
その頃、各地のライブハウスが営業の危機にあるというニュースが流れ始めており、祐介からある提案が持ちかけられた。
「無観客ライブ?」
「えぇ、以前から候補に上げていたMOON HALLなんですけど、札幌近郊にあってキャパ的にも手頃な場所なんですけどね、ここ最近の他聞に漏れずかなり経営が逼迫してるそうなんですよ。無観客ならばあのHALLを使って配信でチケット売ることになるんでコスパもいいなーって思ってるんですけど、どうでしょう? フェスの宣伝にもなるって思うんですよねー」
「って、北海道まで行けるのか?」
「そこらへんは既に規制緩和されてるんで大丈夫でしょう。リュウさん達の移動は僕のプライベートジェット出しますんで」
こうしてRYU-SAY初の無観客ライブが実施されることになった。ようやく復帰したマルも加わり、メンバー全員が出発間際にPCR検査も受け、久しぶりに北海道の地へと降りた。飛行機内、移動のバス中は終始無言でマスクをするという厳重な警戒をしながらの移動は重々しい空気も共に運ぶことになったが、久しぶりにライブが出来る喜びはどのメンバーの顔にも浮かんでいた。
「……なんつーか、やっぱり味気ねーな」
「客席からの反応がないと、盛り上がってくれてるかわかんなくてやりづらいですよね」
「俺はいつも通り、かな」
「とにかくこんな中でもライブ出来ただけありがたいですよ」
「確かに味気ないっちゃそうかもしれないけど、久しぶりに演奏出来て楽しかったよ。子どもの相手くらいしかすることなかったからね」
ソーシャルディスタンス、三密を避けるためということで打ち上げもない。アクリル板越しに簡単なつまみとノンアルの飲み物でささやかな会を開いていた。
「それにしてもあの演出はびっくりしましたね」
「俺も知らされてなかったぞ」
「祐介サンの粋なはからいってやつっしょ」
「フェスの宣伝兼ねてるって言ってたから何かあるとは思ってたけどね」
「あれでセッションとかやれたらもっと盛り上がるんすけどね」
メンバー達が話しているのは、ライブ中に応援メッセージとしてバックスクリーンに映し出されたRiser☆sからのビデオレターのことだ。途中でMeteorShowerFes.の宣伝映像が流れると聞かされていたのだが、その宣伝をRiser☆s全員でRYU-SAYへの応援メッセージとともに披露されたのだ。
思わずライブ中に、
「聞いてねーぞ」
とリュウヤが呟くくらいに全員が驚いたのだった。その時坂元がマスク姿で控室に現れた。
「皆様、久しぶりのライブお疲れ様でした。反響がすごいことになっていますよ。コメントが続々つけられています」
三週間ぶりの投稿です。
RYU-SAY初の無観客ライブ、サプライズゲストの登場で大いに湧いたようです。