12 星は留まる 1
いよいよフェスが動き出します! ……が。
「夏にやるんだからサマーフェスでいいんじゃじゃねーのか?」
「そんなありきたりの名前じゃぁつまらないじゃないですか! せっかくアイドルとロックのコラボフェスなんですよ? もっとカッコ良くて、こう、何ていうかー」
「心に残るような、それでいて一度目にしたら忘れられないような名前がいいですね。前代未聞の超大型フェスにふさわしい」
「そう! そんなビッグネームを是非!」
黙って聞いていた壱星がそう言うと、食い気味に祐介が乗っかる。
「リュウさん、何か考えてくださいよー。前代未聞のビッグネーム!」
「んなこといきなり言われてもな、俺はそういうの得意じゃねえんだよ。セイジならいいのを思いつくんじゃねーか?」
「そうですね、夏っぽい名前がいいですよね……」
リュウヤが、けんもほろろに一蹴する横で壱星が何やらぶつぶつと呟きだす。
「アイドルとロックのコラボフェス、『アイドルロックフェス』じゃ、アイドルがロックするみたいだし、歌手フェスじゃジャンルが広がりすぎるし……なかなか難しいですね」
顎に手を添え、考え込む壱星に、
「スターフェスはどうだ? アイドルもロッカーも名が売れてくりゃあスターって言われるだろう」
そうリュウヤが水を向けると祐介が渋い顔をする。
「スターフェスですか……。いい感じですがもう少し華が欲しい気もしますねー。大大的な、未だかつてない大きなフェスにしたいんですよ……スター、星……そうだ、コメットフェスはどうです?」
途端に今度はリュウヤが苦い顔に。
「それじゃぁ俺らのフェスみてえじゃねえか。俺らRYU-SAYやRiser☆sを連想させるような名前は避けた方がいい」
「ですよねー」
しょんぼりと肩を落とす祐介。大きくため息を吐きリュウヤも絞り出す。
「むぅ……そうだな、スターが集まるフェス、星の集まるフェスだからな、銀河フェス、ギャラクシーフェスとかはどうだ?」
「えー。なんだか昭和の香りがしますー」
「やめろ、キモい! だから俺にゃ無理だって言っただろうが!」
両手を頬に当てて体をくねらせる祐介に冷たい視線を浴びせ、リュウヤはどかっとソファーにもたれかかった。
「あー、無理だ、無理!」
「壱星くーん、なんとかしてくださいよー」
体をくねらせながら目をパチパチと瞬かせ、壱星に期待の眼差しを向ける祐介に、若干身体を引きながらなおも考え込む壱星。
「……あ」
「なんかいいのあった!?」
「お、壱星、いいアイデア浮かんだか?」
食い気味に聞く祐介と面白そうに聞くリュウヤに、少し自信なさそうにしながら壱星は言った。
「流星群はどうでしょう?」
「流星群?」
「えー、なんだか語呂が悪くないですか?」
唇を尖らせる祐介に壱星が続ける。
「えっとですね、フェスに参加する一人一人が大きな輝きを持つ星だとして、一夜に星が集まり大きな輝きを放つのがフェスだとすると。それって流星群みたいだな、と思ったんです」
「それで?」
「はい、流星群って実はいくつもあるんですけど夏の夜にも大きな流星群が見られるらしいんですよ、クイズ会の受け売りですが。本物の流星群と豪華アーティストの一夜の饗宴であるフェスをかけて」
それを聞いて祐介ががっくりと頭を落とし、頭をかく。
「だからさー、流星群フェスってなんか響きが良くなくないですか?」
「流星群って、英語ではMeteor Showerって言うんです」
するとリュウヤが面白そうに言った。
「なるほど、Meteor Shower Fes.か。いいじゃねーか」
すると突然祐介が立ち上がった。
「それ! それですよ壱星くん! そういうのが欲しかったんです!」
「んじゃ、決まりだな」
こうして北海道で開催される前代未聞のフェスの名前はMeteor Shower Fes.に決定した。
後に、大勢の報道陣を集めた会場で、「Meteor Shower Fes. 」の、開催が大々的に発表されることとなった。その席にはサポーターとしてリュウヤと壱星の姿があった。アイドル部門のサポーターとしてRiser☆s、ロック部門のサポーターとしてRYU-SAYが名を連ね、その代表と発起人として壱星とリュウヤの名前が報道される。
── なんだかとんでもないことになっちまったが、これはいわば真夏の一夜の夢だ。ならばせいぜい楽しませてもらおうじゃないか。
報道陣の前で壱星と二人ポーズを取りながらリュウヤはそんなふうに軽い気持ちで考えていた。
だが、事態は思わぬ方向に向かう。報道発表から一月もたたないうちに、世界を揺るがす災害が猛威を奮い始めた。海外との渡航に制限がかかり、RYU-SAYたちもワールドツアーを延期せざるをえなくなった。
当初、関係者たちは長くても数週間で解除されるだろうと事態を甘く見ていた。だが、日本中の人々が不安を抱える中、事態は日を置かずにどんどん深刻さを増していく。ついには日本全土に「非常事態宣言」が出される。RYU-SAYたち芸能人もライブ活動どころかテレビ出演も取りやめとなり、スタジオでの練習すらもままならない状況へと、刻一刻と制限がかけられるようになっていく。
報道では日々感染者と死亡者の増加が報じられ。
未曾有の大災害、コロナ禍の到来であった。
コロナ禍到来しました。
コロナ感染により亡くなられた多くの方々の御冥福を心よりお祈りいたします。
二週間後、フェスは動き出すのか!?
またお会いしましょう。