14 星は留まる3
家飲み会を始めるまでです。
自宅に戻ったリュウヤは美奈代に深々と頭を下げて許しをもらい、すごすごと自室へと戻ってきた。スタジオにいる間に、転がっていた酒瓶や空き缶は綺麗に姿を消し、すっきりとした部屋に戻っている。ワインクーラーには「飲み過ぎ厳禁!」と大きく書かれた紙がでかでかと貼ってあった。
他にすることもないのでとりあえず祐介のメールを見ながらノートパソコンを起動させ、指定されたアイコンを探すが、見当たらない。ノートパソコンを持ってはいても、検索をしたり、ユーチューブを観ること以外ではメールを読んだことくらいしかない。見たこともないアプリなど、どうしていいかなどわかるはずがない。仕方なくリュウヤはのそのそと部屋を出て息子の大輝の部屋の扉をノックした。
「はい……え、親父?」
「ちょっと教えてくれないか」
事情を聞いた大輝は快くセットアップしてくれた。
「なるほどね、zoomを使って飲み会か。確かにそれならば集まらなくても出来るよね。このアプリは授業でもよく使うから。ほら、ここにこの数字を打ち込むんだよ。それから飲み会ならお互いの顔を見ながらになるよね、だとするとコレとこのボタンを使って……」
一通り説明してくれた後で、
「そういえば親父は動画のアップとかTwitterはやらないの?」
と不思議そうに聞かれ、
「使ったことがねぇからわからん」
と答えると、
「ああー親父、パソコンとかあんまり触ってないのか。そうだよな、いつもスタジオとかライブ配信とかって事務所でやってもらってたんだよね。でも今さ、芸能人って結構配信やTwitterやってる人多いんだぜ。さすがにTikTokは親父に向かないだろうけど……」
「すまん、さっぱりわからん」
頭をかくリュウヤに大輝は苦笑すると、
「うん、そっち関係は俺より春香の方が詳しいかな。俺から春香に頼んでみようか?」
「……頼む」
「その様子じゃ、最近流行ってる動画とかも見てないだろ? ほら、今こういうのが流行ってるんだよ」
そう言って大輝はいくつかのユーチューブの動画を教えてくれた。
「親父のスマホで撮った動画でも簡単にアップ出来るからさ、とりあえずこういうの自撮りしてみたら? アップする時は春香に聞けばいいよ」
大輝が部屋に戻っていくと、リュウヤは教えられた動画をいくつか見てみることにした。
「……なるほどな」
感心しているとドアをノックする音がして、今度は春香が入ってきた。
「父さん、お兄ちゃんから聞いたけど配信始めたいの?」
「すまん、春香。俺にはさっぱりわからん。教えてくれないか?」
「動画を撮るのは簡単だけど、何をどうしたいの? ちゃんとした配信するなら機材がいるけど、短くていいならスマホでも出来るよ」
こうしてリュウヤは大輝と春香という強力な助っ人のおかげで新しい扉を開き始めた。二人にもらった武器はコロナ禍において非常に有効なツールとして機能し始めていくことになる。
リュウヤが試行錯誤を始めて数日後の夜、祐介のセッティングした家飲み回の日がやってきた。勝手がわからないままに、とりあえず缶ビールとお気に入りのワイン、簡単なつまみを用意し、春香や大輝の手を借りてログインしてみた。画面にデカデカと祐介が映り、小窓に壱星と自分の顔が映っている。
「キャー! ええ、壱星さん? 嘘、本当に?」
途端に晴香が黄色い声を上げた。さすが女子高生、目敏い。
「こんばんは。リュウさんの娘さん?」
「は、晴香です!」
「そっか。晴香ちゃん、こんばんは。Riser☆sの壱星です。よろしくね。それからそちらは?」
「あ、大輝です。はじめまして」
「大輝くんもはじめまして。ひょっとしてリュウさんのお手伝いかな」
「そうです。親父、パソコンのこと全然わかんなかったみたいで」
「ねー、言った通りでしょう? 大輝くんや晴香ちゃんのおかげでリュウさんと飲み会が出来るね。二人ともあっりがとー」
その時大輝がコッソリとリュウヤに耳打ちした。
「親父、この人誰だっけ? 見たことある気はするんだけど」
「ココハナの社長の大森 祐介だ」
リュウヤと大輝がコソコソ話している間、晴香は壱星を大映しにし、画面に釘付けになっていた。壱星も営業スマイルで答えている。すると祐介が、
「大輝くーん、リュウさんに画面設定のやり方教えてあげてー。どうせ僕ちっちゃくしか映ってないよね??」
「はい」
大輝に教えてもらい、ウインドウに等間隔に三人の映像が並ぶと、
「じゃあ、晴香ちゃん、大輝くん、ありがとう。祐介さん、そろそろ始める?」
「うんうん、二人ともあっりがとー! きっとこれからもちょくちょくこんな飲み会するからさ、その時はまたよろしくねー」
晴香が名残惜しげに、大輝が頭を下げて出ていくと、三人で初の家飲み会が始まった。
お互いの近況報告から始まったこの久しぶりの会合で、リュウヤは改めて現状を知り、段々と難しい顔になっていった。
── こりゃあ、簡単には戻らねーんじゃないか?
特に祐介の愚痴混じりの報告はいつも通り鬱陶しい面もあったが、芸能界という狭い世界しか見ていなかった自分の認識を開かれた気分だった。それは壱星も同じだったようで、いつもは苦笑混じりに聞き流す祐介の話を真面目な顔で聞いている場面がよく見られた。
── 俺は、俺たちは、これからどうやって行くか本気で考えねぇとな……。
第一回の家飲み会をそれなりに楽しみながら、リュウヤは自分だけでなくメンバーの今後の活動までも視野に入れて見通しを立てねばならないと改めて気持ちを強くするのだった。
「流星群になろうぜっ!」をお読みいただきありがとうございます。2023年最後の更新となりました。
……やっぱり終わらなかった(笑)
来年も気長にお楽しみいただければと思います。次回更新は三週間後とさせていただきます。
来年もよろしくお願いいたします。